2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略

令和3年6月18日、経済産業省は、関係省庁と連携し、「グリーン成長戦略」を更に具体化し、2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略を発表した。

内航に関係する部分を以下に掲載する。

船舶産業について(77~78頁)

2050 年カーボンニュートラルを目指すに当たり、海外からの輸入が想定されている水素等の脱炭素燃料について、サプライチェーンの大半を海上輸送が担うことが予測されるが、サプライチェーン全体におけるカーボンニュートラルも求められている。このため、海上輸送を担う船舶のカーボンニュートラル化も必然的に求められており、日本国内における船舶からの CO2排出量約1,000 万トンについても 2050 年までに削減する必要がある。また、これまで我が国は造船・海運業等を中心に、環境性能に優れた船舶・サービスを強みとしていたところ、地球温暖化対策への世界的な関心とともに、そうした船舶・サービスの市場価値も高まっており、ゲームチェンジの時期を迎えているとも言える。この時期を逃すことなく、我が国造船・海運業等が強みとする環境性能に優れた船舶・サービスを提供することで、国内貨物輸送の4割以上を担う内航海運も含め、2050 年カーボンニュートラル実現に貢献する。
世界的に地球温暖化対策への関心が高まり、2050 年カーボンニュートラル実現に向けた取組が加速する中、我が国における安定的な海上輸送の確保のためにも、ゼロエミッションの達成に必須となる LNG[1]2050 年カーボンニュートラルを実現するためには、水素・燃料アンモニアやカーボンリサイクルメタンといったガス燃料への転換が必須となる。LNG … Continue reading、水素、アンモニア等のガス燃料船等の開発に係る技術力を獲得し、生産基盤を確立するとともに、国際基準の整備を主導することにより、我が国造船・海運業の国際競争力の強化及び海上輸送のカーボンニュートラルに向けて取り組む。グリーンイノベーション基金等の活用も検討しつつ、技術開発を実施することにより、2025 年までにゼロエミッション船の実証事業を開始し、従来の目標である 2028 年よりも前倒しでゼロエミッション船の商業運航を実現するとともに、2030 年には更なる普及を目指す。また、2050 年において、船舶分野における水素・燃料アンモニア等の代替燃料への転換を目指す。現在の国際海運全体からの CO2排出量は約7億トン(そのうち日本商船隊の CO2排出量は、推計では約 7,000 万トン程度)であるが、代替燃料への転換を中心とした取組により、国際海運分野においても CO2排出量削減を進める必要がある[2]国際海運分野については、我が国の CO2排出量削減目標の対象外であるが、国際海事機関(IMO)において、2050 … Continue readingため、日本の造船・海運業が世界に先駆けて技術開発に成功すれば、こうした需要を取り込むことができる。

① カーボンフリーな代替燃料への転換

<現状と課題>

一部企業等が、自動車用等の水素燃料電池システムを転用した小型の水素燃料電池船やリチウムイオン電池を用いたバッテリー推進船の開発・実証に取り組んでいるが、水素燃料電池システムやバッテリー推進システムは出力・重量・サイズの制約上、近距離・小型船に用途が限定されている。遠距離・大型船向けには高出力が必要だが、水素・燃料アンモニアを直接燃焼できるエンジンが存在しない。

<今後の取組>

近距離・小型船向けには、脱炭素化のみならず、低騒音化・低振動化による船員・乗客の快適性向上も期待される水素燃料電池システムやバッテリー推進システムの普及を促進するとともに、遠距離・大型船向けに水素・燃料アンモニアを直接燃焼する船舶の開発・実用化を推進するべく、2021 年度中に水素・アンモニア燃料エンジン及び付随する燃料タンク、燃料供給システム等の核となる技術開発を開始する。

② LNG 燃料船の高効率化

<現状と課題>

省エネ・省 CO2排出な LNG 燃料を使用するための IMO における国際ルールの整備は完了している(「国際ガス燃料船安全コード(IGF コード)」が 2017 年 1 月に発効)。国内においても、先進船舶導入等計画の認定制度や内航船省エネルギー格付制度の運用により、省エネ・省 CO2排出なLNG 燃料船の普及を推進している。また 2021 年3月には、国内海運事業者が LNG 燃料船の導入に際し、日本で他分野を含め初めてトランジション・ファイナンス認定を取得するなど、LNG もカーボンニュートラルに向けた代替燃料として期待されている。他方、ガス燃料はエネルギー密度が低く、かさばるため、燃料タンクが貨物スペース等を圧迫するなど、課題も多い。

<今後の取組>

LNG 燃料を低速航行、風力推進システム等と組み合わせ CO2排出削減率 86%を達成する。また、カーボンリサイクルメタン活用による実質ゼロエミッション化を推進するべく、2021 年度中に温室効果ガス削減効果の更に高いエンジン等の技術開発を開始するとともに、スペース効率の高い革新的な燃料タンクや燃料供給システムの開発及び生産基盤の確立を進める。

③ 省エネ・省 CO2排出船舶の導入・普及を促進する枠組みの整備

<現状と課題>

日本主導により、IMO における新造船に対する燃費性能規制(EEDI)の導入と同規制値の段階的な強化を実施しているが、既存船に対する CO2排出規制の国際枠組みが存在せず、環境性能の優れた新造船への代替が進んでいない。
また、国際海運については、2020 年に産学官公の連携により我が国が取りまとめた「国際海運のゼロエミッションに向けたロードマップ」に従い取組を進めているが、内航海運にはこのようなロードマップが存在していない。

<今後の取組>

燃費規制等のルール作りに取り組み、燃費性能が劣る船舶の新造代替を促進する。現在 IMO において、日本主導により、既存船の燃費性能規制(EEXI)及び燃費実績の格付け制度を提案し、2020 年 11 月に原則合意したところ、2023 年からの早期実施を目指す。燃費性能規制の早期実施により、既存船に新造船並みの燃費基準を義務付けるとともに、格付け制度により省エネ・省 CO2排出船舶への代替にインセンティブを付与する。
現在、国内の内航海運に携わる関連業界と行っている内航海運の低・脱炭素化に向けた議論を踏まえ、内航海運のカーボンニュートラル推進に向けたロードマップを 2021 年中に策定し、必要な制度構築を含めた取組を推進する。

References

References
1 2050 年カーボンニュートラルを実現するためには、水素・燃料アンモニアやカーボンリサイクルメタンといったガス燃料への転換が必須となる。LNG については、熱量当たり燃料体積が重油と比べて大きいことや、沸点がマイナスのため常温で気体であるなど、これらのガス燃料と共通の特徴があり、世界に先駆けて水素・アンモニア燃料船等の早期導入を図るためには、LNG 燃料船で技術力(燃料タンクや燃料供給システム、ガス燃料エンジン)を蓄積することが重要となる。また、将来的にカーボンリサイクルメタンの供給が現実的になった際には、LNG 燃料船や陸側の燃料供給のインフラ設備がそのまま転用可能となり、実質ゼロエミッションの達成に資することとなる。
2 国際海運分野については、我が国の CO2排出量削減目標の対象外であるが、国際海事機関(IMO)において、2050 年までに国際海運からの温室効果ガス総排出量を 2008 年比 50%以上削減、今世紀中のなるべく早期に排出ゼロとする目標を掲げている。
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