次世代内航海運懇談会

背景

内航海運は、その活性化を図る観点から、平成10年5月にスクラップ・アンド・ビルド方式による船腹調整事業を解消し、内航海運暫定措置事業を導入したことにより、事業意欲のある事業者が、市場原理と自己責任の下、より自由に船舶の建造が可能となっていた。

一方で、国内景気の停滞、荷主企業の相次ぐ合併・業務提携、国際的競争の激化、IT化の進展等、物流を巡る環境が、大きく変化していた。

概要

国土交通省は、内航海運がこれらの輸送環境の変化に柔軟に対応し求められる役割を積極的に果たしていく観点から、海事局長の私的懇談会である「次世代内航海運懇談会」を設置した。

次世代内航海運懇談会は、「新しい内航海運のあり方」及びこれを踏まえた、海運、船舶、船員の海事分野全般にわたる「新しい内航海運行政のあり方 (次世代内航海運ビジョン)」の検討を行なった。

報告書

次世代内航海運ビジョン(本文)(国土交通省ホームページ)

200204_次世代内航ビジョン~ 21世紀型内航海運を目指して~(ページ内リンク)

委員会資料

第1回 次世代内航海運懇談会(平成13年7月27日,国土交通省)

第2回 次世代内航海運懇談会(平成13年9月28日,国土交通省)

第3回 次世代内航海運懇談会(平成13年11月29日,国土交通省)

第4回 次世代内航海運懇談会(平成14年1月25日,国土交通省)

第5回 次世代内航海運懇談会(平成14年3月8日,国土交通省)

議事概要

第6回 次世代内航海運懇談会(平成14年4月26日,国土交通省)

本文

はじめに
内航海運は国内貨物輸送量トンキロベースの4割を担うとともに、とりわけ鉄鋼、石油、セメント等の産業基礎物資の輸送の8割を支える基幹的輸送モードとして、四方 を海に囲まれた我が国における経済活動及び国民生活に重要な役割を果たしている。

近年、バブル経済崩壊後の長引く景気の低迷、経済のグローバル化の進展に伴う企業の国際競争の激化等の結果、企業の合併や業務提携による事業再編の動きが活発化する等内航海運を取り巻く我が国経済の状況は大きく変化している。また、地球温暖 化等の環境問題では、平成9年12月の「気候変動に関する国際連合枠組条約」第3回締約国会議で採択された「京都議定書」において、我が国を含む各国の二酸化炭素排出抑制の数値的目標の達成が義務付けられる等地球的規模での環境保全の取り組みの強化が急務となってきている。

21世紀を迎え、こうした経済・社会の諸情勢の変化に的確かつ柔軟に対応した新しい物流システムの形成が求められる中で、内航海運についても、環境負荷が小さく、輸送効率に優れたその特性を十分に発揮し、引き続き、物流の大動脈として21世紀の我が国経済社会の発展に寄与していくことが求められる。

一方、内航海運についてはその活性化を図るため、平成10年5月にスクラップ・アンド・ビルド方式による船腹調整事業を解消し、これに伴う経済的影響を考慮して内航海運暫定措置事業を実施している。これまで約4年間にわたる同事業の実施の結果、船腹需給の適正化に一定の成果がみられている。

このため、今後の内航海運については、前述した21世紀の時代の要請に応えるため、市場原理と自己責任の考え方の下、より競争的市場構造への転換を図るとともに、コスト競争力があり、質の高い輸送サービスの提供が可能となるよう、その活性化のための総合的な取り組みを行っていくことが不可欠である。

本懇談会においては、こうした問題認識の下、国土交通省からの依頼により、21世紀型内航海運のあり方を整理し、これを踏まえた海運、船舶、船員、港湾の海事分野全般にわたる内航海運行政の具体的な取り組みの方向について、昨年7月から本年4月まで10回にわたり検討を重ねてきた。

今般、以下のとおりその検討の成果をとりまとめたものである。
Ⅰ 21世紀型内航海運のあり方について

1.我が国経済活動・国民生活における内航海運の役割と現状

(1)国内物流の4割を担う基幹的輸送モード
① 内航海運は、四方を海に囲まれた我が国の地理的条件、その大量輸送特性等から、
従来より我が国国内貨物輸送の中心的な輸送機関としてその役割を果たしてきてい
る(平成12年度輸送機関別輸送シェアは、42%(トンキロベース。))

② 特に鉄鋼、石油、セメント等の産業基礎物資の分野においては、概ねその8割が内
航海運により輸送されており、内航海運は我が国経済活動及び国民生活の基盤を支
える基幹的輸送モードである。

(2)モーダルシフト等環境負荷の低減への寄与
① 内航海運は、営業用普通トラックと比較して、単位当たりの二酸化炭素排出量(1
トンの貨物を1km運んだ場合のCO2排出量を換算(炭素換算)した重さ)が5分の
1であるとともに、従業員一人当たりの輸送効率性も高く、環境保全の面で優れた
輸送特性を有している。

② このため、自動車による輸送が主体となっている雑貨輸送の分野を中心に、ROR
O船、フェリー、コンテナ船によるモーダルシフトを進めてきているが、内航輸送
貨物に占める雑貨の割合は2割、また、雑貨輸送における内航海運のシェアは
17%であり、今後、更なるモーダルシフトの推進が求められる。

(3)荷主を頂点とするピラミッド型の市場構造
① 内航海運の市場構造については、輸送貨物の太宗が大量かつ継続的な生産活動を基
本としている鉄鋼、石油、セメント等の産業基礎物資であること等により、これら
の荷主企業は少数の特定オペレーターと元請運送契約を結び、その他のオペレータ
ー及びオーナーは元請のオペレーターの傘下で事業活動を営むといった、いわゆる
ピラミッド型となっている。

② こうしたピラミッド型の市場構造は、安定・安全輸送の確保、オペレーターの経営
安定等に寄与している面がある一方で、内航海運市場の閉鎖性を高め、新規参入、
規模拡大等事業者の多様な事業展開による市場の活性化や競争の促進の障害となっ
ている面がある。

③ 加えて、内航海運の輸送特性により、輸送需要の変動に対し供給面での機動性を欠
くことから、船腹の需給ギャップが生じやすく、運賃・用船料はこうした影響を受
けやすい構造となっている。

2.内航海運を巡る様々な環境変化

(1)より競争的市場構造への転換
① 内航海運については、従来より、経営基盤の脆弱な中小零細事業者が大多数を占め
るとともに、船腹需給ギャップが生じやすい市場構造であることから、内航海運の
近代化のため、転廃業の促進、集約・合併による事業者数の適正化を中心とした構
造改善対策に取り組んできた。
具体的施策としては、以下のとおり。
・スクラップ・アンド・ビルド方式による船腹調整事業(以下「船調事業」という)
の実施(昭和41年~平成10年)
・内航海運業への参入を登録制から許可制に規制強化等(昭和41年~)

② こうした取り組みは、事業者数の大幅な減少(許可事業者については10,941
事業者(昭和41年度)から3,755事業者(平成12年度))や、船舶の大型化(許可
船舶については426総トン(昭和46年度)から740総トン(平成12年度))にみ
られるように、かつて小規模オペレーターの乱立による過当競争等が懸念された内
航海運業において、業界秩序の維持、船舶の近代化等に一定の成果をもたらした。
一方で、これらの施策の長期的な実施は、自由な新規参入や規模拡大の障害とな
り、競争制限的な市場構造が長期にわたって温存されることとなった結果、かえっ
て内航海運業界の活性化や中小零細性の解消の支障となってきた面がある。

③ このため、船調事業については、内航海運の活性化を図るため、平成10年5月に
これを解消し、内航海運暫定措置事業(以下「暫定事業」という)が導入された。
これまでの暫定事業の実施の結果、船腹需給の適正化等内航海運の市場環境の整備
に一定の成果がみられている。

④ 今後の内航海運市場は、暫定事業の進展に併せて、事業意欲のある事業者の事業展
開の多様化・円滑化が促進されることから、市場原理と自己責任の考え方の下、よ
り競争的市場構造への転換を進め、内航海運の活性化を図っていくことが重要であ
る。

(2)物流効率化の要請の高まり
① バブル経済の崩壊以降の長引く景気の低迷、経済のグローバル化の進展に伴う企業
の国際競争の激化等を受けて、内航海運の主要貨物である鉄鋼、石油、セメント等
の産業基礎物資の製造企業においても、近年、合併や事業提携による事業再編の動
きが活発化している。

② こうした中で、これらの企業では交錯輸送の削減等物流効率化を進めてきている
が、今後、産業基礎物資の輸送の大半を担う内航海運においても、我が国経済の活
性化や産業の競争力の向上の観点から、より質の高い輸送サービスをできる限り低
コストで提供していくことが求められる。
なお、「新総合物流施策大綱(平成13年7月閣議決定。以下「新大綱」という)」
においても、高度かつ全体効率的な物流システムの構築の観点から、物流分野にお
ける規制改革や行政手続きの簡素化・効率化を図るとともに、内航海運における船
舶の大型化・高速化等による効率化を進めるとしているところである。

(3)環境保全のための取り組みの強化
① 平成9年12月の気候変動に関する国際連合枠組条約第3回締約国会議で採択され
た「京都議定書」において、我が国については、2008年から2012年までの
第1約束期間の平均で1990年の水準より6%の二酸化炭素の削減の達成が義務
付けられる等、地球的規模での環境保全の取り組みが急務となってきている。
とりわけ、自動車に比べて環境負荷が小さい内航海運の輸送特性に鑑み、自動車か
ら内航海運へのモーダルシフトを推進することが重要であり、新大綱においても、
平成22(2010)年までにモーダルシフト化率(輸送距離500キロメートル
以上の基礎産業物資以外の輸送量のうち、鉄道又は海運(フェリーを含む)の占める
割合)を50%を超える水準とすることを目指すとされているところである。
また、自動車から排出されるNOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物資)による大
気汚染についても、早急な解決が求められる重要な課題となっている。自動車から
内航海運へのモーダルシフトを推進することで、自動車走行量を抑制し、あわせて
渋滞緩和を図り、大気汚染の課題の解決に貢献することができる。

② 内航海運のモーダルシフトについては、従来よりRORO船やコンテナ船の建造支
援等の取り組みが進められてきたところであるが、今後更にモーダルシフトを効果
的に推進していくためには、経済性に優れ環境負荷の小さな次世代内航船(スーパ
ーエコシップ)の研究開発を行うとともに、社会的規制の見直しを図り、21世紀
型内航海運の中核船として広く普及を進める等の取り組みの強化が求められる。
また、今後の循環型社会実現の観点からは、広域リサイクル施設等の立地に対応
した港湾施設等の整備や、内航海運の活用を含めた効率的な静脈物流システムの具
体化の取り組みも求められる。

(4)IT化の進展への対応
① 近年の情報通信技術(IT)の著しい発達に対応して、物流分野においては、物流
EDIの導入、サプライチェーンマネジメントの活用等ITを活用した物流の情報
化が進展している。

② 内航海運については、主にオペレーター事業者において、ITを活用して使用船舶
の動静の把握、効率的な配船等を管理・運用するシステムの構築が図られてきてい
る。

③ 今後の内航海運におけるIT化は、現在、国土交通省において取り組んでいる「高
度船舶安全管理システム」のように、物流の情報化だけでなく、船舶の安全情報の
把握・管理の効率性の向上等の分野まで進展していくことが予想される。
こうしたIT化を通じた船舶の安全管理の高度化・効率化を促進する観点から
は、例えば、近年の船舶管理会社の設立の動向も視野に入れつつ、船舶管理業務の
IT化の取り組みを進めていくことが求められる。

(5)船員問題への対応
① 内航船員数は、平成12年で37,063人と過去10年間で34%の減少となっ
ている。その年齢構成についても、40歳以上の船員が全体の73%を占める(平
成12年)一方で、20歳代及び30歳代の船員は合わせて26%という逆ピラミ
ッド型となっており、将来的な船員不足が懸念される。

② 加えて、物流効率化の進展等に伴い、乗り組み人員の削減、船員一人当たりのワー
クロードの増加等船員の労働環境も厳しいものとなってきており、内航海運のヒュ
ーマンインフラである優良な船員を安定的に確保する観点からは、教育・育成及び
雇用対策とともに労働環境の適切な改善に取り組んでいくことが求められる。

3.21世紀型内航海運のあり方

(1)基本的な考え方
21世紀型内航海運のあり方に係る基本的な考え方は、以下のとおり整理すること
が適当である。

① 21世紀型内航海運の目指すべき方向性
1) 内航海運は、我が国物流の4割を担い、とりわけ鉄鋼、石油、セメント等の産業基
礎物資の輸送の8割を占めている。加えて、モーダルシフト推進や大規模災害時等
における緊急輸送手段としての役割も期待されるところである。
四方を海に囲まれた我が国において、内航海運のこうした「物流の大動脈」とし
ての役割は、21世紀においても欠くことのできないものである。

2) また、内航海運は我が国の基幹的輸送モードとして、物流効率化、環境保全等、
21世紀を迎えた我が国経済社会の様々な要請に積極的に貢献していくことが必要
である。

3) このため、21世紀型内航海運においては「他の輸送モード、との連携を図りつ
つ、より効率的で環境に優しい輸送サービスの安定的な提供」を目指すことが適当
である。

② 21世紀型内航海運の構築に向けて
1) 今後の我が国経済は、かつてのような大幅な経済成長は望めず安定的な成長を目指
していくこととなるものと予想される(運輸政策審議会総合部会長期輸送需要予測
小委員会報告書(平成12年6月)においては、内航海運の1995年から
2010年までの輸送量は横這いから減少傾向と予測。)

2) こうした経済情勢の下、今後、21世紀型内航海運が安定的な輸送量を確保し、輸
送需要の喚起を図るためには、製造コストのみならず物流コストについても国際競
争力の確保等が重視されてきている現状に留意しつつ、輸送コストの低減とともに
静脈物流等新たな輸送ニーズの開拓に取り組んでいくことが重要である。

3) また、内航海運が物流効率化、環境保全等に積極的に対応していくためには、高度
かつ効率的な輸送サービスの構築を図るとともに、その円滑な提供のための環境整
備を官民一体となって推進していくことが重要である。

4) このためには、技術革新や社会的規制の見直しを推進することに加え、内航海運の
市場構造をより競争的なものへと転換し、事業者の多様な事業活動が自由かつ健全
に展開されることが不可欠である。
加えて、今後の物流システム全体の高度化・効率化を図る観点からは、トラッ
ク、港湾運送等他の物流関係部門と十分な連携を図るとともに、これらの取り組み
も促していくことが必要である。

5) こうした事業者の活力ある事業展開を通じて、内航海運の活性化が図られるととも
に、21世紀の様々な時代の要請に的確に対応した輸送サービスの円滑な提供が図
られることとなるものと考える。

(2)内航海運業界における今後の取り組みの方向性
内航海運業界における今後の取り組みの方向性については、以下のとおり整理する
ことが適当である。

① オペレーター事業者の活性化
1) 船調事業を通じた船腹の需給調整を目的とした参入規制の強化等が行われた昭和
40年代初めの内航海運市場は、9,000を超える小規模オペレーターの乱立によ
り、過当競争の発生、安定輸送の阻害等が懸念される状況であった。
しかしながら、我が国経済社会の発展とこれに伴う内航海運の近代化の結果、現
在においては、砂利船、曳船等を除く一般的な内航輸送に係るオペレーター(許可)
事業者は350事業者(平成12年度末)と相当程度減少し、このうち売上高50
億円以上の40事業者が内航海運業の売上高全体の3割、運航船舶の5割を占めて
いる。

2) このようにオペレーター事業者においては、特定の荷主への系列化が進むととも
に、オペレーター事業者間において元請、1次、2次等のような多重構造が形成さ
れている。
オペレーター事業者は、実運送事業者として今後の物流効率化、環境保全等を担
う21世紀型内航海運の中心的役割を果たしていく必要があることに鑑みれば、内
航海運の市場構造をより競争的なものとし、オーナーも含む全ての事業意欲のある
事業者による多様な事業活動を促進することを通じて、こうした構造の弊害の解消
に取り組んでいくことが必要である。

3) 加えて、モーダルシフト推進の観点からは、ドア・トゥ・ドアの一貫輸送サービス
の提供等の荷主ニーズへの柔軟かつ的確な対応を図るため、トラック事業者、港湾
運送事業者等他の物流事業者との提携等に取り組んでいくことが必要である。

② オーナー事業者の経営の高度化
1) オーナー(許可)事業者数は、昭和44年度末に9,000事業者の規模であった
が、平成12年度末では3,000事業者と大幅に減少してきている。また、かつて
オーナー事業者の多数を占めるとされたいわゆる「生業的オーナー」と見込まれる
小規模事業者(300総トン未満の船舶を1隻所有する事業者)数は、昭和47年
度末の7,000事業者から、平成12年度末では1,300事業者へと、この約
30年間でその8割が減少している等、オーナー事業者の規模構成は大型化してい
る。

2) このため、今後のオーナー事業者による経営については、これまでのように一律に
事業者数の適正化、規模の拡大等に重点を置いた転廃業の促進や集約・協業化を進
めるのではなく、むしろ、個々の事業者の経営状況に応じて、例えば、事業意欲の
あるオーナー事業者が共同で船舶管理会社を設立する等具体的な合理化・経営革新
に資する取り組みを積極的に展開していくことが必要である。

3) また、内航海運業界では船調事業が長期にわたり実施されていたことから、一部の
オーナー事業者の経営は、保有船舶や引当資格の資産価値に依存して行われていた
場合が少なくない。このため、オーナー事業者は過大な投資が可能となり、かえっ
て船腹需給の適正化の阻害要因となっていた面がある。今後のオーナー事業につい
ては、適切な輸送需要の見通し等に基づく船舶収支に経営の主眼を置いて行われる
ことが必要である。

(3)内航海運行政における今後の取り組みの方向性
内航海運行政における今後の取り組みの方向性は、以下のとおり整理することが適
当である。

① 基本的方向性
従来の内航海運行政は、船調事業の実施、内航海運業法等規制の強化等を通じて、
業界秩序の維持、船舶の近代化等内航海運業の安定的な発達を図ることに重点が置か
れていた。
しかしながら、今後は、船調事業の解消をはじめとする内航海運を取り巻く様々な
環境変化を踏まえ、高度かつ全体効率的な物流システムの構築の観点から、輸送の安
全の確保を前提としつつ、輸送コストの低減、輸送サービスの質の高度化や革新的サ
ービスの創出を図ることに重点を置いた行政を展開していくことが必要であり、行政
の役割はそのためのソフト・ハード両面にわたる環境整備に取り組むことである。
特に、社会的規制については、公正かつ競争的な市場環境の整備を図る観点から、
技術革新や経済社会情勢の変化を踏まえ、所期の目的に照らし妥当なものであるか否
かを適時適切に見直す必要がある。
具体的には、以下の2つの基本的方向性で取り組んでいくことが必要である。

○ 健全かつ自由な事業活動を促す市場環境の整備
○ 効率的で安全かつ環境に優しい輸送サービスの構築

② 取り組みの具体化に際しての留意点
取り組むべき課題の内容については、以下の点に留意して具体化を図っていくこと
が必要である。

1) 海運、船舶、船員及び港湾のそれぞれの分野において、内航海運に係る施策の横断
的見直しを行い、総合的行政の展開を図ること。

2) それぞれの取り組み内容について、措置期限等その実施スケジュールの明確化を図
ること。

3) 海事関係者のみならず、広く国民に対するアカウンタビリティ(説明責任)の確保
に努めること。

Ⅱ 内航海運行政の取り組むべき課題について

1.基本的な考え方
「健全かつ自由な事業活動を促す市場環境の整備」については、以下の3つの基本
的な考え方に沿って取り組むことが適当である。

(1)事業展開の多様化・円滑化
① 市場における自由な事業活動による競争を促すことは、新規事業者の参入ととも
に、各事業者の創意工夫に基づく多様な事業展開を通じて、市場全体の活性化に資
するものである。こうした競争的な市場環境の整備により、輸送コストの低減、輸
送サービスの質の高度化や革新的サービスの創出を図ることが重要である。

② このため、内航海運の事業規制制度について、事業区分を含めた参入規制等の緩
和・見直しのほか、船舶管理会社形態の導入を図ることが適当である。

(2)市場機能の整備
① 競争的な市場環境の整備に当っては、現在の内航海運の市場構造が特定荷主への系
列化、多重的な取引関係等荷主企業を頂点とするピラミッド型となっていること等
を踏まえると、参入規制の緩和等の取り組みのみでは市場原理の有効かつ十分な機
能の発揮は期待できない。

② したがって、参入規制の緩和等と併せて、公正かつ透明性の高い市場の構築を図る
ための市場機能の整備を進めることにより、健全かつ自由な事業展開を促進するこ
とが重要である。

③ このため、内航海運の事業規制制度について、市場の透明性の向上のための仕組
み、契約関係の適正化・明確化等必要な市場機能の整備を図ることが適当である。

(3)輸送の安全の確保
① 内航海運は、参入規制の緩和等により事業者間の競争が活発化することが予想され
るものの、一方で、鉄鋼、石油、セメント等の我が国経済活動及び国民生活に不可
欠な産業基礎物資の輸送を担うことから、安全かつ安定的な輸送サービスの提供の
観点から、輸送の安全の確保を図ることが重要である。

② このため、内航海運の事業規制制度について、船舶管理体制の明確化、事業活動の
是正措置の整備等輸送の安全の確保のための事後チェックの仕組みの構築を図るこ
とが適当である。

また、「効率的で安全かつ環境に優しい輸送サービスの構築」については、以下の
3つの基本的な考え方に沿って取り組むことが適当である。

(4)高度かつ効率的な輸送サービスの構築
① 内航海運が、我が国の基幹的輸送モードとして、物流効率化、環境保全等経済的社
会的要請に対して積極的にその役割を果たしていくためには、より低コストで質の
高い輸送サービスの構築を図ることによって、内航海運自体の競争力の向上を目指
すことが重要である。

② このため、経済性に優れ環境負荷の大幅な低減を可能とする次世代内航船(スーパ
ーエコシップ)等新技術の研究開発の推進及び普及を図るとともに、船舶・船員分野
に係る規制については、フェリー等の旅客船も視野に入れつつ、技術革新の成果や
経済社会情勢の変化を踏まえて見直しを行うほか、安全性に係る総合的な評価を行
う仕組みの構築を図ることが適当である。

(5)良質な輸送サービスの円滑な提供体制の確保
① 内航海運における高度かつ効率的な輸送サービスの構築と併せ、こうした輸送サー
ビスが、国・民間等関係者の適切な役割分担の下で円滑に提供されるための環境整備
を図ることが重要である。

② このため、良質な内航船舶についての適切な建造支援の仕組み、優良な船員の安定
的な確保のための諸施策の充実を図ることが適当である。

(6)全体効率的な物流システムの実現
① 我が国経済社会の変化に伴い、高度化・多様化する輸送ニーズに的確に対応するた
めには、内航海運自体の輸送サービスの充実はもとより、外航海運、トラック、港
湾運送等他の物流関係部門と十分に連携しつつ、物流システム全体としてサービス
の効率化・コストの低廉化を図り、競争力の向上を目指すことが重要である。

② このため、ドア・トゥー・ドアの一貫輸送サービス提供に資する利用運送事業制度の
見直し、物流の情報化・標準化等を通じた他の物、、流事業者との連携の推進のほか
港湾荷役サービスの一層の効率化モーダルシフトの推進や静脈物流ニーズへの対応
を図ることが適当である。

2.事業展開の多様化・円滑化

(1)参入規制の緩和
① 内航海運業の参入については、現在、許可制(100総トン未満等の船舶により事
業を行う場合は届出制)とされている。これは、そもそも昭和40年代初め、
9,000を超える小規模オペレーター事業者の乱立による過当競争等が懸念された
内航海運市場の状況を受けて登録制から規制強化されたものである。

② しかし、事業者数の劇的な減少、特定荷主への系列化等内航海運市場の状況は大幅
に変化してきていることから、今後は、オペレーターやオーナーといった事業区分
にとらわれず、事業意欲のある事業者の新規参入、規模拡大等活力ある事業展開を
促進することにより内航海運の活性化を図っていくことが適当である。

③ また、100総トン未満等の船舶により事業を行う届出事業者については、事業規
模が非常に小さい(輸送規模(総トン数)は、内航海運業全体の1.9%(平成
12年度末))こと等から、プッシャーバージ等複数の船舶を一体として内航運送の
用に供するものを除き、今後とも事業規制を継続する必要性は乏しい。
なお、再用船、連続トリップチャーター等の規制については、緩和すべきであると
の意見もあるが、参入規制の緩和の具体的制度設計の中で検討することが適当であ
る。

④ このため、参入規制については、以下のとおり見直すことが必要である。

● 許可制(100総トン未満等の船舶を使用する場合は届出制)を登録制(5年程度
の更新制とし、100総トン以上の船舶(プッシャーバージ等一定の船舶は一体とし
て取り扱う)により事業を行う者に限る)へ変更。

● オペレーター(内航運送業)、オーナー(内航船舶貸渡業)の事業区分を廃止

(2)船舶管理会社形態の導入
① 近年設立の動きが見られる船舶管理会社については、その経営形態によっては、ア
ウトソーシングの活用による輸送コストの低減、船員の雇用・教育体制の向上等に
寄与するとともに、とりわけオーナー事業を行う事業者の今後の事業展開の多様
化・円滑化を推進する観点から有効な手段である。

② このため、以下のとおり船舶管理会社による事業活動の円滑化に係る制度を整備す
ることが必要である。

● 船員職業安定法等船員関係制度における船舶管理会社の位置付け(船員の雇用責任
の明確化を含む)の整理

3.市場機能の整備

(1)運送約款の作成
① 内航海運の市場構造は、特定荷主への系列化、多重的な取引関係等荷主企業を頂点
とするピラミッド型となっており、契約関係の透明性に欠けることから、荷主企業
との公正な取引関係の構築、事業意欲のある事業者の積極的な参入等の障害となっ
ている面がある。

② 今後、参入規制の緩和等による健全かつ自由な事業活動の促進を図るためには、公
正かつ透明性の高い市場の構築に積極的に取り組むことが重要であり、こうした観
点から、内航海運における適切な契約関係の構築及びその透明性の向上を図ること
が適当である。
なお、インダストリアルキャリアの取引は現行の運送契約が有効に機能してお
り、行政の関与は特段必要ないとの意見もあるが、これについては、事業者の過度
の負担とならないよう留意しつつ具体化を図ることが適当である。

③ このため、後述する取引の適正化のための取り組みとともに、以下のとおり運送約
款に係る制度を整備することが必要である。

● オペレーター事業を行う事業者について、運送約款の届出・変更命令制度を整備

● 標準運送約款の公示

(2)ガイドライン等による適正な取引環境の整備
① 内航海運の市場構造は、特定荷主への系列化、多重的な取引関係等荷主企業を頂点
とするピラミッド型となっており、こうした市場構造の弊害である優越的地位の濫
用のおそれ、硬直・閉鎖的な取引慣行等のため、市場原理の有効かつ十分な機能の
発揮が困難となっている面がある。

② したがって、市場原理と自己責任の考え方の下、健全かつ自由な事業活動を促進す
るため、参入規制の緩和等と併せ、荷主、オペレーター及びオーナー間における取
引関係の適正化を図ることが適当である。
なお、事業者は自己責任の下で取引しており、行政の関与は特段必要ないとの意
見もあるが、これについては、輸送実態等を十分踏まえた取引の適正化のための取
り組みを行うことが適当である。

③ このため、以下のとおり公正取引委員会と連携して、荷主、オペレーター及びオー
ナー間における取引関係の適正化を図るために有効な規制の枠組みの検討及びその
適切な運用を図ることが必要である。

● ガイドライン等による内航海運業に関する適正な取引環境の整備

(3)適切な情報の開示
① 今後、市場原理が有効かつ十分にその機能を発揮するために必要な市場機能の整備
として、前述した取引の適正化のための取り組みのほか、船腹需給の動向・見通
し、運賃・用船料水準等内航海運市場に係る情報を把握するとともに、これを適切
な形で開示することが適当である。

② 最高限度量の設定規制については、セーフティネットとして残すべきであるとの意
見もあるが、かつての船調事業の実施を前提とした制度であり、船腹の需給調整を
行わない現在、廃止することが適当である。
また、適正船腹量の告示制度については、最高限度量の設定の際の基準とされる
ことが法律事項としての趣旨であることから、最高限度量の設定規制と併せて廃止
することが適当である。
なお、内航海運事業者等関係者に対する一定の指針として何らかの船腹需給に係
るデータの公表が求められる場合は、当該データの策定主体、策定・公表方法につ
いて関係者間で十分検討することが適当である。

③ 標準運賃・貸渡料に係る規制(設定・告示・勧告)については、セーフティネット
として残すべきであるとの意見もあるが、一種の公定価格を示すものであり、内航
海運業の自由な経営判断、市場原理に反するものであることから、廃止することが
適当である。
運賃・用船料の適正化については、暫定事業による船腹需給の適正化とともに、
前述した運送約款の作成、ガイドライン等の整備による公正で透明な取引関係の構
築のための市場機能の整備を優先させることが有効である。

④ このため、情報開示の取り組みについては、以下のとおり内航海運市場に係る情報
の把握及びその適切な開示を行うことが必要である。
なお、これについては、事業者の過度の負担とならないよう留意しつつ具体的制
度設計を図ることが適当である。

● 報告・聴取規定に基づき、内航海運事業者に対して事業活動についての一定の報告
を義務付けるとともに、事業者団体と協力しつつ、把握したデータを活用して船腹
需給状況、運賃・用船料水準等の市場情報を定期的に開示

(4)内航海運暫定措置事業の円滑かつ着実な実施等
① 暫定事業は、船調事業の解消に伴うソフトランディング施策であるとともに、内航
海運の構造改革を推進する観点から、船腹需給の適正化と競争的市場環境整備を図
るための施策である。

② 暫定事業による船腹需給の適正化を進めることは、市場原理が有効かつ十分に機能
するための重要な環境整備であるとともに、転廃業等市場からの退出を円滑化する
ためのセーフティネットとしての効果を有するものである。これまで約4年間の同
事業等の実施により、1,439隻、165万対象トンの解撤等が行われ、240
隻、60万対象トンの建造等が行われた結果、1,199隻、104万対象トンの船
舶が純減しており、船腹需給の適正化に一定の成果がみられている。

③ 今後、暫定事業における非効率的な老朽船の抜本的処理を通じた船腹需給の適正化
と高度で安全な内航輸送システムの構築を図るため、シンデレラ・プロジェクト
(船齢15年を超える老朽船の代替建造を促進するため、船齢15年を超える船舶
は平成15年4月以降解撤等交付金(以下「交付金」という)の交付対象としない
こと)を円滑かつ着実に実施することが適当である。

④ 一方、暫定事業は多額の借入金を用いて長期間にわたり実施されるものの、現時点
では建造等納付金(以下「納付金」という)による収入は必ずしも安定的とは言え
ないこと、船種により事業活動に対して一定の制限が加えられていること等、同事
業の円滑かつ着実な実施や経済的・社会的要請への的確な対応の観点からは改善す
べき課題がある。
また、政府の「規制改革推進3ヵ年計画(改定)」(平成14年3月29日閣議決
定)において「内航海運暫定措置事業の運営方法」が盛り込まれており、これに基
づき早急に取り組みの具体化を図ることが適当である。

⑤ なお、暫定事業については、荷主関係者より早期終了すべきであるとの意見もある
が、これについては、同事業の開始から約4年間しか経過しておらず、船調事業の
解消に伴うソフトランディング施策と船腹需給の適正化・競争的市場環境整備とい
う同事業の目的が未だ達成されていないこと、さらには同事業を途中で終了するこ
とにより多額の残存債務が発生することという問題点があり、慎重に対応すること
が適当である。

⑥ このため、暫定事業については、以下のとおりシンデレラ・プロジェクトの実施、
運営方法の見直し等を円滑かつ着実に実施していくことが必要である。

● シンデレラ・プロジェクトの円滑かつ着実な実施
(実施スケジュール)
平成14年度より措置(平成13年度に一部前倒し措置済み)

● 事業運営方法の見直し
イ 資金管理方法の適正化
ロ 情報の適切な公開
(実施スケジュール)
平成14年度より措置

● 代替建造の促進
同事業の円滑かつ着実な実施のため、直ちに借入金の追加のみを考慮するのではな
く、まず納付金収入の増加を図る観点から、業界全体として荷主ニーズへの柔軟かつ
適格な対応等により内航海運の活性化を図り、運輸施設整備事業団の共有建造方式等
を活用しつつ代替建造を促進

● 暫定事業規程等における船種による輸送条件等の見直し
(実施スケジュール)
平成14年度前半までに国土交通省及び日本内航海運組合総連合会において具体的
見直し方策について検討を行い、年度後半のできるだけ早い時期に措置

4.輸送の安全の確保

(1)船舶管理規程(仮称)の作成
① 今後、物流効率化等に対応して低廉な輸送サービスの提供が求められる一方で、内
航貨物船による海難事故が必ずしも少なくない現状を踏まえると、参入規制の緩和
等による競争の促進と併せ、産業基礎物資の輸送の太宗を担う内航海運業の輸送の
安全の確保のための取り組みを促進することが適当である。

② 近年は、旅客船の運航管理に係る規制強化、内航貨物船のISMコードの任意取得
の増加等、とりわけ保守整備、船員配乗、運航管理等の船舶管理業務の適切な実施
に係る制度構築・運用が図られてきているところである。

③ このため、内航貨物船に係る輸送の安全を確保する観点から、以下のとおり船舶管
理業務を適切な体制の下で安全に実施するためのマニュアル(船舶管理規程(仮
称)に係る制度を整備することが)必要である。
なお、これについては、事業者の過度の負担とならないよう留意しつつ具体的制
度設計を図ることが適当である。

● 内航運送の用に供する船舶を所有する内航海運事業者について、当該船舶に係る船
舶管理規程(仮称)の届出・変更命令制度を整備

(2)輸送の安全の確保のための是正命令制度の整備
① 現行の内航海運業法においては、例えば内航海運業者の事業活動において輸送の安
全を阻害している事実があると認める場合であっても、法的な是正措置を講じるこ
とができないこととなっている。

② 今般、参入規制の緩和等により事後チェック型の行政への転換を図る中で、海上に
おける輸送の安全を確保する観点からは、行政が事後的に事業活動の是正を命じる
ための手段を整備することが適当である。

③ なお、現行の内航海運業における事業改善の勧告規定は、その内容が事業の合理化
に関するものに限定されているが、今後、内航海運の市場構造が、市場原理と自己
責任の考え方の下、より競争的なものに転換していく中で、事業の合理化について
は専ら事業者自身の経営判断に基づき主体的に取り組むべきである。

④ このため、以下のとおり輸送の安全の確保のために行う是正命令に係る制度を整備
することが必要である。

● 船舶管理規程(仮称)の遵守等輸送の安全の確保のために必要な事業活動の是正措
置を命じることができる制度を整備

5.高度かつ効率的な輸送サービスの構築

(1)新技術の開発・普及
現在、内航海運においては、長引く景気の低迷の中、荷主企業の物流コストの削減
等物流効率化への対応が益々求められるようになってきており、厳しい経営環境にあ
る内航海運事業者にとって、一層の輸送の効率化が喫緊の課題となっている。
船舶の技術開発・普及は、輸送の効率化を促進するための有効な手段であるものの、
相応の初期投資や技術水準を必要とするため、新技術を導入する事業者への特典付与
スキームの構築等行政と民間が一体となった取り組みを計画的に進めることが適当で
ある。その際、新技術開発にあたっては、その経済性、市場性を踏まえつつ推進する
ことが重要であるとともに、また普及にあたっては、導入のインセンティブとなるよ
うな支援スキームや規制の見直し等の環境整備を図ることが重要である。

① 次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発・普及の推進
1) 平成13年度より研究開発が開始されている次世代内航船(スーパーエコシッ
プ)は、ガスタービン対応型新船及び電気推進式。、二重反転ポッドプロペラを用
いた画期的な新型船である同船は従来の内航船と比較して、環境負荷の低減(CO2:
3/4、NOx:1/10、SOx:2/5) 、経済性の向上(総合効率約10%向上、貨物
倉約20%増加)、船内労働環境・操船性の大幅な改善(騒音:1/100、船上メン
テナンスフリー、真横移動可能)が期待される。

2) このため、以下のとおり優れた特性を有する革新的な船舶の研究開発及び普及を図
ることが必要である。

● 次世代内航船(スーパーエコシップ)の早期の研究開発及び普及に向けた環境整備
(実施スケジュール)
平成17年度までのできるだけ早い時期までに実証実験及び普及に向けた環境整備を
終了

② 高度船舶安全管理システムの研究開発・普及の推進
1) 高度船舶安全管理システムは、最新のIT技術を活用した船舶の推進機関等の遠
隔監視・診断システム、陸上支援システム及びこれを基礎とした新たな運航管理シス
テムを組み合わせた革新的な安全管理システムである。
同システムの導入により、従来型船舶と比べ、運航効率性及び安定性向上、ヒュー
マンエラーの減少、保守整備の省力化・コスト削減等の船舶運航の安全性と海上物流
の効率性の飛躍的な向上が期待される。

2) このため、以下のとおり安全管理の高度化に資する新技術の研究開発及び普及を図
ることが必要である。

● 高度船舶安全管理システムの早期の研究開発及び普及に向けた環境整備
(実施スケジュール)
平成16年度までのできるだけ早い時期までに実証実験及び普及に向けた環境整備を
終了

③ TSL(テクノスーパーライナー)の普及の推進
1) TSL(テクノスーパーライナー)は、従来の船舶の2倍以上の高速航行が可能で
あり、航空機やトラックに比べて大量の貨物、、が積載できるほか500海里以上
の航続距離を有するとともに荒天時においても安全に航行できる等、画期的な超高
速船として既に開発されているものである。

2) TSL(テクノスーパーライナー)の投入航路については、国内海上物流の基幹航
路、離島航路又はアジア近海航路の各分野が想定されている。TSL第1船は、こ
のうち離島航路である東京-小笠原航路に、平成16年度より投入される予定であ
る。このTSL第1船は、新形式船舶の保有・貸与、海上輸送システム開拓事業等
を行う新会社(平成14年5月上旬に設立予定)によって貸与・保守管理されるこ
ととなっている。
第2船以降については、旅客カーフェリー、RORO船又はコンテナ船としての
就航を目指した取り組みが進められている。今後、TSLを活用した超高速海上輸
送ネットワークの構築を通じた新しい市場の創出が期待されるところであり、内航
海運への活用を含め、その市場性・経済性の検証を図りつつ、引き続きTSL実用
化の促進に取り組むことが適当である。

(2)社会的規制の見直し
内航海運分野における船舶の性能・構造要件、船員の乗り組み体制等に関するいわゆ
る社会的規制については、輸送の安全の確保はもとより、公正かつ競争的な市場環境
の整備を図る観点から、適切な基準を策定するとともに、この基準が遵守されるよう
行政、事業者等関係者が一体となって取り組むことが重要である。
また、基準の策定や見直しを行うに当たっては、新技術の活用等を図りつつ、十分
な安全管理体制を構築している事業者については、その安全管理能力を活用し、行政
の関与を極力減らす等のインセンティブを与えることにより、保守整備の省力化、事
務作業の効率化、コスト削減等が図られることから、こうした自主的取り組みを促進
することが重要である。さらに、船舶の性能・構造要件に関する基準と船員の乗り組み
体制等に関する基準の整合性にも配慮することが必要である。

① 船舶の性能・構造要件に関する規制の見直し
1) 近年の科学・工学技術の進歩は、情報通信分野をはじめとして、船舶を含む全ての
分野において目覚しいものがあり、船舶の性能・構造要件に関する規制は、こうした
技術革新の進展、経済社会情勢の変化等を踏まえ、引き続き柔軟かつ適切に見直し
を行っていくことが適当である。

2) 船舶の性能・構造要件に関する規制については、設計の自由度を高め、各企業にお
ける技術開発努力を促進する観点から、平成9年度より順次、一律に船舶の仕様に
より規定していた基準を、原則、基準設定の目的を示した上で性能を判断し得る定
量的な数値による基準に改めており(性能基準化)、今後とも、こうした取り組みを
継続して実施することが適当である。

3) また、事業者の利便性向上の観点から、土・日等の検査は平成10年度以降船舶検
査の多い地域で既に広く実施されているところであるが、こうした取り組みについ
ては、船舶の実働予定等を勘案して、14年度以降の支局統合に伴う要員の集中配
置等により、さらにきめ細かく対応していくことが適当である。

● 船舶の性能・構造要件の性能基準化を継続的に実施
(実施スケジュール)
逐次省令改正等により対応

● 土・日等の船舶検査の充実
(実施スケジュール)
船舶の実働予定等を勘案し、よりきめ細かく対応できるものから順次実施

② 船員の乗り組み体制等に関する規制の見直し
1) 船員の乗り組み体制は、船員法における労働時間規制を満たす定員・航海の安全の
確保のために必要な員数、船舶職員法における船舶職員配乗基準等を考慮して定め
られている。
これらの規制については、船舶の航行の安全の確保を基本としつつ、技術革新の
進展や経済社会情勢の変化に適切に対応し、以下の方向で一体的かつ総合的に見直
しを行うことが必要である。
イ 経済的・社会的実態を踏まえて、規制の実効性の確保にも十分留意しつつ、可能な
範囲で規制内容の弾力化・最小化を図る。

ロ 労働と生活の場が同一である特殊な労働の実態を十分に踏まえて、航海及び船内
の安全を確保することはもとより、適正な労働環境を確保する。

ハ 機関部等の技術革新の進展等を踏まえ、効率的な船舶職員の配乗体制の再構築を
図る。

● 船員の乗り組み体制について、有識者、使用者、労働組合等で構成される「内航船
乗組み制度検討会」を立ち上げ、総合的な検討を実施
(実施スケジュール)
総合的な検討を平成15年度内を目途に終了し、結論の得られたものから措置

2) 海員名簿、船員手帳、海技免状を地方運輸局等の窓口に提示して行う雇入れ契約の
公認については、同制度を廃止すべきであるとの意見もあるが、雇用関係の確定、
乗組み体制のチェック、乗船履歴の記録等の観点から諸外国でも同様の手続が行わ
れているものである。
しかし、公認申請手続の負担の軽減を図る観点から、当面の措置として、電子政府
の導入と併せ、就業規則、労働協約等が定められており労務管理が適切に行われ
ている船舶については、事前に登録の上、当該船舶を管理する事業所単位で電子申
請することを可能とする登録公認制(仮称)を以下のとおり導入することが必要で
ある。

● 登録公認制(仮称)の導入
(実施スケジュール)
平成14年度内に情報システムを構築関係法令等を改正し、15年度以降条件に合
致する船舶・事業所を対象として逐次実施

③ 技術革新に伴う社会的規制の見直し
1) 現在、次世代内航船(スーパーエコシップ)、高度船舶安全管理システム等革新的
な技術の開発が進められているが、このような新技術の開発に当たっては、経済的
な効果や安全・環境への影響等を明確にすることはもとより、新技術に対応した社会
的規制のあり方を併せて検討することが重要である。

2) 次世代内航船(スーパーエコシップ)は、従来のディーゼルエンジンの船舶と異な
り、スーパーマリンガスタービンの使用(同ガスタービンのユニット化により機関
の検査の省力化も可能)により機関部の船上メンテナンスフリー等船内作業の大幅
な軽減が実現ができるため、これに対応した船舶の性能・構造要件、検査項目及び航
行距離に応じた検査時期の設定を検討するとともに、機関部等の技術革新を踏まえ
た効率的な船員の乗り組み体制のあり方についても検討することが必要である。

3) 高度船舶安全管理システムは、船舶の機関等の状態を陸上から遠隔監視・診断する
こと等により、船陸一体となった安全管理体制の構築を目指すものであり、同シス
テムの導入により十分かつ合理的な安全管理体制の構築が可能となる。このような
安全管理体制を構築している事業者については、その安全管理能力を活用し、行政
の関与を極力減らす等インセンティブを与えることにより、一層の保守整備の省力
化、コスト削減等が図られる。
したがって同システムを採用し、かつ、国際安全管理規則(ISMコード)に基づき
作成した安全管理手引書を有する事業者が運航管理する船舶については、機関に関
する実質的な検査の省略、
機関に関する検査時期の弾力化等を検討するとともに、機関部等の技術革新を踏
まえた効率的な船員の乗り組み体制のあり方についても検討することが必要であ
る。

● 次世代内航船(スーパーエコシップ)に係る船舶の性能・構造要件、検査項目及び
航行距離に応じた検査時期の設定並びに機関部等の技術革新を踏まえた効率的な船
員の乗り組み体制のあり方の検討

● 高度船舶安全管理システムに係る実質的検査の省略、機関に関する検査時期の弾力
化等及び機関部等の技術革新を踏まえた効率的な船員の乗り組み体制のあり方の検

(実施スケジュール)
次世代内航船(スーパーエコシップ)及び高度船舶安全管理システムの実証実験の
際には、船舶検査、船員配乗等関連する社会的規制の見直しに係る実証実験も併せて
行うこととし、次世代内航船及び高度船舶安全管理システムのそれぞれの実用化予定
時期まで(高度船舶安全管理システムは平成16年度まで、次世代内航船は平成17年
度まで)に検討の上措置

④ 安全評価手法の構築
1) 新規制の導入、既存の規制の改正等の社会的規制の見直しに当たっては、行政はそ
の見直しに係る社会的規制の合理性及び妥当性について評価を行い、その結果を国
民に提供し、アカウンタビリティ(説明責任)を果たすことが重要である。

2) こうした評価の対象としては、安全運航(輸送の安全の確保)や輸送の効率化の観
点を踏まえ、船舶構造・設備要件のみならず、運航管理等のソフト面の要件も含める
べきであり、その評価手法を確立することが適当である。

3) 現在、行政において、船舶の構造・設備要件に関する基準の見直しに関して「船舶
の総合的安全評価」(海難事故等のデータに基づき、各種安全対策について費用対
効果等を考慮し合理性を比較評価すること)の手法の確立に取り組んでいるところで
あるが、今後は、船員の乗り組み体制等に関する基準の見直し等についてもできる
だけ客観的データに基づいて評価することが必要である。

● 船舶の総合的安全評価の手法の確立
(実施スケジュール)
平成17年度までに順次評価手法を確立し、これと並行して技術規制の見直しに係
る安全評価を適宜実施

6.良質な輸送サービスの円滑な提供体制の確保

(1)運輸施設整備事業団の船舶共有建造業務の重点化
① 内航海運においては、近年の荷主企業による物流効率化の要請への対応を図る観点
から、船舶の積載重量(又は積載内容)の増加、航海速度の向上、IT技術を用い
た高度船舶管理等荷役・運航の効率化等に資する高度な船舶の建造を促進することに
より、一層の物流効率化を図っていくことが適当である。

② また、地球温暖化等深刻化する環境問題への対策として、環境負荷の少ない大量輸
送機関である内航海運の活用を促進するため、モーダルシフト対応船舶(RORO
船、コンテナ船、フェリー等)の建造を促進し、船舶単体のエネルギー消費効率の
向上を図ることが適当である。

③ このため、以下のとおり運輸施設整備事業団の船舶共有建造業務については、政策
課題への対応の明確化、国内海運業の構造改革の促進及び民業補完の観点から業務
内容の再構築を行い、次世代内航船(スーパーエコシップ)等新技術の実用化の動向
等も踏まえつつ、物流の効率化、環境対策等の政策課題への一層の重点的対応を図
ることが必要である。
また、船舶共有建造業務については、内航海運の活性化に資するため、事業者に
活力ある事業展開を行うインセンティブを与える仕組みを構築することが必要であ
る。

● 共有建造条件を現行の船種別建造から政策目的別建造に変更
(政策目的に合致しない船舶は建造対象から除外)

● 政策目的別建造に伴う分担割合(共有比率)の見直し
(実施スケジュール)
速やかに措置が可能なものについては、平成14年度当初に実施。その他のものに
ついては14年度以降検討の上実施できるものから順次措置

(2)優良な船員の確保
船舶の運航の技能と経験を有する船員は、内航海運にとどまらずあらゆる海事産業
のヒューマンインフラであり、優良な船員を安定的に確保することは海事産業の発
展、良質な輸送サービスの提供のために不可欠な要素である。特に、内航海運におい
ては、船員の高齢化が顕著であり、若年船員を確保し、将来にわたって安定した労働
力を確保することが重要な課題となっている。
優良な船員を安定的に確保するためには、船員の教育・育成・就職の充実により若年
船員の確保を図ること、離職した船員が再度船員として活躍できること、労働力の移
動を円滑に進めること、安全かつ適正な労働環境の整備を図ること等の諸施策に取り
組んでいくことが重要である。

① 船員の教育・育成
1) 内航海運業界においては、若年船員を採用し、将来的な船員不足に備えたい意向は
あるものの、若年船員は即戦力がなく、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)を
行うとコスト高となる等の問題点が指摘されているところである。

2) このため、より即戦力のある内航船員の養成を進める観点から、平成13年10月
に設置された産・官・学から成る「内航船員養成における即戦力化等に係る検討委員
会」において、各教育機関が実施する即戦力化の方策のあり方、若年船員の就業機
会の拡大、OJTの充実方策、これらに係る国の役割等の検討が行われており、
14年度早期に同委員会における意見を取りまとめた上で、速やかに必要な施策を
講じていくことが適当である。

② 海上労働力移動の円滑化
1) 優良な船員の安定的な確保のためには、若年船員の教育・育成と併せて、一旦離職
した船員が再度船員として活躍できる場を紹介していくことが重要であり、船員職
業安定所における職業紹介等の業務について一層の効率化を図るとともに、求職者
及び求人者のニーズに迅速かつ適切に対応することが適当である。

2) 現在、船員職業紹介事業及び船員労務供給事業については、船員職業安定法により
原則として政府以外の者が行うことを禁止しているが、内航海運における将来的な
船員不足を考えれば、企業間で船員を移動する必要が生じてきている等、船員労働
力規制の新たなスキームが求められる状況になっている。
特に、船員労務供給事業については、OJTの余裕のない中小事業者に対し大規
模事業者等で教育された船員を供給することは、船員の教育機会の確保、中小船社
における優良船員の確保、船員の資質の向上、ひいては雇用の安定に資することと
なる。
船員職業紹介事業及び船員労務供給事業への民間参入については、「規制改革推
進3ヶ年計画(改定)」(平成14年3月29日閣議決定)に「船員職業紹介事業及
び船員労務供給事業について、学識経験者、労使の代表をメンバーとする国土交通
省の「船員職業紹介等研究会」において検討が行われており、船員労働の状況を勘
案しつつ、一定の要件を満たす者が許可を受けて有料で行うことを認める方向で出
来る限り早期に結論を得る。(船員中央労働委員会の意見聴取が必要)」旨盛り込ま
れており、同研究会において早期に結論を得るよう取り組むことが必要である。

3) このため、海上労働移動の円滑化の観点から、以下のとおり船員職業紹介事業等に
係る制度の見直し、電子化による職業紹介手続きの効率化を図ることが必要であ
る。

● 船員職業紹介事業及び船員労務供給事業への民間参入
(実施スケジュール)
船員職業安定法等所要の法令改正を実施し、平成16年度以降速やかに措置

● 求人・求職情報の電子申請化、求人・求職情報のデーターベース化等電子化システム
の構築
(実施スケジュール)
平成14年度のできるだけ早い時期に措置

7.全体効率的な物流システムの実現

(1)海陸一貫輸送サービスの充実
内航海運については、外航海運、トラック、港湾運送等他の物流関係部門との連携
が益々重要になっていることを踏まえ、海陸一貫輸送サービスの充実を図る観点か
ら、以下の施策を推進することが必要である。

① 海運に係る利用運送事業制度の見直し
1) 幹線の利用運送と両端の集配輸送を一貫して行う第二種利用運送事業は、トータル
としての物流システムの高度化・効率化を図るとともに、不特定多数の荷主の貨物を
集めて混載する雑貨の積み合わせ輸送を推進する上で中心的な役割を担うことが期
待される。

2) しかしながら、現在、第二種利用運送事業として選択できる幹線輸送は鉄道と航空
に限られており、今後、後述するモーダルシフトの推進、静脈物流ニーズへの対応
等を図る観点からは、このような限定を廃止し、海運についても一貫輸送サービス
が円滑に提供される仕組みの構築を図っていくことが適当である。

3) このため、第二種利用運送事業制度について、以下のとおり見直しを行うことが必
要である。

● 海運に係る第二種利用運送事業を可能とする制度の整備
(実施スケジュール)
貨物運送取扱事業法の改正により平成15年度に措置

② 港湾荷役の効率化・サービスの向上
1) 陸上輸送と海上輸送の結節部である港湾運送事業(港湾荷役)の効率化・サービス
の向上については、内航海運の競争力向上の実効性を高めるとともに、全体効率的
な物流システムの実現を図る観点から、積極的に推進していくことが適当である。

2) 港湾荷役については、平成12年11月に、京浜、名古屋、神戸等主要9港におけ
る需給調整規制の廃止等の規制緩和を内容とする改正港湾運送事業法が施行され、
その後、新規参入が実現する等その成果が徐々に現れてきているところであるが、
今後も改正法の定着を着実に推進し、新規参入、運賃・料金の多様化等を通じた港湾
荷役の更なる効率化・サービスの向上を推進すべきである。
また、主要9港以外の港における需給調整規制の撤廃については、「規制改革推
進3ヵ年計画(改定)」(平成14年3月29日閣議決定)に基づき取り組んでいく
ことが必要である。

3) さらに、港湾の24時間フルオープン化については、その推進が「新大綱」に盛り
込まれ、その早期実現を図るため、国土交通省においては、港運事業者、船社、荷
主、港湾管理者、行政の関係者による港湾物流効率化推進調査委員会を設置し、諸
課題についての検討を鋭意実施してきている。
こうした検討の成果も踏まえ、港運労使間で鋭意協議が行われた結果、平成13
年11月には、荷役作業は元旦を除き364日24時間実施すること並びにゲート
作業は土日及び祝日も平日と同様に8:30~20:00まで実施することが労使
間で合意された。
引き続き、港湾荷役のより一層の効率化・サービスの向上を目指し、情報化の推
進、作業の共同化等による事業基盤の強化を進めるとともに、各港毎の実情に応じ
た諸課題を解決するため、主要港毎に港湾物流の効率化・活性化を検討する場を設置
する等、港湾物流関係者の取り組みを積極的に支援することが適当である。

● 主要9港以外の港における需給調整規制の撤廃について、検討の上結論を得る
(実施スケジュール)
平成15年度内に結論

③ 物流の情報化・標準化
1) 内航海運においては、長年の取引関係又は商慣行により、貨物運送、船舶の貸借等
の取引行為を当事者間の面談、電話連絡等を通じて行っている場合が少なくない。
他産業における商取引や情報交換のIT化が進展してきている状況を踏まえると、
今後、物流効率化や海陸一貫輸送サービスの充実を図る観点からは、こうした取引
関係の早急な効率化・システム化を進めることが重要である。

2) このため、ITの活用を通じて、荷主企業毎に固定的となっている市場を開かれた
ものへと転換し、これにより船舶の運航効率・積載効率を高めるとともに、荷主、内
航海運事業者、港湾運送事業者、トラック事業者等関係者間のEDI化を推進し、
物流の効率化を図ることが適当である。

3) とりわけ、荷主企業とオペレーター事業者間で締結される運送契約、オペレーター
事業者とオーナー事業者間で締結される用船契約又は運航委託契約に必要な情報を
インターネットを通じて検索し、効率的かつ迅速に交渉・成約することができる新た
な情報システムモデルを開発すること等により、内航海運分野におけるIT化を促
進することが適当である。

(2)モーダルシフトの推進
前述のとおり、平成9年12月の「気候変動に関する国際連合枠組条約」第3回締
約国会議で採択された「京都議定書」において、我が国は2008年から2012年
までの第1約束期間の平均で1990年の水準より6%の二酸化炭素の削減の達成が
義務付けられる等、地球的規模での環境保全の取り組みが急務となってきている。
また、13年10月の第7回締約国会議で京都議定書の中核的要素に関する基本的
合意(マラケシュ合意)を法文化する文書が採択され、京都議定書の実施に係るルール
が決定されたことにより、先進国等の京都議定書批准が促進される見通しとなってい
る。
運輸部門で排出される温室ガスは国内全体の温室ガスの約2割を占めており、京都
議定書の目標達成のためには、同部門の排出抑制に強力に取り組むことが求められ
る。仮に何の対策も取らない場合は、2010年には運輸部門全体で1990年比の
CO2排出量が40%増となると見込まれることから、目標達成のためにCO2排出量を炭
素換算で1,300万トン削減することが必要となる。
このため、自動車に比べて環境負荷が小さい内航海運の輸送特性に鑑み、自動車か
ら内航海運へのモーダルシフトの一層の推進を図ることが重要である。新大綱におい
ても、2010年までにモーダルシフト化率を50%を超える水準とすることを目標
としているが、今後更に以下のとおり内航海運へのモーダルシフトのための取り組み
を積極的に推進すること等により、具体的には、「地球温暖化対策推進大綱(平成
14年3月19日地球温暖化対策推進本部決定。以下「温暖化大綱」という」にある
ように内航海運の2010年度の輸送分担率を1998年度の41%から3%以上向
上させるとともに、炭素換算でCO2排出量の100万トン削減を目指すことが必要であ
る。

① 内航海運の競争力強化
1) 今後更にモーダルシフトを効果的に推進していく観点からは、経済性に優れ環境負
荷の小さな次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発を行い、21世紀型内
航海運の中核船として広く普及を進めるとともに、本ビジョンに盛り込まれた事項
(事業規制の見直し、社会的規制の合理化・適正化等を進めること)を早期に具体化
することにより、内航海運自体の競争力強化を図ることが適当である。

2) また、実効性のあるモーダルシフトの推進のためには、フェリーの活性化、競争力
強化を図ることが重要である。フェリーについては、貨物輸送という面ではROR
O船、コンテナ船とほぼ同様の輸送を行っているにもかかわらず、旅客も運送する
ことから、社会的規制等の制度的枠組や運用形態が内航船と異なっている。既に関
係業界においては、モーダルシフトに関連する規制の緩和を幅広く要望する動きが
みられるが、今後、官民一体となって、規制緩和を含めたモーダルシフト促進策に
ついて検討することが適当である。

3) 特に、地球環境問題に貢献することが期待される内航海運の競争力を強化し、モー
ダルシフトを強力に推進するためには、これに必要となる予算の確保、税制のあり
方等についても鋭意検討を深め、具体化を図ることが重要である。

② モーダルシフトに資する物流体系の構築
1) 平成14年度予算に盛り込まれている幹線物流の環境負荷低減に関する実証実験支
援制度を活用し、行政の支援の下、荷主、内航海運事業者、フェリー事業者等の関
係者が協調・連携してモーダルシフトに取り組んでいくことが検討されているが、モ
ーダルシフトの実効性を高めるためには、こうした環境負荷の小さい物流体系の構
築のための取り組みを今後とも推進していくことが必要である。

2) また、モーダルシフトの基盤整備として、運輸施設整備事業団の共有建造業務の重
点化等によるRORO船、コンテナ船、フェリー等の建造支援の推進、東京湾等に
おける湾内航行時間の短縮、湾内ノンストップ化、港湾の24時間フルオープン化
等の海上ハイウェイネットワークの構築、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナル
等の物流拠点、複合一貫輸送機器等の整備促進等を進めるとともに、海運を利用し
たドア・トゥー・ドアのサービスの提供を可能とする利用運送事業制度の見直しを図
ることが必要である。

● モーダルシフトについての実証実験の実施
(実施スケジュール)
平成14年度以降関係者の実証実験計画に基づき逐次実施

● 海上ハイウェイネットワークの構築を継続的に推進
(実施スケジュール)
継続的かつ計画的に実施

● 内貿ターミナル等の物流拠点、複合一貫輸送機器等の整備促進を継続的に推進
(実施スケジュール)
継続的かつ計画的に実施

(3)静脈物流システムの構築
成熟期にある我が国経済社会は、これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄型から、
循環型への転換が急務となっている。また、静脈産業の市場規模の急激な拡大も予想
されており、平成9年で24.7兆円であったものが、平成22年には40兆円にま
で拡大すると予想されている。
循環型経済社会においては、これまで廃棄物として取り扱われていたものを循環資
源として再生利用することにより廃棄物の減量化と資源の有効活用を図るため、低廉
で効率的な廃棄物のリサイクルシステムを構築することが重要である。
こうした中、スピードよりも低コストが求められる静脈物流の特性から、単位輸送
量当たりのコスト及び環境負荷の小さい海運の活用を図ることが適当であり、静脈物
流の拠点については、交通の結節点であり、かつ、一定のスペースが確保されている
港湾を利用することが有効である。このため、低廉で効率的な廃棄物のリサイクルシ
ステムを構築する観点から、静脈物流及びその拠点施設の計画的整備を推進すること
が適当である。

① リサイクル拠点の形成
1) 循環資源は、大量処理により処理コストの低減を図ることが可能であることから、
広域的な処理拠点の形成により効率化を図ることが重要である。

2) このため、以下のとおり、リサイクル拠点となる港湾(リサイクルポート)を各地
域ブロック毎に指定し、既存インフラを有効活用するとともに、リサイクル処理施
設の集約化やストックヤード等静脈物流拠点としての必要な施設整備を推進するこ
とが必要である。また、港湾における循環資源の取り扱いを円滑に行うための各種
規制緩和等の措置も併せて進めることが適当である。

● リサイクルポートの指定
(実施スケジュール)
平成14年度のできるだけ早い時期に1次指定を実施するとともに、15年度以降
2次指定等逐次実施

● 循環型経済社会実現のための港湾におけるリサイクル処理の基盤となる岸壁等の施
設整備
(実施スケジュール)
継続的かつ計画的に実施

② 広域的な静脈物流システムの構築
1) 廃棄物の輸送については、従来、少量・短距離の輸送が主流であったが、今後、リ
サイクル対象品目の増加、品目毎のリサイクル率の向上等リサイクルの進展によ
り、輸送の大量化・中長距離化が進むものと予想される。

2) また、循環資源は大量輸送に適した急がない貨物等の特徴を有するとともに、大気
汚染防止、地球温暖化防止、交通の円滑化等の観点から、環境負荷・交通負荷の小さ
い内航海運による新たな静脈物流システムの構築が求められる。

3) このため、リサイクルポートを中心とした内航海運による広域的な静脈物流ネット
ワークを形成するとともに、動脈物流と静脈物流の連携による双方向輸送の実現、
廃家電、廃プラスチック、廃タイヤ、鉄スクラップ等積荷特性に応じた輸送・荷役の
効率性向上等を図ることが必要である。

● 広域的な静脈物流システムの構築に向けた実証試験(リサイクルポート間の循環資
源の海上輸送)の実施
(実施スケジュール)
平成14年度に措置

8.具体的な取り組み方について

(1) 「健全かつ自由な事業活動を促す市場環境の整備」に係る施策
このための諸施策については、内航海運業界にとって重要な事項が多く、また、現
下の厳しい経営状況を踏まえ環境整備を先行することが必要であるとの意見もある。
したがって、今後、このための諸施策については、前広に情報を公開し、意見交換
を行いながら、具体的制度設計を検討することが適当である。

その上で、内航海運業法等所要の法令改正を実施し、平成16年度以降速やか
に措置することとする。
なお、内航海運組合法については、暫定事業の実施の法的根拠であることから、同
事業の廃止の段階において抜本的見直しを行うものとし、基本的に、現時点では現行
制度を維持することが適当である。

(2) 「効率的で安全かつ環境に優しい輸送サービスの構築」に係る施策
このための諸施策については、それぞれの項目毎に記載された実施スケジュールに
沿って具体的な取り組みを行うこととする。

Ⅲ まとめ

1.次世代内航海運ビジョンの推進の意義

(1)これまでの検討経過
① 本懇談会においては、これまでの検討の中で、21世紀型内航海運のあり方及びこ
れを踏まえた海運、船舶、船員、港湾の海事分野全般にわたる内航海運行政の具体
的取り組みの方向について一定の結論を得ることができた。

② まず、21世紀型内航海運のあり方については、「他の輸送モードとの連携を図り
つつ、より効率的で環境に優しい輸送サービスの安定的な提供」を目指すべきであ
ると位置付けた。
次に、こうした21世紀型内航海運の実現に必要な行政の取り組むべき課題につ
いては、「健全かつ自由な事業活動を促す市場環境の整備」及び「効率的で安全か
つ環境に優しい輸送サービスの構築」の2つの基本的方向を定め、これに沿って、
規制改革、技術開発の推進、船舶建造、船員雇用形態の見直し等の海事分野全般に
わたる内航海運関連施策の横断的整理を行った。この際、個別施策について、実施
スケジュールを明記する等できる限りその具体化を図った。

(2)内航海運の活性化に向けて
① 本ビジョンにおいて明らかにしているように、四方を海に囲まれた我が国におい
て、経済活動及び国民生活を支える内航海運の活性化を図ることは、物流効率化、
環境保全等の経済的社会的要請への対応として重要かつ有効な取り組みである。

② このため、本ビジョンに盛り込まれた、内航海運における市場環境の整備、技術開
発の推進、社会的規制の見直し等各種内航海運の活性化対策を官民一体となって迅
速かつ着実に推進することにより、内航海運の競争力の向上及び経営基盤の強化を
図りつつ、国内海上物流コストのより一層の低減を図ることが重要である。
このような内航海運の活性化は、我が国経済の活性化と産業の競争力の向上に不
可欠なものである。
また、こうした取り組みを推進することは、内航海運の輸送分担率を41%
(1998年)から44%(2010年)へ向上させるとともに、CO2排出量を
100万トン(炭素換算)削減することを内容とする温暖化大綱の目標の実現にも
資するものである。

③ 加えて、こうした趣旨について、広く国民各層において理解され、かつ、必要な協
力を得られるよう、各施策の実施の目的・効果等について十分な情報公開に努める
ことが必要である。

2.次世代内航海運ビジョンの具体化にあたって

今後、本ビジョンに盛り込まれた各施策の具体化に際しては、以下の点に留意して
取り組んでいくことが必要である。

(1)各施策については、内航海運事業者、荷主、船員等関係者の意見を十分聴取して
その具体化を図ることが適当である。このため、「内航海運制度検討会」、「内航
船乗組み制度検討会」等施策の具体化のための体制を速やかに整備し、事業規制や
船舶・船員安全規制に係る検討に着手すること。

(2)各施策の具体化と併せ、必要な予算、税制等の財政支援措置についても迅速かつ
着実に取り組むこと。

(3)本ビジョンに盛り込まれた海運、船舶、船員及び港湾の海事各分野の施策につい
ては、実施スケジュールに沿って、これらを一体的に推進するとともに、国、内航
海運事業者、荷主、船員等関係者が十分連携しつつ、責任を持って対応していくこ
と。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加