内航未来創造プラン ~たくましく 日本を支え 進化する~

平成29年6月30日、以下の報告書が、発表されました。

内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会:『内航未来創造プラン ~たくましく 日本を支え 進化する~』,平成29年6月

目次

はじめに…………………………………………………………………………..1

Ⅰ.内航海運の現状 ……………………………………………………………. 3
1.内航海運の果たしている役割……………………………………………… 3
2.近年の内航海運に関する諸状況の変化…………………………………… 4
(1) 輸送需要………………………………………………………………………4
(2) 事業者の経営状況等………………………………………………………….5

(3) 船腹量・船齢構成等 …………………………………………………………5
(4) 船員数・年齢構成…………………………………………………………….6
(5) 事故件数……………………………………………………………………….7
(6) 船舶の燃料油に含まれる硫黄分の濃度規制………………………………..7
3.内航海運事業者の現下の状況………………………………………………. 7
(1) 内航海運事業者数等…………………………………………………………..7
(2) 寡占化された荷主企業の下での専属化・系列化の構造…………………….8
(3) 収支構造 ………………………………………………………………………8
(4) 内航海運業に従事する船舶・船員……………………………………………9
(5) 船舶管理会社の活用…………………………………………………………..9
4.今後の輸送需要の見込み…………………………………………………….10
Ⅱ.内航海運の目指すべき将来像と今後の内航海運政策の基本的な方向性等…11
1.内航海運の課題等………………………………………………………………11
(1) 事業経営……………………………………………………………………….. 11
(2) 船舶建造……………………………………………………………………….. 12
(3) 船員の確保・育成……………………………………………………………… 12
(4) モーダルシフトの推進………………………………………………………… 14
(5) 船舶の燃料油に含まれる硫黄分の濃度規制への対応……………………….. 14
(6) その他内航海運事業者が課題として挙げる事項等………………………….. 14
2.内航海運の目指すべき将来像と今後の内航海運政策の方向性……………….15
(1) 今後概ね10年を見据えて内航海運の目指すべき将来像 ………………….. 15
(2) 今後の内航海運政策の方向性…………………………………………………. 16
(3) 施策の効果の検証・評価のための指標の設定について …………………….. 21
Ⅲ.今後取り組むべき具体的施策等…………………………………………………24
1.内航海運事業者の事業基盤の強化……………………………………………..24
(1) 船舶管理会社の活用促進(「国土交通大臣登録船舶管理事業者」(仮称)登録制度
の創設)……………………………………………………………………………… 24
(2) 荷主企業・内航海運事業者等間の連携による取組強化(「安定・効率輸送協議会」
(仮称)の設置) …………………………………………………………………… 25
(3) 新たな輸送需要の掘り起こし(「海運モーダルシフト推進協議会」(仮称)の設置、モ
ーダルシフト船の運航情報等一括検索システムの構築)………………………… 26
(4) 港湾インフラの改善・港湾における物流ネットワーク機能の強化等……….. 28
2.先進的な船舶等の開発・普及……………………………………………………29
(1) IoT技術を活用した船舶の開発・普及(内航分野の i-Shipping の具体化)…. 29
(2) 円滑な代替建造の支援………………………………………………………….. 31
(3) 船舶の省エネ化・省CO2化の推進(内航船「省エネ格付け」制度の創設・普及、代
替燃料の普及促進に向けた取組)………………………………………………….. 32
(4) 造船業の生産性向上…………………………………………………………….. 34
3.船員の安定的・効果的な確保・育成…………………………………………….36
(1) 高等海技教育の実現に向けた船員教育体制の抜本的改革…………………….. 36
(2) 船員のための魅力ある職場づくり………………………………………………. 38
(3) 働き方改革による生産性向上……………………………………………………. 45
4.その他の課題への対応…………………………………………………………….48
(1) 内航海運暫定措置事業の現状と今後の見通し等を踏まえた対応……………… 48
(2) 船舶の燃料油に含まれる硫黄分の濃度規制への対応………………………….. 49
(3) 海事思想の普及…………………………………………………………………… 50
おわりに………………………………………………………………………………..52

はじめに
四面を海に囲まれた我が国において、古より海上輸送が国民生活や経済活動に不可欠の存在であることは論を待たない。
現在においても、我が国の貿易の99.6%、国内物流の44%(トンキロベース)を支える海上輸送なくして生活の安定や経済の成長は成しえない。
国内物流を担う我が国内航海運は、江戸時代の「北前船」をはじめとする廻船業に始まり、戦前~戦後は当時の主要エネルギーであった石炭輸送を担い、高度経済成長期以降は、鉄鋼、石油製品、セメント、石油化学製品等の産業基礎物資輸送の主力となってきた。また雑貨輸送においても、トラックから船舶や鉄道への転換を進める「モーダルシフト」の6割を占めている。
こうした内航海運の社会的役割の大きさの一方で、中小零細事業者が大多数を占める業界構造であること、貨物の大部分である産業基礎物資は景気の変動による輸送需要への影響が大きいこと等のため、内航海運業は構造的に船腹過剰・過当競争の傾向にあった。戦後の石炭から石油へのエネルギー転換に伴う船腹過剰等への対策として、昭和41年から平成10年まで33年間にわたり船腹調整事業が実施された。この船腹調整事業も運輸事業の需給調整規制撤廃方針により解消され、現在は平成10年4月から船腹調整事業の解消に伴うソフトランディング策として開始された「内航海運暫定措置事業(以下「暫定措置事業」という。)」が実施され
ているところである。
暫定措置事業開始後の内航海運に関する産業政策としては、平成14年4月に「次世代内航海運ビジョン」がとりまとめられた。同ビジョンでは、内航海運は「健全かつ自由な事業活動を促す市場環境の整備」と「効率的で安全かつ環境に優しい輸送サービスの構築」を目指すべきとされ、オペレーター、オーナーの事業区分の廃止等(内航海運業法改正)、船員派遣業の許可制の導入(船員職業安定法改正)、次世代内航船(スーパーエコシップ)や高度船舶安全管理システムの開発・普及等の施策が実施されてきた。
同ビジョンに基づく改正内航海運業法の施行から10年余が経過する中、内航海運業を取り巻く社会経済状況には様々な変化が見られ、これとともに内航海運事業者においても、いわゆる一杯船主は大幅に減少、家族・親族船員による経営も少数にとどまるなど、伝統的な有り様から大きく変容を遂げつつある。
一方で、船舶と船員の2つの高齢化、中小企業が99.6%を占める脆弱な経営基盤への対応等、継続して存在する様々な構造的課題への対応も必要となっている。

*****1*****

今後、中長期を見据えれば、我が国の直面する人口減少、少子高齢化、国際競争の進展等の中で、従来内航海運が大宗を担ってきた産業基礎物資の輸送が今後大きく伸びることは期待されない。このため、内航海運が安全・良質な輸送サービスを持続的に提供できる産業として我が国の社会・経済を支え続けていくためには、これまで以上に効率的な輸送を目指し、事業基盤を強化すること等を通じて、厳しい輸送環境の中でも安定的な輸送サービスを持続的に担い得る「たくましい」産業へと進化し、内航海運の未来を切り拓いていくことが求められる。
本検討会は、このような現状分析や問題意識の下、内航海運を巡る諸課題について関係者間で議論すべきとの提言(交通政策審議会海事分科会基本政策部会とりまとめ(平成27年7月))や、社会全体における生産性向上の要請を踏まえ、内航海運が目指すべき将来像について、幅広い関係者で検討を行うため28年4月に設置された。本年6月まで8回にわたり議論を重ねる中、今後概ね10年間を見据えて内航海運が目指すべき将来像を提示するにとどまらず、内航海運の現在抱える課題の大きさも踏まえ、目指すべき将来像の実現のために必要な取組についても、事業運営、船員、船舶、港湾といった海事関係分野全般において具体的施策まで踏み込んだ検討を行ってきた。今般、この検討の成果を「内航未来創造プラン」としてとりまとめたものである。
*****2*****

Ⅰ.内航海運の現状
1.内航海運の果たしている役割

・・・・・
*****3*****

2.近年の内航海運に関する諸状況の変化
「次世代内航海運ビジョン」(平成14年4月)に基づく改正内航海運業法等が施行された平成17年から27年までの約10年間において、内航海運を巡る社会経済状況や内航海運事業の経営状況等に関する主要な変化は以下のとおりである。
(1) 輸送需要

・・・

*****4*****

(2) 事業者の経営状況等
① 事業者数

・・・

② 事業者の経営状況

・・・

③ 船舶管理会社の活用状況

・ 船舶管理会社については、事業基盤の強化に有効な手段として、国において、近年、ガイドライン等を順次整備しその活用を推奨してきている。しかしながら、船舶管理会社数自体は、平成18年4月時点の8者(特定非営利活動法人日本船舶管理者協会(平成18年4月に設立された内航海運事業者、船舶管理会社、海事関係団体等からなる船舶管理の必要性のPR、調査研究事業等を行う組織)の加盟事業者数)が28年4月時点で39者へと一定程度増加しているものの、さらなる増加の余地があるところである。

(3) 船腹量・船齢構成等
① 内航海運の船腹量

・・・
*****5*****

・・・

② 事業者の保有船腹量

・・・

③ 船齢構成等

・・・

(4) 船員数・年齢構成

・ 内航海運に携わる船員の数は、21,768人から20,258人へと約10年間で7%減少している。・・・
*****6*****

・・・

(5) 事故件数
・ 内航海運の事故件数については、約10年間で24.3%減少しており、安全に係る取組の進展もあり、船舶の隻数の減少傾向(16%減少)以上に事故の減少率が大きくなっている。

(6) 船舶の燃料油に含まれる硫黄分の濃度規制

・・・

3.内航海運事業者の現下の状況
「内航海運事業者に対する経営実態調査」(平成28年9月実施。休止事業者を除く全内航海運事業者(3,040者)中29.8%にあたる906者より回答)の調査結果等を踏まえ、内航海運事業者の現下の状況については、以下のとおり整理される。
(1) 内航海運事業者数等

・・・
*****7*****

・・・

(2) 寡占化された荷主企業の下での専属化・系列化の構造

・・・産業基礎物資に関する荷主企業においては、国内市場の縮小、国際競争の進展等を背景とした企業間の経営統合等により、寡占化が一層進行してきている状況にある。

(3) 収支構造

・・・船舶の運航に関して固定的に必要となる費用の割合が高い一方で、事業者の自助努力のみでは輸送する貨物を増やす(収入を増加させる)ことは難しい収支構造となっている。

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・・・オーナーについてみると、・・・薄い利益しか上げられていない。その一方で、・・・「低い収益性」と「過大な投資」という矛盾した事業環境に置かれている。

(4) 内航海運業に従事する船舶・船員

・・・内航海運事業者の7割は、雇用している全ての船員を家族・親族以外の者でまかなっており、いわゆる一杯船主(船舶を1隻のみ保有するオーナー)についてみても、雇用している全ての船員を家族・親族以外の者でまかなっている割合は5割に達している。・・・かつての家族経営的な事業形態(昭和40年代半ばにはオーナーの9割程度が一杯船主であり、そのほとんどが家族経営的な形態であった)は少なくなってきている。

(5) 船舶管理会社の活用

・ 船舶管理会社の活用は、集約的な船舶管理による効率性の向上や船員の安定的確保の実現により事業者の事業基盤の強化に寄与するものである。所有船舶の一部または全部について船舶管理契約を締結しているとする事業者は全体の約4割と相当数存在しており、このうち、船舶の保守管理・船員の配乗管理・運航管理のいわゆる「フル管理」契約を締結している者と一部の業務のみに係る「一部管理」契約を締結している者はそれぞれ半数ずつとなっている。

・ 一方で、船舶管理会社の活用促進による事業基盤の強化については、小規模な事業者について特に大きな効果が期待されるが、船舶を1隻所有する事業者においては船舶管理契約(フル管理)を締結している者が1割程度にとどまるなど、その活用は十分に進んでいない。
*****9*****

4.今後の輸送需要の見込み

・・・内航海運の輸送需要はこれら産業基礎物資の輸送が大宗を占めているため、今後の内航貨物輸送量も同様に減少ないし横ばいの傾向となるものと見込まれる。
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Ⅱ.内航海運の目指すべき将来像と今後の内航海運政策の基本的な方向性等

1.内航海運の課題等

現下の内航海運に係る課題については、「内航海運事業者に対する経営実態調査」の結果や、検討会における委員の意見を踏まえ、概ね以下のとおりである。

(1) 事業経営

① 事業の継続性

・・・船員を継続的に確保していくことが出来るかどうかが事業継続上の最大の課題となっている。・・・これに次ぐ課題としては、「将来の見通しが不透明」、「船舶の建造・修繕に係る資金確保が困難」等となっている。

② 荷主企業-オペレーター-オーナー間の交渉

・ オペレーターと荷主企業との運賃交渉については、・・・オペレーターからみれば交渉の結果が十分に運賃に反映されていない状況にある。

・ また、オペレーターとオーナーとの用船料交渉については、・・・交渉の課題として「オペレーターとの立場上強く主張しにくい」点をあげるオーナーが半数を超えている。

・ 荷主企業−オペレーター−オーナーの専属化・系列化が固定化している業界構造の中で、個々の運送契約や用船契約に係る交渉だけでなく、内航海運における船舶や船員の高齢化、生産性の向上、安全・環境面での対応等の課題を内航海運事業者、荷主企業等が連携して解決していくための新たな取組を検討する必要がある。

*****11*****

③ 船舶管理会社の活用
・ 船舶管理会社については、その活用促進により特に小規模事業者の業務の効率化による事業基盤の強化が期待されるところ、先述のとおり、船舶1隻のみを所有する事業者をはじめ小規模事業者による活用は未だ十分に進んでおらず、さらなる効果的な取組の強化が課題である。

・ 船舶管理会社を活用しない理由としては、「利用するメリットがない」、「管理レベルが不安」、「事故の責任の所在が不明確」等を挙げる事業者が多数であり、船舶管理会社に係る法的な位置づけ・制度が整備されていないことを背景に船舶管理会社に対する具体的な情報の不足、船舶管理会社の品質について統一的な評価がなされていないことが課題と考えられる。

(2) 船舶建造

・・・安全な輸送サービスの安定的な供給の観点から、円滑な代替建造が急務となっている。

・・・船員確保が困難であることが代替建造の判断にあたっての最も大きな障害となっている。

・・・内航海運分野においても、情報通信技術等を活用した遠隔監視や陸上支援の実施等により、船舶の運航に係る船員の省力化や負担軽減を実現する先進船舶を開発・普及することが重要である。

(3) 船員の確保・育成

① 船員の不足状況

・・・50歳以上の船員が5割を超える「船員の高齢化」の状態・・・
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・・・6割の事業者は派遣船員や船舶管理会社の活用等により必要な船員を確保している状況にある。オペレーターにおいては、船員を確保出来ずに運航が出来なかったことがあるとする者も6.6%存在する。

・・・沿海区域の航行に必要な4級、5級の資格受有者であり、中でも機関部の船員が不足している・・・

② 船員養成の状況

・・・船員養成機関においては、現在の定員では船員の供給量に限界がある。

・・・船員の質の低下を懸念する声もあり、危険物等の輸送貨物の取り扱いに係る専門的技能など、量的充足のみならず船員教育の内容面においても専門的かつ高度な教育を実現することも課題である。

③ 船員確保の状況

・ 若年船員の確保・育成のためには、「船員の雇用条件(給与・報酬)の向上」、「船員の就労条件(乗船期間や休暇)の向上」、「船員の労働負荷低減(荷役作業の見直し等)」、「船員の居住・育成環境の改善(代替建造又は船舶改造等)」が必要とする事業者も多数となっており、まず、内航海運業をさらに魅力的な業界とするとともに、船員の待遇改善を図ることが課題である。
・ 船員の待遇改善については、荷役に係る付帯作業等の負担が重く、船員の労働環境改善を妨げており、荷役業務の役割分担の明確化や負担軽減が重要である。

・・・船員育成コストの負担や船員派遣事業への参入拡大等が課題となっている。
*****13*****

(4) モーダルシフトの推進

・・・今後さらなるモーダルシフトの推進が課題である。

・・・実際にモーダルシフトの実施の是非を判断する荷主企業や利用運送事業者等が船舶の利用を検討し難い状況にあることが課題である。・・・関係者へのモーダルシフトの意義やメリットのPRの強化による意識改革も重要である。

(5) 船舶の燃料油に含まれる硫黄分の濃度規制への対応

・ 船舶の燃料油規制については、・・・我が国も環境先進国として適切に対応していくことが必要である。

・ 一方で、本規制への対応方策としては、「低硫黄燃料油の使用」、「排気ガス洗浄装置(スクラバー)の使用」、「LNG 燃料等の使用」のいずれかによる必要があるところ、・・・等についての懸念・疑問点が表明されており、これらの解消に向けた取組を行うことが重要である。

(6) その他内航海運事業者が課題として挙げる事項等

・ 内航海運事業者が今後求める取組としては、・・・

① 新人船員を雇い入れるに当たっての助成金の充実、船員という職業のPR の強化、船員養成機関の定員拡大等の若年船員の確保育成支援

② 操舵設備の進歩を踏まえた最小定員規制の緩和等の船員法の規制緩和、海技資格取得に必要な乗船履歴の期間や船舶職員の乗組み基準等の船舶職員法の規制緩和、499総トン以下の船舶の船員居住区拡大に係るトン数制限の規制緩和

*****14*****

③ AI(人工知能)等の先進技術を活用した船舶等、優れた性能を有する船舶の開発・普及、設備投資を促す支援策の充実など、船舶の建造等に係る予算、税制特例措置等の支援充実等が挙げられている。

・ また、内航海運事業者が考える今後の内航海運の方向性としては、「安定的輸送の確保」、「安全性の向上」、「生産性向上」を挙げる意見が多数であった。

2.内航海運の目指すべき将来像と今後の内航海運政策の方向性

(1) 今後概ね10年を見据えて内航海運の目指すべき将来像

・・・目指すべき将来像(未来像)については、安全性の向上を大前提としつつ、「安定的輸送の確保」と「生産性向上」の2つを軸としていくべきである。

① 「安定的輸送の確保」

・・・産業基礎物資については、我が国における生産・流通に必要とされる輸送サービスを提供すること、また、産業基礎物資以外の貨物については、効率性が高く環境に優しい物流の実現を図るため、陸上輸送からのモーダルシフトを一層推進することを目指すべきである。

② 「生産性向上」

・・・船舶や船員等の内航海運の生産手段の能力を最大限発揮させ、輸送量を最大化することを目指すべきである。
*****15*****

(2) 今後の内航海運政策の方向性

・・・

① 「安定的輸送の確保」に向けた政策の方向性

a) 船舶管理会社の活用促進

・ 経営基盤の弱い中小事業者が大宗を占める内航海運業において、持続的に船舶の代替建造や船員確保を行い、安定的な輸送を確保していくためには、船舶管理会社の活用を促進することにより、船舶の保守管理、運航管理や船員の雇用といった管理業務について実質的な集約化を進め、事業の効率化や船員の安定的確保を通じて事業基盤自体の強化を図ることが有効である。

・ このため、船舶管理会社に対する具体的な情報の不足や統一的な評価がなされていない等の船舶管理会社の活用促進に係る課題に対応する必要がある。具体的には、船舶管理会社の法的位置づけを明らかにし、併せて、サービス水準の向上やそれに対する評価を行うことができるようにすることで、質の高いサービスを提供する船舶管理会社の設立を促進するとともに、内航海運事業者による活用を促進するための措置を講じることが必要である。

b) 荷主企業・内航海運事業者等間の連携による取組強化

・ 荷主企業、内航海運事業者といった立場の違いを超えて、安定的輸送を確保していくための船舶の代替建造、船員の確保・育成等については、内航海運全体における構造的課題である。このため、荷主企業・内航海運事業者の連携体制を構築し、これらの構造的課題等への対応に係る取組を強化することが必要である。
*****16*****

・ 例えば、船舶の代替建造については、荷主企業とオペレーターとの連携を強化し、船舶共同建造・共有化など、荷主企業・内航海運事業者が一体となった計画的な代替建造体制の構築や、代替建造に必要な情報の提供体制を整備することも考えられる。また、船員の確保・育成については、船員の付帯作業の運用ルールを明確化する等、荷主企業と内航海運事業者が連携して船員の労働環境整備を図るとともに、船員の確保・育成に必要な費用について内航海運に係る関係者全体で負担のあり方を検討すること等が考えられる。

c) 新たな輸送需要の掘り起こし

・・・モーダルシフトをより一層推進・・・

・・・社会的に広く認知させていくべきである。

・ このため、RORO船、コンテナ船、フェリー等の一括情報検索システムの構築を進め、荷主企業等が海上輸送を利用し易い環境を整備することが必要である。

d) 港湾インフラの改善・港湾における物流ネットワーク機能の強化等

・ 船舶の大型化の進展に対応しつつ、安定的な輸送が確保されるよう、港湾施設における岸壁の水深や長さを確保するとともに、桟橋の強度、港湾設備の老朽化・陳腐化への対応を図ることが必要である。
・ モーダルシフトの促進の観点からは、バックヤードの整備等への対応を進めることが必要である。

e) 円滑な船舶建造の支援

・ 安定的な輸送を確保するためには、老朽化した船舶をより効率の良い船舶へと代替建造することを促し、内航海運全体における船舶の高齢化状況の改善を進めることが必要である。
・ このため、長期安定資金を確保できる鉄道・運輸機構による船舶共有建造制度の維持・充実を図るとともに、代替建造促進のための各種支援制度の充実・利便性向上を図り、内航海運事業者による代替建造を促進することが必要である。
*****17*****

f) 高等海技教育の実現に向けた船員教育体制の抜本的改革

・・・、船員教育機関の定員増加を含めた就学人数の拡大を図り、新規に養成する船員の裾野を広げるとともに、より教育内容を充実させることが必要である。

g) 船員のための魅力ある職場づくり

・ 船員の内航海運への就業・定着を促進するためには、内航海運や船員という職業の魅力を向上させることが重要である。このため、船内の居住性(インターネット環境や食事)等船員の待遇改善を図り、若年船員の離職率を低下させるための方策を検討すべきである。
・ 船員居住空間が十分に確保できず育成の障壁となっている499総トン以下の船舶について、船員育成のために居住空間を拡大しても総トン数の増加による規制強化の影響を受けないこととする取り扱いを検討すべきである。
・ 船員として育成した人材を有効に活用するため、船員派遣業の財産要件の緩和や派遣期間の延長等により、船員の円滑かつ柔軟な融通を可能とすることが必要である。
・ 女性の活用を促進する視点から、海技資格を有する女性を積極的に活用するための船内環境等のハード・ソフトの環境整備を促進することが必要である。

② 「生産性向上」に向けた政策の方向性

a) 船舶管理会社の活用促進(再掲)

・ 経営基盤の弱い中小事業者が大宗を占める内航海運業において、持続的に船舶の代替建造や船員確保を行い、生産性向上を図るためには、船舶管理会社の活用を促進することにより、船舶の保守管理、運航管理や船員の雇用といった管理業務について実質的な集約化を進め、事業の効率化や船員の安定的確保を通じて事業基盤自体の強化を図ることが有効である。
*****18*****

・ このため、船舶管理会社に対する具体的な情報の不足や統一的な評価がなされていない等の船舶管理会社の活用促進に係る課題に対応する必要がある。具体的には、船舶管理会社の法的位置づけを明らかにし、併せて、サービス水準の向上やそれに対する評価を行うことができるようにすることで、質の高いサービスを提供する船舶管理会社の設立を促進するとともに、内航海運事業者による活用を促進するための措置を講じることが必要である。

b) 荷主企業・内航海運事業者等間の連携による取組強化(再掲)

・・・

c) 港湾インフラの改善・港湾における物流ネットワーク機能の強化等(再掲)

・・・

d) IoT技術を活用した船舶の開発・普及

・ 生産性向上のため、船舶の運航に係るあらゆる局面で必要となる人的作業を省力化することが必要である。
・ 陸上においては、自動車の自動運転の実現・普及に向けた取組が進められている中、内航海運分野においても、例えば、データ通信による陸上での遠隔操作等の陸側での監視・運航管理支援、自動船舶識別装置(AIS)とレーダーの連動や安全設備の開発、自動操舵・監視技術の開発・導入支援等最新のIoT(Internet of Things:あらゆるものがネットワークを通じて大規模に連動することで新たな価値が生まれること)技術を活用し、省力化に資する先進的な船舶等の開発・普及に取り組むことが必要である。
*****19*****

・ 将来の自動運航化のための技術開発を進めるに当たっては、甲板部の当直の体制を2人体制から1人体制にする、機関部に常駐する船員を減らす等、省力化のターゲットを明確化した上で、そのためにどのような技術開発が必要かを検討すべきである。なお、省力化の実現は、内航海運全体の生産性向上に資するのみならず、船員不足への対応に係る効果や、さらには船員の労働環境改善により、船員の確保にも寄与することが期待される。

e) 円滑な船舶建造の支援(再掲)

・・・

f) 船舶の省エネ化・省CO2化の推進

・・・

g) 働き方改革による生産性向上

・ これまでの船舶の機能向上や将来の自動運航化に向けた技術開発等、省力化に資する技術の進展を踏まえ、安全確保を前提とした上で、船舶職員法や船員法における船員の配乗や定員等の見直しが可能となるかを検討すべきである。
・ なお、技術の進展に伴い自動運航化した船舶においても、何らかの理由で船員による対応が求められる場面も発生すると考えられることから、自動運航システムの技術の発展していく過程において、船員の技量の維持にも留意することが必要である。
*****20*****

(3) 施策の効果の検証・評価のための指標の設定について

・・・「安定的輸送の確保」
及び「生産性向上」のそれぞれについて、以下のとおり指標を設定するべきである。

・ また、指標の達成状況や、これを踏まえた指標自体の評価等の各施策の取組状況の定期的な確認や必要な改善を行うことが重要である。この方法については、例えば、国が関係者の協力を得て関係情報を収集して公表することとする、あるいは本検討会の委員メンバーによる一定期間毎の本プランの進捗状況の評価を行うこととする等、適切に対応していくことが適当である。

① 「安定的輸送の確保」に係る指標について

・・・安定的輸送の確保に係る施策の効果を評価するため、産業基礎物資と産業基礎物資以外のモーダルシフト貨物のそれぞれに関し、以下のとおり指標を設定する。

a) 「産業基礎物資の国内需要量に対する内航海運の輸送量の割合」

・・・内航海運の輸送量(トンベース)を産業基礎物資の国内需要量(トンベース)で除した数値について、平成23年度から27年度までの5年間の平均値を基準値(100)として、37年度の目標値をその5%増(105)と設定し、本プランに基づく各種施策を講じること等により達成を目指す。
*****21*****

b) 「海運によるモーダルシフト貨物輸送量」

・・・「地球温暖化対策計画」(平成28年5月13日閣議決定)において、海運を利用したモーダルシフト貨物輸送量を24年度の実績値である333億トンキロを42年度までに410億トンキロとする目標が設定されているため、これと同じ目標値を設定し、本プランに基づく各種施策を講じること等により達成を目指す。

② 「生産性向上」に係る指標について

・・・生産性向上に係る施策の効果を検証するため、船舶と船員という2つの主たる生産手段に着目し、以下のとおり指標を設定する。

a) 「内航貨物船の平均総トン数」

・・・平成37年度までに27年度の平均総トン数(715総トン)の20%増とする目標値を設定し、本プランに基づく各種施策を講じること等により達成を目指す。

b) 「内航海運の総積載率」

・・・輸送量(トンキロベース)を船舶の載荷重量トンキロ(船舶の載荷積載能力に航海距離を乗じた数値)で除した数値について、平成 37年度までに27年度の実績値(42.6%)の5%増とする目標値を設定し、本プランに基づく各種施策を講じること等により達成を目指す。
*****22*****

c) 「内航船員1人・1時間当たりの輸送量」

・ 船員の労働生産性を向上させる観点から、内航船員1 人・1時間当たりの輸送量を指標とすることにより、内航海運の生産性が向上しているか評価する。

・ 具体的には、「日本再興戦略(改訂2015)」(平成27年6月30日閣議決定)において、サービス産業全体の目標として労働生産性の伸び率を平成32年度までに2%とするとされていること、これまでの平均伸び率は1.3%(平成27年度時点)であることを考慮し、31年度までは毎年1.3%ずつ、以降37年度までは毎年2%ずつ伸びることとし、平成37年度までに27年度の内航船員1人・1時間あたりの輸送量の実績値(3,882トンキロ/時間)の17%増とする目標値を設定し、本プランに基づく各種施策を講じること等により、全サービス産業の労働生産性並の伸び率の達成を目指す。
*****23*****

Ⅲ.今後取り組むべき具体的施策等

1.内航海運事業者の事業基盤の強化

内航海運事業者の事業基盤の強化のための具体的施策としては、実質的な集約化・グループ化による効率化等のための船舶管理会社の活用促進、安定的・効率的な輸送の実現のための荷主企業・内航海運事業者等間の連携による取組強化、モーダルシフト推進による新たな輸送需要の掘り起こし、内航海運を支える基礎的インフラである港湾インフラの改善・港湾における物流ネットワーク機能の強化に取組むことが必要である。

(1) 船舶管理会社の活用促進(「国土交通大臣登録船舶管理事業者」(仮称)登録制度の創設)

① 現状・課題

・ 今後、中長期的に内航海運の輸送需要の大きな伸びが見込めない中、中小事業者が大半を占める内航海運業の「安定的輸送の確保」、「生産性向上」を図る観点から、複数の事業者が共同して船舶管理会社を設立したり、一定の水準を満たした船舶管理会社を活用することにより事業基盤の強化を推進することが重要である。

・ これまでも船舶管理会社について、国は船舶管理業務に係るガイドラインの策定や、評価制度の構築等によりその活用促進に努めてきた。

・ しかしながら、現状において、具体的な効果(メリット)が不明確、管理レベルへの不安がある等の懸念から、内航海運事業者による活用は一部に止まっている状況にある。具体的には、船舶管理会社の集約的な管理への移行による管理業務の効率化の効果が特に期待される小規模事業者についても、船舶を1隻所有する事業者では船舶管理契約を締結している者は1割程度にとどまるなど、活用が十分に進んでいない。

② 取組の内容

・ 国土交通大臣による登録制度(一定期間毎の更新制)を創設し、一定水準の船舶管理サービスを提供する者について、同制度の登録を受けることにより「国土交通大臣登録船舶管理事業者」(仮称)として事業を実施できることとし、船舶管理事業者に一定の法的位置づけを与えることとする。

・ 登録を受けた事業者には、船舶管理業務に関する規程の作成等を義務化するとともに、一定期間毎に業務評価を行うことにより、その品質の確保を図る。
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・ また、内航海運事業者が登録船舶管理事業者を活用する場合のインセンティブ(鉄道・運輸機構による船舶共有建造制度、税制等)を付与することで、船舶管理会社を利用しやすい環境を整備する。

③ 取組の進め方
・ 登録制度等の具体的な制度設計については、関係者から成る検討の場を設けた上で、平成29年度内に結論を得ることとし、30年度から登録制度の運用を開始する。
(「未来投資戦略2017―Society 5.0 の実現に向けた改革―」(平成29年6月9日閣議決定)においても、平成29年度中の国土交通大臣による船舶管理事業者の登録制度の創設が盛り込まれている。)

④ 期待される効果

・ 一定水準のサービスを提供する船舶管理会社であることが国により担保されるため、登録船舶管理事業者及び当該事業者と船舶管理契約を締結する内航海運事業者が増加することにより、内航海運業の事業基盤の強化に寄与する。

・ 具体的には、平成37年度までに登録を受けた船舶管理事業者数を100者以上とするとともに、登録を受けた船舶管理事業者により管理される船舶数を内航海運に従事する船舶全体の1割以上とする。

(2) 荷主企業・内航海運事業者等間の連携による取組強化(「安定・効率輸送協議会」(仮称)の設置)

① 現状・課題

・ 内航海運は、荷主‐オペレーター‐オーナーの専属化・系列化が固定化している業界構造となっている。今後、大宗貨物である産業基礎物資の輸送需要が低下傾向となる中、将来にわたる船員の確保・育成や船舶建造を持続的・安定的に行うためには内航海運事業者単独の取組には限界がある。

・ このため、荷主企業と内航海運事業者の間での課題の共有・意思疎通等の連携を一層強化していくことが必要である。

② 取組の内容

・ 船員や船舶の高齢化といった構造的課題について、中長期的視野に立って、関係者が問題意識を共有し取り組んでいく体制として、産業基礎物資の品目(鉄鋼、石油製品、石油化学製品等)毎に、荷主企業、内航海運事業者(オペレーター及びオーナー)、行政等から成る「安定・効率輸送協議会」(仮称)を設置し、定期的に開催することとする。

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・ 同協議会においては、内航海運に関わる関係者の適切な負担のあり方にも留意した上で、船員の確保・育成、老朽船の代替、労働環境改善、荷役作業軽減、安全運航の確保、燃料高騰の際の対応等に係る意見交換、課題の共有等を図る。
・ さらに、関係者の連携による輸送の効率化に係る好事例の表彰制度(「内航効率化大賞」(仮称))を創設することとする。

③ 取組の進め方

・ 平成29年度中に「安定・効率輸送協議会」(仮称)を設置し、船員の確保・育成、老朽船の代替、労働環境改善、荷役作業軽減等に係る意見交換・課題の共有等を開始する。
・ また、平成30年度より「内航効率化大賞」(仮称)を創設する。

④ 期待される効果
・ 荷主企業と内航海運事業者の連携が図られることにより、持続的・安定的な船員の確保・育成、円滑な船舶建造や安全・効率的輸送の促進に寄与する。

(3) 新たな輸送需要の掘り起こし(「海運モーダルシフト推進協議会」(仮称)の設置、モーダルシフト船の運航情報等一括検索システムの構築)

① 現状・課題

・・・現状では荷主企業等における海上輸送に対する認知・理解が十分でなく、かつ、必要な情報も利用しにくい状況にあるため、海運モーダルシフトを一層推進するためには、荷主企業や物流事業者の一層の理解・協力促進、海運を利用しやすい環境整備等について連携して取り組んでいく体制を整備するとともに、運航情報等を利用しやすい環境を整備することが課題となっている。

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・・・平成28年10月より施行された改正後の「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」(平成17年法律第85号)に基づく総合効率化計画の認定制度を活用し、関係事業者との連携を進めることも有効である。

② 取組の内容

a) 「海運モーダルシフト推進協議会」(仮称)の設置

・・・RORO船・コンテナ
船・フェリー事業者のほか、利用運送事業者、荷主企業、行政等から成る体制(「海運モーダルシフト推進協議会」(仮称)の設置)を設置し、連携の強化、具体的な取組の推進等を実施する。

・・・海運モーダルシフトに特に貢献する取組や、先進的な取組等を行った荷主企業・物流事業者等への新たな表彰制度(「海運モーダルシフト大賞」(仮称))を創設・・・

b) モーダルシフト船の運航情報等一括検索システムの構築

・・・

③ 取組の進め方

・ 平成29年度中に「海運モーダルシフト推進協議会」(仮称)を設置し、連携の強化、具体的な取組の推進等を実施する。

・ また、上記協議会においてモーダルシフト船の運航情報等一括検索システムの設計の詳細を検討し、平成29年度よりシステムを構築の上、実証実験を開始し、31年度以降に同システムの運用開始を目指す。

・ さらに、平成30年度より「海運モーダルシフト大賞」(仮称)を創設する。

④ 期待する効果

・ 海運モーダルシフトの一層の推進により、内航海運の新たな輸送需要の掘り起こしに寄与する。
・ 具体的には、モーダルシフト貨物の海上輸送量を平成37年度までに410億トンキロ(32年度までに367億トンキロ)へ増加させる。

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(4) 港湾インフラの改善・港湾における物流ネットワーク機能の強化等

① 現状・課題

・・・内航船舶が利用している岸壁は、高度経済成長期に整備された施設が大半を占めていることから、岸壁の強度不足や航路・泊地の水深不足、ヤード面積の不足、港内の静穏度不足等により、貨物を減載した状態での運航や船舶が入港を待機せざるを得ない状況が発生する等、港湾施設の老朽化や陳腐化が安定輸送の確保や生産性向上を図る上での課題となっている。

② 取組の内容

・ 船舶の大型化等を通じて輸送効率を向上するため、岸壁整備・改良の促進や老朽化施設の適切な維持更新、航路・泊地水深の確保、防波堤の整備促進による静穏度確保等を行う。

・ RORO船等の大型化や無人航送化に対応した十分な岸壁水深・延長、荷さばき地を有する高規格なターミナルを全国展開し、貨物量の季節波動等に対応し、航路の柔軟な変更を可能とする内航輸送網を形成する。また、小口貨物の集約や複数の荷主企業の共同輸送化により、モーダルシフトを促進するための荷さばき地等の確保を図る。

③ 取組の進め方

・ 現在、港湾における中長期政策の方向性について、交通政策審議会港湾分科会において上記の取組の内容を含む議論がなされているところであり、同分科会における平成29年秋の中間とりまとめ、30年夏の最終とりまとめを踏まえ、具体的な取組を進める。

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2.先進的な船舶等の開発・普及

先進的な船舶等の開発・普及に向けた具体的施策としては、省力化の実現のためのIoT技術を活用した船舶の開発・普及、政策的意義の大きい船舶の建造への誘導と高齢化した船舶の代替建造促進を同時に実現する鉄道・運輸機構による船舶共有建造制度による円滑な代替建造の支援、環境問題への対応・効率性向上のための船舶の省エネ化・省CO2化の促進、持続的・安定的に良質な船舶を供給するための造船業の生産性向上に取組むことが必要である。

(1) IoT技術を活用した船舶の開発・普及(内航分野のi-Shipping の具体化)

① 現状・課題

・・・現在、船舶の開発・設計、建造から運航に至る全てのフェーズでICT を取り入れ、造船業の生産性向上と燃料ムダ使い解消・故障ゼロの運航を目指す取組である「i-Shipping」を推進しているところである。

・・・船舶・舶用機器のIoT化やビッグデータ解析等を活用し、船舶の安全性向上や効率的な運航を実現する先進的な船舶・舶用機器の研究開発の支援を実施している。これらの技術は、まずは外航海運に従事する船舶での活用を目指したものであるが、内航海運に従事す
る船舶への普及も今後期待される。

・・・

・ 将来、これらの先進的な船舶に係る要素技術が進展し、組み合わせることにより自動運航船(Auto-Shipping)の実現が期待される。

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・ 自動運航船(Auto-Shipping)の実現は、内航海運の課題である乗組員の高齢化、人手不足、衝突事故やそれによる物流機能の停止リスク等への対応策として有効であるため、その活用を図り、内航海運の生産性・安全性の向上を促進することが重要である。このため、自動運航船( Auto-Shipping)の共通ビジョン・コンセプト(自動化の程度に応じた数パターン)を明確にしつつ、必要な技術開発を行うとともに、実用化に向けた環境整備(基準の整備、責任の明確化等幅広い課題の解決)を図ることが必要である。

② 取組の内容

・ 先進的な要素技術を確立し、自動運航船(Auto-Shipping)の実現に向けて、以下の取組を中心に進めていく。

a) 周辺小型船舶の位置、速力等の情報を収集して自動制御で周囲の船舶との衝突を回避する操船システムを開発し、また、陸上から船舶への危険情報の提供機能の高度化を図る。

b) IoTを活用し、主機のみならず、補機を含めた大量の情報(船舶ビッグデータ)をリアルタイムで収集し、収集した情報を分析し、船舶全般に係る状態を監視・診断するシステムの開発を行い、当該システムに連動したメンテナンスの合理化を図る。

c) 高精度測位情報(準天頂衛星等)を活用した高精度の本船位置情報、周辺情報等の把握により、安全かつ迅速な自動離着桟システムの開発や、係船・荷役に係る船上作業の自動化のためのシステム(陸上支援を容易にする設備標準化等を含む)開発に取り組む。

d) 人工衛星のような大規模技術のみならず、船舶の位置等情報を取得するための技術として、スマートフォン(衝突予防アプリ)といった身近で普及が容易な技術の開発、活用等を積極的に図る。

e) また、さらなる技術の進歩のためにも、実際の海や船舶を知る技術者としての船員の重要性は今後とも失われるものではないとの認識の下、自動運航に係る新技術による省力化の効果が認められる場合には、船員の配乗や定員等の見直しが可能となるか検討する。

*****30*****

③ 取組の進め方

・ 「海上運送法及び船員法の一部を改正する法律」(平成29年法律第21号)による改正後の「海上運送法」(昭和24年法律第187号)に基づき、船舶・舶用機器のIoT化やビッグデータ解析等を活用した先進的な技術の研究開発等を促進するとともに、上記の取組の結果を踏まえた基準の整備等の環境整備を行い、平成37年を目途として自動運航船(Auto-Shipping)の実用化を図る。
(「未来投資戦略2017―Society 5.0 の実現に向けた改革―」(平成29年6月9日閣議決定)においても、平成37年度までの自動運航船(Auto-Shipping)の実用化や、これに向けた国際基準、国内基準の整備が盛り込まれている。)

④ 期待される効果
・ 荒天海域の回避等、最適な航路を選定して航行することを通じた燃料費の削減、リアルタイムの状態監視・診断を通じたメンテナンスの合理化によるコスト削減、故障や事故が引き起こす船舶の不稼働、他船・インフラの被害、環境汚染等に伴う損失の回避、船上業務の自動化による船員負担の軽減を通じた快適性、職場の魅力の向上に寄与する。

(2) 円滑な代替建造の支援

① 現状・課題

・・・

・ 特に、本プランにおいて方向性を示された、船舶管理会社の活用促進のための「国土交通大臣登録船舶管理事業者」(仮称)登録制度や、内航船に係る省エネ格付け制度及びIoTを活用した船舶の普及促進 (内航分野のi-Shipping の具体化)のインセンティブとして機能するとともに、船員の労働環境改善に寄与することが必要である。

② 取組の内容

・先述した「国土交通大臣登録船舶管理事業者」(仮称)登録制度の運用開始にあわせて、登録された船舶管理事業者の管理する船舶に対する金利低減措置等の優遇措置の導入を検討する。

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・ また、船員の安定的・効果的な確保のため、船員の労働環境を改善する設備を有する「労働環境改善船」(仮称)に対する金利低減措置等の優遇措置の導入を検討する。

・ さらに、内航船「省エネ格付け制度」により格付けを受けた船舶や、IoTを活用した先進船舶について、導入までの諸課題を見極めつつ、その普及に向けた政策誘導のための金利低減措置等の優遇措置を設けることとする。

③ 取組の進め方

・ 平成30年度より、「国土交通大臣登録船舶管理事業者」(仮称)登録制度の登録を受けた船舶管理事業者の管理する船舶に対する優遇措置と、「労働環境改善船(仮称)」に対する優遇措置の導入を検討する。

・ また、内航船「省エネ格付け制度」やIoTを活用した先進船舶についても、その検討の進捗にあわせて優遇措置を導入する。

④ 期待される効果
・ 内航海運事業者の事業基盤の強化、船員の安定的・効果的な確保・育成、先進的な船舶等の開発・普及に寄与する。

(3) 船舶の省エネ化・省CO2化の推進(内航船「省エネ格付け」制度の創設・普及、代替燃料の普及促進に向けた取組)

① 現状・課題

・・・28年5月に「地球温暖化対策計画」が閣議決定された。

・・・内航海運におけるCO2排出削減目標として「平成42年度に平成25年度比で157万t-CO2削減」(平成25年度比15%の削減)することが掲げられている。

・この目標の達成に向けては、さらなる省エネ技術の開発、より省エネに資する船舶の普及促進に加えて、代替燃料の活用の促進が必要である。

・ しかしながら、規模の小さい事業者が多い内航海運においては、実際の省エネルギー効果や費用対効果が把握できず、省エネ投資に踏み切れない事業者が多い。

・ このため、船舶の省エネルギー性能を「見える化」し、積極的な省エネ投資を促すことが必要である。

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・・・国土交通省においては、・・・天然ガス燃料船の早期実用化に向けた環境整備や、天然ガスを燃料とする舶用エンジンの開発の支援等を実施してきた。

・ さらに、海事分野における水素の利用促進に向けての取組を行っており、その一環として、平成27年度より、燃料電池船の安全ガイドライン策定事業を実施し、民間企業が参画しやすくなるような基盤の整備を進めるなど、今後ともこれらの取組を進めていく必要がある。

a) 内航船「省エネ格付け」制度の創設・普及

・ 内航海運事業者等からの申請に基づき、国土交通省が省エネルギー対策の導入による船舶の燃料消費削減率を評価し、その結果を格付として表す内航船「省エネ格付け制度」の導入を検討する。申請者は、導入する省エネルギー対策に応じ、3つの対策区分(① 設備導入・設計による措置、② 運航改善による措置、③ ①及び②の組合せによる措置)を選択・申請し、国土交通省より格付けを付す。

・ 併せて、経済産業省と連携し、革新的省エネルギー技術(ハード対策)に運航・配船の効率化(ソフト対策)を組み合わせた船舶の省エネ効果を実証し、省エネ船舶の普及を促す。

b) 代替燃料の普及促進に向けた取組

・ 造船事業者や舶用事業者のみならず、天然ガス供給事業者を含め、天然ガス燃料船の普及に向けた一体的取組を進める。

・ 国立研究開発法人海上技術安全研究所や大学・民間で実施されている水素燃料電池船の実証試験のデータを活用し、安全性を検討することで燃料電池船の実用化を促進する。

③ 取組の進め方

a) 内航船「省エネ格付け」制度の創設・普及

・ 平成29年度より内航船「省エネ格付け」制度を暫定的に導入し、2年間の検証期間を経た後、31年度から本格運用を開始する。

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・ 加えて、荷主企業を含めた取組や本格的運用段階における普及促進策(税制優遇や鉄道・運輸機構による船舶共有建造制度の優遇措置等)を検討する。
・ その一環として、平成29年度に経済産業省と連携して8件の実証実験を実施し、省エネ効果を検証する。

b) 代替燃料の普及促進に向けた取組
・ 天然ガス燃料船等の先進船舶の研究開発、製造、導入、普及を促進するため、先述したとおり、平成29年4月に成立した「海上運送法及び船員法の一部を改正する法律」により、海上運送法に先進船舶等導入計画の認定制度が創設されることとなったところである。当該枠組みを活用し、天然ガス燃料船の普及に向けた取組を進める。
・ 水素社会実現に向けた取組として、燃料電池船の安全ガイドライン策定を実施する。

④ 期待される効果

・ 上記の取組及び波及効果により内航海運分野におけるCO2排出量を平成42年度までに157万t-CO2削減することに寄与する。

(4) 造船業の生産性向上

① 現状・課題

・・・造船業の生産性向上を通じて、内航海運に従事する船舶を含めた良質な船舶の安定的・継続的な供給に資することが必要である。

② 取組の内容

a) 新船型開発・設計能力の強化

・ 新たな船型の開発強化・スピードアップに資する数値シミュレーション(CFD)開発のための調査研究事業を実施する。
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b) 船舶の革新的な生産技術に関する研究開発への支援
・ 造船・海運における生産性向上に向けた技術開発・実用化への支援制度により、民間における取組を推進する。

c) 中小造船事業者の生産性向上設備投資の促進
・ 内航海運に従事する船舶を主に建造している中小造船事業者について、中小企業経営強化法に基づき、生産性向上のための設備投資に対して固定資産税の軽減措置、公益財団法人日本財団による長期・低利融資等で支援する。

d) 中小造船事業者を支える造船人材の確保・育成
・ 造船事業者と教育機関のネットワーク強化を図り、造船人材の確保・育成を進めるための取組を推進する。
・ 造船の教育体制強化のための造船教員の養成体制構築の事業を実施する。

③ 取組の進め方

a) 新船型開発・設計能力の強化

・ 産学官の専門家からなる「i-Shipping(design)推進のためのCFD高度化検討委員会」での検討を踏まえ、CFDの開発を進めるとともに、その検証に必要となる実船流場等計測(船体周りの海水の流れ(流場)を実船で計測すること)を平成29、30年度に実施し、精度・信頼性の向上を図る。また、エネルギー効率設計指標(EEDI)認証におけるCFD活用手法に係る基準の策定への取入れについても検討を進める。

b) 船舶の革新的な生産技術に関する研究開発への支援
・ 平成28年度に船舶の革新的な生産技術に関する研究開発への支援を開始し、中小造船事業者を含め生産性向上が大きく見込まれる革新的な研究開発に対して重点的に支援するなど、造船・海運における生産性向上に向けた技術開発・実用化への支援制度を効果的に推進する。

c) 中小造船事業者の生産性向上設備投資の促進
・ 平成29年4月に拡充された中小企業等経営強化法に基づく支援措置について、地方運輸局を通じてきめ細やかに支援制度の周知や助言を行い、制度の活用の促進を図る。

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d) 中小造船事業者を支える造船人材の確保・育成

・・・

④ 期待される効果

・ 内航海運に従事する船舶を建造する造船事業者の生産性向上・経営基盤強化が図られることによって、持続的・安定的に良質な船舶の供給が可能となり、安定的輸送の確保・生産性向上に寄与する。

3.船員の安定的・効果的な確保・育成

船員の安定的・効果的な確保・育成に向けた具体的施策としては、高等海技教育の実現に向けた船員教育体制の抜本的改革、499総トン以下の船舶における船員の確保・育成策等の船員のための魅力ある職場づくり等による船員への就業・定着の推進、船員配乗のあり方の検討等の働き方改革による生産性向上に取組むことが必要である。

(1) 高等海技教育の実現に向けた船員教育体制の抜本的改革

① 現状・課題

・ 現在、独立行政法人海技教育機構(以下「海技教育機構」という。)においては、内航海運業界のニーズや最近の技術革新等に適応した優秀な船員の養成、内航海運に従事する船員の高齢化の進展による船員不足への対応のため、船員教育における質の向上と内航船員養成数の拡大を実現することが求められている。
・ また、青少年を中心に海事思想の普及を図り、船員志望者を増加させる観点から、小中学生を対象とした海事・海洋に係る現場体験を積極的に実施することも期待されている。

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・ 一方、海技教育機構は、平成13年の独立行政法人化以降、その予算(運営費交付金)が約3割削減され、今後も厳しい状況が見込まれる中、この状態を放置したまま個々の弥縫策を行うのみでは、求められる船員教育や海事振興のニーズに応えられないおそれがある。
・ このような状況の中、内航海運業界、船員教育機関、国等の関係者の連携の下、ニーズ及び課題を正確に認識し、高等海技教育の実現に向けた船員教育体制の抜本的改革として具体の取組を推進していく必要がある。

② 取組の内容

・ 海技教育機構のあり方について幅広い関係者による検討を行う。

・ 検討に当たっての基本的考え方として、関係機関の連携の下、質が高く、事業者ニーズにマッチした船員の養成に取り組むとともに、4級海技士養成定員の拡大、学生募集の強化を目指す。このため、以下の取組を進める。

a) 専門教育の重点化
・ 海上技術短期大学校(専修科)への重点化を図るとともに、4級海技士養成課程を甲機両用教育から甲・機専科教育へ移行を検討する。

b) リソースの効率的・効果的活用
・ 学校・練習船の教員等の配置等の見直しや、乗船実習の履歴代替として工作技能訓練(工場実習等)を導入する。

c) 船員養成に関するステークホルダー間の連携強化
・ 教育の高度化や養成定員拡大に向け、社船実習船の要件緩和による実施船舶の拡大等に取り組む。

③ 取組の進め方
・ 本検討会における議論を踏まえ、早期に検討を開始する必要があると考えられることから、平成29年6月に関係教育機関、内航海運業界団体等から成る「(独)海技教育機構の内航船員養成に関する調整会議」を設置した。
本調整会議において、海技教育機構4級海技士養成課程における教育改革の方向性及び具体的方策等、上記②に掲げる事項も含め、総合的に協議、検討を行い、年内を目途にとりまとめる。

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④ 期待される効果
・ 海技教育機構においては、甲・機専科教育への移行(平成32年4月開始目途)により座学・練習船実習の時間が減った分、電子海図(ECDIS)講習等の業界ニーズのある教育の実施が可能となる。
・ また、乗船実習期間の短縮や社船実習の拡大により練習船余席が確保できることを利用して、養成定員の大幅増(現行390人から500人)を目指した段階的な拡大や、海事思想普及・広報活動の拡充が可能となる。
・ これらにより、教育の質の向上や養成定員の拡大、学生募集の強化がなされることで、安定的輸送の確保に寄与する。

② 取組の内容
・ 499総トン以下の貨物船において、船員の確保・育成のために居住区域を拡大(船員室増)した場合に、船舶や乗組員の安全が確保されることを前提として、以下の取り組みを進める。
a) 船舶職員の配乗基準について、居住区域を拡大(船員室増)したことにより500総トン以上となった船舶に対しても、499総トン以下の基準を適用するための検討を行う。

*****38*****

b) 居住区域以外の船舶設備(消火装置等)に係る安全要件(以下「機関室等安全要件」という。)については、船舶自動識別装置やジャイロコンパス等の航海機器に係る安全要件と異なり、増トン前と比べ、居住区域拡大の影響を受けない区域(機関室等)の危険性を増すものではないと考えられる。このため、居住区域を拡大(船員室増)したことにより500総トン以上となった船舶に対しては、船員室2部屋の増設が可能となる10トン増までであれば499総トン以下の機関室等安全要件が適用されるよう、船員の確保・育成に係る居室の増設に伴うトン数増であることの確認手法を整理した上で、措置する。

③ 取組の進め方
a) 平成29年中に「後継者確保に向けた内航船の乗組みのあり方等に関する検討会」(仮称)を設置し、居住区域を拡大した場合における安全性の確認を行い、今年度内を目途に増トン数に対する除外措置について検討する。
b) なお、②b)の船舶設備に係る取組については、先行して、船員の確保・育成に係る居住区拡大であることの確認手法を整理の上で平成29年夏を目途に措置する。

④ 期待される効果
・ 新たな船員の確保・育成に寄与する。

ii) 労働環境の優れた職場のPR

① 現状・課題

・ 公益財団法人日本海事センターが平成26年7月にとりまとめた「海に関する国民意識調査」では、家族や友人など身近な人が船員になりたいといった場合に、反対するという意見のうち、一番多かった理由は「危険なイメージがある/事故が心配」で、これに「長期間帰れない/家族と会えない」、「事故が心配」、「大変/ハード」とが続くという結果が出ている。
・ このため、船員の安定的確保・育成の観点から、安全・安心で労働負担が少ないといった海上労働の魅力ある職場作りを通じて、上記のイメージを払拭する必要がある。

*****39*****

a) 船員安全・労働環境取組大賞を創設する。

船内の労働災害の防止の他、安全運航、健康管理、陸上からの船内労働への支援、女性の就労支援等の労働環境の改善に関する取組を対象とする表彰制度(船員安全・労働環境取組大賞「船員トリプルエス大賞」( SSS : Award for Special effort on Safe and Smart working
environment for seafarers))を創設し、広く周知を図る。また、様々な取組が受賞できるよう、大賞のほかに、特別賞(複数可)を設ける。

b) 船員トリプルエス大賞の受賞者や、船員労働災害防止優良事業者(一定期間内の法令への無違反や災害・疾病の発生状況が基準内である船舶所有者について国が認定)については、受賞や認定の事実を求人票に掲載し、船員の採用活動にも活用できるようにする。

c) 優れた安全取組事例についてベストプラクティス集としてとりまとめ、国土交通省HPで掲載する。

d) 求職者が求める情報、内航海運事業者の安全や労働環境に対する優れた取組等を求人票に掲載できるようにし、事業者による労働環境向上の取組みをPR する。

③ 取組の進め方

a) 船員トリプルエス大賞について、平成29年8月に授賞式を行い、同年9月の船員労働安全衛生月間中に各地方運輸局単位で開催される船員災害防止大会等の場において、船員労働災害防止優良事業者とともに広く周知する。

b) 船員トリプルエス大賞の受賞や、船員労働災害防止優良事業者の認定の事実について、平成30年12月までに求人票に記載できるようにし、船員の採用活動にも活用できるようにする。

c) ベストプラクティス集について、平成29年度内にとりまとめ、国土交通省HPで掲載する。

*****40*****

d) 求人票について、アンケートにより求職者が求める情報をとりまとめ、平成30年3月卒の就職活動の解禁に向けて、29年5月から試行的な運用を開始する。29年度の取組を踏まえ、30年度以降の更なる見直しを図る。

④ 期待される効果

・ 平成37年度までに、内航船員1人・1時間あたりの輸送量を27年度から17%向上を図ることにより、生産性の向上に寄与する。

iii) 船内供食の確保

① 現状・課題

・ 職住が一体であり、陸上から隔離された海上労働における食生活は船内生活を送るために不可欠であり、また、船員が健康であることは安全に船内等作業を行う大前提である。また、船内で提供される食事は、船員にとって職場での大きな魅力でもある。

・ 一方、少人数乗組みの内航船舶においては、乗組員が船内作業の合間に自ら交替で食事を準備するといった状況があり、このような負担が離職の一因となっているものと考えられる。また、全国健康保険協会船員保険部の調査では、船員は、肥満や糖尿病が発症する危険がある境界型糖尿病の割合が陸上労働者に比較して高いとの結果が出ている。

・ このため、船舶料理士資格受有者や船内で調理を行うことの出来る者を早期かつ幅広く確保・育成することで、船員の負担を軽減し、離職の防止を図るとともに、栄養バランスが確保された魅力ある食事の提供を行い、健康で安全な船員労働の実現と船員職業の魅力の向上を図る必要がある。

② 取組の内容

・ 船舶料理士資格受有者や船内で調理を行う者の確保・育成のため、以下の取組を行う。

a) 船舶料理士資格の効率的な取得(近海区域以遠を航行する船舶)

・ 近海区域以遠を航行する船舶のうち1,000総トン以上のものについては、船舶料理士の資格を有する者の乗船が義務付けられており、船舶料理士の資格取得のためには、国家試験である船舶料理士試験に合格のうえ、一定期間乗船した実務経験が必要となっている。

*****41*****

・ この現行の要件について、ILO海上労働条約に定められた条件を引き続き担保した上で、船舶料理士に必要な栄養や食品衛生管理等の知識とともに各種料理の実技能力を維持確保しつつ、より早期に資格取得を可能とする方法について検討を行う。

b) 船内で調理を行うことができる者への教育及び人材確保(沿海区域以遠を航行する船舶)

・ 沿海区域以遠を航行する船舶等については、船内で調理を行う者が船内における調理に関する基礎的な知識を有していることが必要である。

・ このため、海技教育機構等における調理実習を受講した者や、船員災害防止協会作成の船内食事に関するテキストを用いた社内教育の修了者等に加え、船内で専従的に調理に従事できる人材を確保・育成できるよう、次の取組を行う。

  • 調理師学校への海上就職案内の強化やジョブカフェの全国展開
  • 海技教育機構清水校における司厨科施設の積極的活用
  • 調理師資格を取得できる水産高校調理課程卒業者に対する海
  • 技教育機構練習船における船内調理実習の実施 等

③ 取組の進め方

a) 船舶料理士資格の効率的な取得(近海区域以遠を航行する船舶)
・・・平成29年度中に関係者による検討会を開催し、必要な船内調理業務経験や教育内容のあり方について議論を進める。

b) 船内で調理を行うことができる者への教育及び人材確保(沿海区域以遠を航行する船舶)

・ 平成29年度から、上記②b) に記載する取組を進める。

④ 期待される効果

・ 船舶料理士や専従の調理者を確保・育成し、船員の負担を軽減することで、労働時間の短縮が期待される。また、船内で提供される食事の栄養バランスの改善による生活習慣病等の発生を予防することで、船員の疾病発生率について、第10次船員災害防止基本計画(平成25年度~29年度)に定める10%の減少に寄与する。

*****42*****

iv) 船員派遣制度を活用した船員の確保・育成

① 現状・課題

・ 船員派遣制度は、船員の労働保護を図りつつ船員の移動を円滑に実施することを可能とするために創設され、自社船員を雇用したまま他社に派遣することで、人材面から内航海運の安定的な輸送を支えている。

・ 近年、半数以上の内航海運事業者が派遣船員等の活用により必要な船員確保を図っている状況にある。

・ 厳しい経営環境の中、自社における船員育成が困難であることから、他社に船員を派遣し育成を委ねるニーズが高まっているところ、特に船員派遣事業の許可基準のうち財産要件については、船舶建造による負債の増加が船員派遣事業への参入の支障となっているとの指摘があったことを踏まえ、船員派遣事業の適正な運営に資する許可基準について検討する必要がある。

② 取組の内容

・ 船員派遣制度の活用を促進するため、船員派遣事業の財産的基準等の見直しに係る検討を行う。

③ 取組の進め方

・ 船員派遣事業の許可基準の見直しについて議論し、可能なものは平成29年夏を目途に検討結果を取りまとめる。

④ 期待される効果

・ 許可基準の見直しにより、許可取得が可能な事業者を2割増とする。

v) 女性の活躍促進

① 現状・課題

・ 少子高齢化が進み、人口減少社会を迎える中で、我が国の持続的成長を実現し、社会の活力を維持していくためには、国民一人ひとりが、その個性に応じた多様な能力を発揮できる社会の構築が不可欠である。特に、女性は最大の潜在力であり、その能力が十分活かされていかなければならず、女性が社会のあらゆる分野で活躍できるよう、女性の参画拡大のための取組を一層強力に推進することは政府の方針としても示されているところである。

*****43*****

・ 現在、女性の就業割合は約43%となっている(総務省平成29年4月「労働力調査(基本集計)」より)が、内航海運業界においては、女性船員の比率は僅か2%にとどまっており、必ずしも女性船員の就労が進んでいる状況とはいえない。

・ 一方、船員教育機関に入学する女子学生は毎年一定程度存在していることから、出口となる就労環境を整備していくことは必須と考えられ、さらに、既に海技資格を取得した女性のうち約8割が資格を失効している状況から、このような女性が再び活躍できるような環境を整備していくことが課題である。

② 取組の内容

・ 女性の就労を促進するための検討を行い、女性が活躍できるような労働環境の実現に向けた提案をとりまとめる。

・ 船員トリプルエス大賞や求人票等を通じ、女性が働きやすい労働環境を提供する事業者を、優良事業者としてPRする。

・ 内航海運業界において女性の活躍の具体化について検討を行う。

③ 取組の進め方

・ 国において、平成29年度より女性船員活躍に向けた検討会を設置し、30年度より検討結果を踏まえた施策を実施する。

④ 期待される効果

・ 内航女性船員数を平成37年度までに10%増加させることにより、安定的輸送の確保に寄与する。

vi) 退職海上自衛官の船員就業の促進

① 現状・課題

・ 内航海運業界では、4級、5級の海技資格受有者が不足している状況であり、海上経験を有する退職海上自衛官は、内航海運業界にとって有効な人材であると考えられる。

・ これまでの取組により、近年、退職海上自衛官の船員への再就職者数は増加傾向にある一方、当該再就職者に占める海技資格受有者の割合は40%程度に留まっている状況となっている。

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② 取組の内容

・ 海上自衛隊(防衛省)における取組、内航海運事業者のニーズを踏まえ、海技資格取得の取組の拡充(海上自衛隊における登録船舶職員養成施設の拡大等)を図る。

③ 取組の進め方

・ 平成29年度中に海上自衛隊(防衛省)や内航海運事業者に対し、ニーズの確認等を行い、海技資格取得の取組の拡充に向けた調整を図る。

④ 期待される効果

・ 海技資格を取得した退職海上自衛官の船員就業者数が増加することにより、安定的輸送の確保に寄与する。

(3) 働き方改革による生産性向上

i) 船員配乗のあり方の検討

① 現状・課題

・ 近年、特に主機及び補機、その他機器類が高性能化しており、船員に求められる知識・技能や役割、労働環境についても変化してきているものと考えられることから、船舶職員に求められる知識等について、適正に評価する必要がある。

・ また、特に内航海運においては、乗組員の高齢化が進んでいることから、若年船員の確保・育成を強化する観点からも船員配乗のあり方を検討する必要がある。

② 取組の内容

・ 船舶職員に求められる知識等や労働環境の変化について、関係者間での意見交換や船内業務の実態調査等を行い、航行の安全の確保や若年船員の確保・育成の強化を十分考慮の上、実態に即した規制(船員配乗)への見直しを含めた検討を行う。

・ また、(2)ⅰ)②に掲げた居住区域を拡大した499総トン以下の貨物船に対する取組については、若年船員の確保・育成の強化のための取組の一環として、早期に検討を行う。

③ 取組の進め方
・ 平成29年中に「後継者確保に向けた内航船の乗組みのあり方等に関する検討会」(仮称)を設置し、関係者間での意見交換や船内業務の実態調査を行う。

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・ 平成29年度内を目途に実態調査に対する評価等を考慮した船員配乗を検討する。当該船員配乗について、航行の安全性を実証実験により検証する。

・ 検証結果に応じ、実態に即した規制(船員配乗)への見直しを行う。

④ 期待される効果

・ 若年船員の確保・育成が促され安定的な輸送の確保が図られるとともに、実態に即した規制とすることによる生産性向上に寄与する。

ii) 労働時間の適正な管理の実現、荷役・運航作業の負担軽減の実現による船員の働き方改革

① 現状・課題

・ 労働時間の管理の適正な実施は、給与や手当を算定するための基礎であり、船員にとって働きやすい労働環境を実現する観点からも大変重要なものである。一方、船員の労働は、出入港作業、狭視界下や輻輳海域内を含む当直業務、機器や機関の整備作業、書類作成等の事務作業、若年船員への教育、さらには着岸後の荷役作業等、多岐に及ぶとともに、船種によって労働の繁閑の度合いが異なっているとの指摘もある。このような中、陸上から離れた船舶内で、船長が船舶の最高責任者としての業務を行いつつ、きめ細かな労働時間管理を行うことが困難な状況が生じている。

・ また、荷役作業については、船側の負担が大きいとの意見とともに、先述のとおり、新人船員の確保育成のためには、船員の労働負荷軽減(荷役作業の見直し等)が必要であるとの意見が多数ある。

・ 一方、技術革新による船内作業の自動化や省力化、又は陸上からの支援により船員の労働負担の軽減を可能とする取組が進展しており、これにより運航等作業の負担軽減を実現し、若年・女性船員にとっても働きやすい労働環境を実現する必要がある。

② 取組の内容

・ 船員の労働時間・労働負荷を軽減し、質の高い休日(休息)を確保することにより、若年・女性をはじめとする船員が定着できる労働環境を実現できるよう、以下の取組を行う。

a) 荷役作業を含む作業分野別の船員の労働時間や作業内容、技術革新や陸上からの支援による船員の負担軽減の取組事例に関する実態調査を行う。

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b) 船員の労働時間を適正に管理できるよう、作業に従事する船員に負担をかけることなく、自動的かつ正確に、船種及び職種別の船員の労働時間、休息時間、休日の区分を記録し、それらの関係法令への適合状況について確認できる標準的なソフトウェアを構築すべく検討する。

c) 荷役作業の負担軽減を実現するよう、先述した荷主企業、内航海運事業者等の間の連携による取組である「安定・効率輸送協議会」(仮称)において、a)の調査結果を共有するとともに、荷役作業軽減等に係る意見交換、課題の共有を行い、船員の付帯作業の運用ルールを明確化することなどにより、船員の労働時間の削減や労働負荷の軽減を目指す。

d) 技術革新に伴う自動化・省力化や陸側からの労働支援及び良質な燃料への転換に関する取組については、事業者が導入中または導入を予定する事項について、それによる作業や負担の削減効果について客観的な評価を行い、効果がある旨検証された取組については、その普及促
進を目指す。
また、将来的な技術革新の進展状況や、政府全体の働き方改革の方向性を踏まえ、配乗や定員等の基準の見直しが可能となるか、ⅰ)に加えて引き続き検討する。

e) 若年・女性船員の確保・育成に向けて、b~d に掲げる取組を先行して導入する事業者の支援に取り組む。

③ 取組の進め方

a) 船員の労働実態調査について、平成29年度内に調査及び整理分析を行う。

b) 船員の労働時間を適正に管理するためのソフトウェアについて、平成29年度内に、モデル仕様設定や導入上の支援措置について検討のうえ、30年度にソフトの評価や実証実験等を行うことを目指す。

c) 荷役作業の負担軽減の実現について、平成29年度に設置される「安定・効率輸送協議会」(仮称)において議論を開始し、30年度に一定の結論を得ることを目指す。

*****47*****

d) 技術革新に伴う自動化・省力化や陸側からの労働支援に関する取組について、既に事業者が導入中または導入を予定する事項から優先的に、負担軽減の効果について評価のうえ、平成29年度内に一定の結論を得ることを目指す。さらに、将来的な技術革新の進展状況や、政府全体の働き方改革の方向性を踏まえ、配乗や定員等の見直しが可能となるか、引き続き検討する。

e) b~d に掲げる取組を先行して導入する事業者の支援については、既存の支援措置を踏まえ検討する。

④ 期待される効果

・ 平成37年までに内航船員1人・1時間あたりの輸送量について27年度から17%の向上を図ることにより、生産性の向上に寄与する。

4.その他の課題への対応

(1) 内航海運暫定措置事業の現状と今後の見通し等を踏まえた対応

① 現状・課題

・ 暫定措置事業は、平成10年より、船腹の需給調整終了に伴う経済的影響を考慮したソフトランディング策として日本内航海運組合総連合会が実施しており、保有船舶を解撤等した者に対して交付金を交付するとともに、船舶を建造等する者から納付金を納付させ、収支が相償った時点で終了することになっている。

・ 平成29年3月末時点で国土交通省が作成した資金管理計画において、同事業は35年度までに収支が相償い終了する見込みとなっている。また、これまでのところ、建造等納付金が予想を大幅に上回り納付されてきており、仮に今後もこうした状況が継続することとなった場合は、35年度より前倒しで終了する可能性もあり得る。

・ 暫定措置事業は、これまで、船腹調整事業解消に伴う引当資格の無価値化に係る経済的混乱の抑止のほか、船腹需給の引き締め効果、保有船舶の解撤や代替建造を促し、内航海運の構造改革を促進する効果、環境性能の高い船舶の建造、船舶管理会社の活用等の取組を進めるインセンティブ効果を発揮するなど、一定の役割を果たしてきた。

*****48*****

・ 同事業の終了により、船舶の建造コストの負担軽減に伴う船舶投資の容易化、一定の船腹需給の引き締め効果が失われることによる急激な景気変動等に伴う船腹余剰状態の発生、環境性能の高い船舶の建造、船舶管理会社の活用等の取組を進めるインセンティブ機能の低下等の影響が発生し得ることが想定される。

② 取組の内容

・ 内航海運業は、産業基礎物資輸送が大宗を占め、荷主-オペレーター-オーナーという形で荷主企業への専属化・系列化が固定化している業界構造となっている。また、内航海運事業者の99.6%が中小零細事業者であり、経営基盤も脆弱であることから、構造的に船腹過剰や過当競争が生じやすい傾向にある。一方で、モーダルシフトやCO2削減等の環境対策や人手不
足への対応、生産性向上等といった社会の要請に対応していく必要がある。

・ 上述の課題に対処するとともに、本プランで掲げた内航海運が目指すべき将来像である「安定的輸送の確保」及び「生産性向上」の実現のためにも、暫定措置事業終了後にどういった対応が必要となるのか検討することは重要である。

・ このため、暫定措置事業が想定よりも早期に終了することも念頭に、暫定措置事業が果たしてきた役割に対しどのような対応が考えられるか、またその場合における内航海運組合の役割を含むあり方をどう考えるか等について検討を行う。

③ 取組の進め方

・ まずは業界において、同事業終了により発生し得る具体的な影響や事業者の意見等を把握しつつ、本プランとりまとめ後早期に議論を開始する。

・ 業界における議論の結果も踏まえ、国において、暫定措置事業の終了後の課題や国の対応等について検討する。

(2) 船舶の燃料油に含まれる硫黄分の濃度規制への対応

① 現状・課題

・ 平成32年1月からの船舶の燃料油に含まれる硫黄分の濃度規制強化については、20年の海洋汚染防止条約改正により現状の3.5%以下から0.5%以下とすることとしており、その規制強化の時期について、28年10月に開催された国際海事機関(IMO)第70回海洋環境保護委員会(MEPC70)において、32年1月と決定された。

*****49*****

・・・

・ 本規制への対応方策としては、「低硫黄燃料油の使用」、「排気ガス洗浄装置(スクラバー)の使用」、「LNG 燃料等の使用」のいずれかによる必要があるが、内航海運業界からは、低硫黄燃料油の品質、供給量、価格等の見込みや、スクラバーの搭載コストや工期等についての懸念・疑問点が表明されているところである。

② 取組の内容

・ 上記①の状況を踏まえ、国土交通省において、海運業界との「燃料油環境規制対応方策検討会議」及び石油業界も含めたオールジャパンの「燃料油環境規制対応連絡調整会議」を立ち上げたところである。

・ 引き続き、官民の関係者が連携の上、海運業界の懸念や要望事項、石油業界の現状などについて情報を共有するとともに、低硫黄燃料油の供給量確保、必要な品質の確保、低廉化に向けた具体的対応策を検討し、規制への円滑な対応ができるよう適切に取り組む。

③ 取組の進め方

・ 今後上記会議の中で、平成32年以降の燃料油の需給見通しの分析を進めると同時に、各種低硫黄燃料油の供給に必要な設備投資等の評価、スクラバー設置の技術的制約・コスト評価、低硫黄燃料油の品質のあり方などの調査を進め、全体コスト最小化の手段の検討を行う。これらの検討結果を踏まえ、国土交通省、経済産業省、石油業界、海運業界等が連携しつつ規制の円滑な実施に向けた必要な対応方策等を推進していく。

(3) 海事思想の普及

① 現状・課題
・ 日本は四面を海に囲まれた海洋国家であることから、経済活動や国民生活の維持・発展には、安定的な海上輸送が必要不可欠であることを幅広い国民各層の意識に深く浸透させる必要がある。

・ 加えて、少子高齢化が進展する中で、安定的かつ効率的な内航海上輸送を持続的に確保するためには、船員はもとより、船舶の安全管理や経営管理等に関わる優秀な人材を確保する必要がある。

*****50*****

・ 人材確保には、若年者が船員をはじめとする内航海運業への就職を指向するよう理解と関心を高めることが基礎となることから、初等中等教育の段階から海事思想の普及を図るとともに、内航海運業に対する理解を深めるための取組を実施することにより、内航海運業への理解と職業観の醸成を図る必要がある。

・ 他方、平成28年7月18日「海の日」を迎えるに当たっての内閣総理大臣メッセージでは、産学官オールジャパンによる海洋教育推進組織「ニッポン学びの海プラットフォーム」の立ち上げと、このプラットフォームを通じて37年までに全ての市町村で海洋教育が実践されることを目指すこととされた。

・ また、平成29年3月に公示された改訂学習指導要領においては、海洋や海上物流に関する教育が新たに盛り込まれており、これまでも実施されてきた内航海運業に対する理解を深めるための取組については、政府全体の方針のもと、学校教育の体系の中に位置づけられ、全国の学校へ展開されていくものと考えられる。

・ このような状況において、内航海運業への理解と職業観を醸成するための内航海運業に係る効果的な教育が実践されるためには、教室における授業のみならず、現場である船舶や船員の業務等の見学が重要となっている。

② 取組の内容

・ 「海の恩恵に感謝し、海洋国日本の繁栄を願う」という趣旨の海の日を中心として、全国各地で様々な活動が展開されているが、これらの活動の有機的な連携の強化や、個々の活動の情報発信力の強化や活動内容の向上を図る。

・ 内航海運事業者をはじめとして、岸壁の管理者、船員など関係者の協力のもと、学校教育の現場で使用する教材等に加え、船舶や専門的な知識や技術を有する業務の理解や体験をする見学会を含めた教育のプログラムを作成する。

③ 取組の進め方

・ 海の日を中心として全国各地で国、地方自治体、内航海運事業者、海事関係団体等が行っている様々な活動に対し、地方運輸局も含めた有機的な連携の強化を推進する。

・ 平成29年度以降、学校教育における海洋教育を推進するための教育プログラム(指導計画・教材等)の作成、実施体制の環境整備に向けた取組を推進する。

・ 海技教育機構における教育内容の見直しの結果生じる海事思想の普及の拡充の可能性(上記3.(1)④参照)を踏まえ、海技教育機構が海事思想の普及に向けてどのような活動を行っていくかについての検討を行う。

*****51*****

おわりに

本検討会においては、平成28年4月以降、計8回にわたる多角的な議論を通じて、内航海運の現状、内航海運を取り巻く社会経済情勢の変化を踏まえて内航海運が今後目指すべき将来像やその実現のための今後の内航海運政策の方向性、これを踏まえた具体的施策について、検討の成果を「内航未来創造プラン」としてとりまとめるに至った。

本プランでは、概ね10年後を見据えて内航海運が目指すべき将来像として 「安定的輸送の確保」と「生産性向上」を2つの軸に位置付けた。そして、これらを実現するために必要な具体的施策等について、「内航海運事業者の事業基盤の強化」、「先進的な船舶等の開発・普及」及び「船員の安定的・効果的な確保・育成」の3つの分野に大別して、新たな制度等の構築、関連制度の見直し、技術開発・普及等の海事分野全般にわたる施策メニューを盛り込んだ。併せて、各施策の実施スケジュールや目標を可能な限り明らかにするとともに、本プランに基づく施策全般の効果の検証・評価に資するための指標も設定したところである。

とりわけ、施策メニューにおいては、「連携」による施策(船舶管理会社の活用促進、荷主企業・内航海運事業者等間の連携による取組強化、高等海技教育の実現に向けた船員教育体制の抜本改革等)や、「イノベーション」による施策(IoT技術を活用した船舶の開発・普及、造船業の生産性の向上等)を積極的に盛り込んだ。内航海運の抱える現下の課題の困難性・複雑性に鑑みれば、内航海運業界のみの従来の延長上の取組ではこれらの克服は容易ではなく、今後は「連携」と「イノベーション」をキーワードに内航海運業の未来を創造していかねばならない。

本プランに提示した各施策については、具体的な中身のさらなる検討に今後着手するもの、実施段階における関係者との調整等が必要であるもの等が含まれており、国においては、その推進に当たり、以下の点に留意して取り組んでいくことが必要である。

・ 各施策については、それぞれの実施スケジュールに基づき着実に推進するとともに、内航海運事業者、荷主企業、船員等の必要な関係者と十分連携しつつ取り組むこと。

・ 施策の具体的な中身についてさらに検討を要するものについては、速やかに検討体制を整備し、検討に着手するとともに、できる限り早期に結論を得て施策の具体化を図ること。

*****52*****

  •  各施策の推進に必要な予算、税制等の財政上の措置についても適切に取り組むこと。
  •  各施策について設定された数値目標及び本プラン全体の指標の達成状況を常に意識し、各施策について不断の見直しを図りつつ各目標等の達成に向けて取り組むこと。

また、本プランに提示した各施策は、いずれも内航海運事業者の事業の活性化に向けた取組に対する「環境整備」や「後押し」に資する内容のものであり、その意味において、まず何よりもそれぞれの内航海運事業者自身が、本プランの将来像の実現に向けて主体的かつ積極的な行動を起こしていくことが必要である。加えて、内航海運事業者団体においては、事業者の意見・要望を丹念に把握・整理の上、行政や関係団体等と連携して業界全体の一層の底上げに貢献していく役割を果たすことが必要である。

さらに、荷主企業、船員、造船事業者、金融機関を含む内航海運関係者においては、本プランの将来像を共通の理念として共有するとともに、内航海運事業者との連携を強化して我が国国民生活の向上や経済活動の発展に寄与していくことが必要である。

内航海運は、トラック輸送と並ぶ国内物流の大動脈であり、とりわけ産業基礎物資輸送の大宗を担う形で、長きにわたり我が国の成長を牽引してきた素材産業、製造業等の中核産業とともにその成長の歩みを進めてきた。しかしながら、21世紀を迎えた我が国は、既に人口減少、国内需要の縮小、国際競争の進展に伴う産業構造の変化等に直面しており、今後、内航海運の主軸である産業基礎物資輸送の大きな伸びは期待できない。これは、内航海運にとって、日本経済の一定の持続的な成長を前提としてきたこれまでの事業運営のあり方そのものが潮目を迎えていることに他ならない。加えて、社会全体での担い手不足の中での船員確保・育成問題の深刻化、燃料油環境規制や省CO2化等の環境問題への対応、いずれ直面する内航海運暫定措置事業の終了といった様々な荒波が待ち受けている。

このため、本プランにおける内航海運の将来像と具体的な施策の実現の必要性・重要性について、全ての関係者が共通の理解に立ち、その連携の下で各施策の着実な実現を図ることが不可欠である。その結果として、内航海運業が、将来にわたり我が国の経済社会の安定と成長を担いうる、「たくましく日本を支え進化する」産業へと昇華していくものと確信し、本プランの結びとする。

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内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会名簿

(平成29年6月9日現在:敬称略)

座長 竹内 健蔵 東京女子大学現代教養学部教授
委員 河野 真理子 早稲田大学法学学術院教授
手塚 広一郎 日本大学経済学部教授
中村 俊彦 (株)商工組合中央金庫常務執行役員
眞砂 徹 (一社)日本中小型造船工業会(興亜産業(株)代表取締役社長)
山口 一朗 (独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構理事
平岡 英彦 全日本海員組合中央執行委員国内局長
小比加 恒久 日本内航海運組合総連合会会長
栗林 宏吉 内航大型船輸送海運組合会長(栗林商船(株)代表取締役社長)
蔵本 由紀夫 全国海運組合連合会副会長(吉祥海運(株)代表取締役社長)
栗田 克己 全国内航タンカー海運組合(田渕海運(株)取締役常務執行役員)
片方 祐司 全国内航輸送海運組合(日鉄住金物流(株)常任顧問)
瀬野 和博 全日本内航船主海運組合会長((有)大福汽船代表取締役社長)
壇上 治亨 (一社)日本鉄鋼連盟(製品物流小委員会委員/新日鐵住金(株) 物流部国内物流室長)
大貫 弘義 石油連盟(内航専門委員会委員長/JXTG エネルギー(株)供給部門物流部部長)
芦田 真一 (一社)セメント協会(輸送専門委員会委員/住友大阪セメント(株) 物流部物流グループリーダー)
黒木 親 石油化学工業協会(内航ケミカル船WG リーダー/旭化成(株) 購買・物流統括部物流第一部長)
オブザーバー 小原 得司 (一社)日本長距離フェリー協会常務理事
三好 京子 経済産業省製造産業局金属課係長
辻井 翔太 経済産業省製造産業局素材産業課課長補佐
田淵 なな 資源エネルギー庁資源・燃料部石油精製備蓄課係長
鈴木 裕也 資源エネルギー庁資源・燃料部石油流通課係長
細川 希 国土交通省総合政策局物流政策課物流産業室課長補佐
名越 豪 国土交通省港湾局計画課企画室課長補佐

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内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会検討経過

平成28年4月8日(金) 第1回内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会
・内航海運業の現状等
・内航海運関係者との意見交換結果を踏まえた課題
・意見交換
5月26日(木) 第2回内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会
・早急に着手すべき取組の検討
・意見交換
7月1日(金) 第3回内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会
・中間とりまとめ(早急に着手すべき取組)(案)について
7月29日(金) 中間とりまとめ公表
10月28日(金) 第4回内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会
・内航海運を巡る社会経済情勢等と事業環境の変化につ
いて
・内航海運事業実態調査の結果について(暫定版)
・内航海運が中長期的に目指すべき方向性について
・今後のスケジュール
12月16日(金) 第5回内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会
・船舶のトン数に係る規制について
・内航海運事業実態調査 分析結果について
・各委員からの意見表明
・第4回検討会を踏まえた主な論点整理
・今後のスケジュール

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平成29年2月17日(金) 第6回内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会
・委員等からの意見表明について
・論点整理について
4月21日(金) 第7回内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会
・船員の安定的・効果的な確保・育成に向けた具体的施策
について
・将来の内航船(内航分野のi-shipping)に関する取組内容
の具体化
・内航海運暫定措置事業の現状と今後の見通し等を踏まえ
た対応
・施策の効果を評価するための指標の設定について
・検討会の議論のとりまとめ骨子について
6月9日(金) 第8回内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会
・内航未来創造プラン(案)について

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