航海当直基準(平成八年運輸省告示第七百四号)

航海当直基準(平成八年運輸省告示第七百四号)

(最終改正 平成二五年三月一日国土交通省告示第一五八号)

船員法施行規則(昭和二十二年運輸省令第二十三号)第三条の五の規定に基づき、航海当直基準を次のように定め、平成九年二月一日から適用し、昭和五十八年運輸省告示第百八十八号(航海当直基準)は平成九年一月三十一日限り廃止する。

航海当直基準

Ⅰ 総則

1 この告示は、千九百九十五年に改正された千九百七十八年の船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約の規定に準拠して、航行中の当直及び停泊中の当直(以下「航海当直」という。)を実施するときに遵守すべき基本原則を定めるものとする。

2 航海当直の実施に当たつては、次に掲げる事項に十分に配慮すること。

(1) 当該船舶及び周囲の状況に応じて適切に航海当直を実施することができるような当直体制をとること。
(2) 航海当直中の者の能力が疲労により損われることがないこと。
(3) 航海当直をすべき職務を有する者が十分に休養し、かつ、適切に業務を遂行することができる状態とするために、次に掲げる事項を確保すること。

一 人命、船舶若しくは積荷の安全を図るため又は人命若しくは他の船舶を救助するため緊急を要する作業、防火操練、救命艇操練等その他これらに類似する作業その他の船舶の航海の安全を確保するための作業に従事する場合を除いて、船員(船員法第六十五条の三第三項第二号に規定する船舶に乗り組む船員を除く。)に与える休息時間(以下単に「休息時間」という。)は、二十四時間について十時間以上とし、一週間について七十七時間以上としなければならない。
二 休息時間は、十四時間を超えない間隔で与えなければならない。
三 休息時間は、二十四時間について三回以上に分割して与えてはならない。
四 休息時間を二十四時間について二回に分割して与える場合にあつては、休息時間のうち、いずれか長い方の休息時間を六時間以上としなければならない。
五 三の規定にかかわらず、休息時間は、一週間のうち二日を限度として、二十四時間について三回に分割して与えることができる。この場合において、最も長い休息時間は六時間以上とし、残る二回の休息時間は、いずれも一時間以上としなければならない。
六 一の規定にかかわらず、休息時間は、連続した二週間を限度として、一週間について七十時間以上七十七時間未満とすることができる。この場合において、休息時間を一週間について七十時間以上七十七時間未満とした期間が終了する翌日から起算して当該期間の二倍の期間が経過する日までの間は、休息時間を一週間について七十七時間以上としなければならない。

(4) 船長は、船内に帳簿を備え置いて、休息時間に関する事項を記載しなければならない。
(5) 航海当直をすべき職務を有する者が、酒気を帯びていないこと。
(6) 船長は、航海当直予定表を定め、これを船員室その他の適当な場所に掲示しておくこと。
(7) 航海当直中の者に航海当直以外の業務に従事させることにより航海当直に支障が生ずることがないようにすること。
(8) 船長は、各部の長が航海に必要な物品を決定するに際し、その協議に応ずること。

Ⅱ 航行中の当直基準

1 甲板部における当直基準

(1) 一般原則

一 船長は、次に掲げる事項を十分に考慮して甲板部の当直体制を確保すること。

(一) 適切な見張りを確保すること。
(二) 船橋を無人の状態にしないこと。
(三) 航海当直中の者のうち少なくとも一人は、六級海技士(航海)又はこれより上級の海技免状を有する者であること。ただし、漁船については、この限りでない。
(四) 気象、海象、視界、昼間と夜間との区別及び航海当直を行う職員の任務に影響を及ぼす航路障害物の接近等の状況
(五) レーダー、衛星航法装置等の航行援助装置その他の航行の安全に関係のある装置の使用状況及び作動状況
(六) 自動操舵装置の備付けの有無
(七) 操船上及び構造上の特性
(八) 交通のふくそう状況等の特殊な航行状況及び分離通行方式等の通行方式が当直に及ぼす影響

二 甲板部の当直を行う職員は、次に掲げるところにより当直を維持すること。

(一) 当直中、予定する針路を確保するために、利用することができる航行援助装置等の使用により、船舶の位置、針路及び速力を確認すること。
(二) 船内の安全設備及び航海設備の設置場所、操作方法及び停止距離その他の操縦性能等について精通していること。
(三) 航海設備を効果的に使用するとともに、必要に応じて操舵装置、機関及び音響による信号を的確に使用すること。
(四) 船橋において当直を行い、常に適切な見張りが行われることを確保するこ
と。
(五) 船長が船橋にいる場合にあつても、船長が当直を引き受けることを相互の
間で明確に確認するまでは、当該当直に係る責任を有するものとして、当直を行
うこと。
(六) 船舶に備えられている航行設備の作動状況を、可能な限り頻
ひん
繁に点検しな
ければならない。
(七) 航海の安全に関して疑義がある場合には、船長にその旨を連絡すること。
さらに、必要に応じて、ためらわず緊急措置をとること。
(八) 船舶の航行に関して適切に記録すること。

(2) 見張りに関する原則

一 船長及び甲板部の当直を行う者は、次に掲げる事項を十分に考慮して見張りを維持すること。

(一) 見張りは、船舶の状況及び衝突、乗揚げその他の航海上の危険のおそれを十分に判断するために適切なものであること。
(二) 見張りの任務には、遭難船舶、遭難航空機、遭難者等の発見が含まれること。
(三) 見張りを行う者の任務と操舵員の任務とは区別されるものとし、操舵員は、操舵中にあつては、見張りを行う者とみなされてはならないこと。ただし、操舵位置において十分に周囲の見張りを行うことができる小型の船舶において、夜間における灯火等による視界の制限その他の見張りに対する障害のない場合は、この限りでない。

二 甲板部の当直を行う職員は、単独で見張りを行つてはならないこと。ただし、船舶の状況、気象、視界及び船舶交通のふくそうの状況、航海上の危険のおそれ、分離通行方式等について十分に考慮して、航海の安全に支障がないと考えられ、かつ船舶の状況が変化した場合に必要に応じ補助者を直ちに船橋へ呼び出すことができる場合は、この限りでない。

(3) 当直の引継ぎに関する原則

一 当直を引き継ぐ職員は、次に掲げるところにより当直を引き継ぐこと。

(一) 適切に当直を引き継ぐまで船橋を離れないこと。
(二) 引継ぎを受ける職員が明らかに当直を行うことができる状態ではないと考えられる場合には、当直を引き継がず、かつ、船長にその旨を連絡すること。
(三) 引継ぎを行う際に、危険を避けるための動作がとられている場合には、当該動作が終了するまで引き継ぎを行つてはならないこと。

二 当直の引継ぎを受ける職員は、次に掲げるところにより当直の引継ぎを受けること。

(一) 自己の視力が明暗の状況に十分順応するまでの間は、当直の引継ぎを受け
てはならないこと。
(二) 引継ぎに際し、次の事項について確認すること。

イ 船舶の航行に関する船長の命令及び指示事項
ロ 予定する進路
ハ 船舶の位置、針路、速力及び喫水
ニ 気象、海象及びこれらが針路及び速力に及ぼす影響
ホ 航行設備及び安全設備の作動の状態
ヘ コンパスの誤差
ト 付近にある船舶の位置及び動向
チ 当直中遭遇することが予想される状況及び危険

(4) 船長は、船舶が防波堤等に囲われていないびよう地にびよう泊している場合には、船舶の安全を図るため必要と認める場合は、当直を維持すること。

2 機関部における当直基準

(1) 一般原則

一 機関長は、船長と協議の上、次に掲げる事項を十分に考慮して機関部の当直体制を確保すること。

(一) 船舶の用途並びに機関の種類及び状態
(二) 気象及び水域の状況、非常事態、機関の損傷の防止、汚染の除去等のために必要とされる特殊な操作方法
(三) 機関部の当直をすべき職務を有する者の能力及び経験
(四) 人命、船舶、積荷及び港内の安全並びに環境の保護
(五) 船舶の機関の正常な運転の維持に関する次の事項

イ 機関を適切な監視の下に置くこと。
ロ 遠隔制御される主機及び操舵装置並びにこれらの制御装置の状態及び信頼性並びに当該制御の場所及び緊急の事態において手動操作にするための方法
ハ 消火設備の位置及び操作方法
ニ 補機及び非常設備の操作方法
ホ 機関の効率的な運転を維持するために必要な操作
ヘ 特殊な航行状況が当直に及ぼす影響

二 機関長は、機関部の当直を行う職員が当直中に行うべき整備、応急操作及び修繕措置に関する情報を把握できるように措置しておくこと。
三 機関部の当直を行う職員は、機関長が機関区域にいる場合にあつても、機関長が当直を引き受けることを相互の間で明確に確認するまでは、当該当直に係る責任を有するものとして、当直を行うこと。
四 機関部の当直を行う者は、自己の任務について精通するとともに、次に掲げる事項についての知識及び能力を有していること。

(一) 船内連絡装置の使用
(二) 機関区域からの脱出経路
(三) 機関区域の警報装置
(四) 機関区域の消火設備

五 機関部の当直を行う職員は、次に掲げるところにより当直を維持すること。

(一) 機関を安全かつ効率的に操作し、及び維持するとともに、必要に応じて機関長の指揮の下に機関及び諸装置の検査及び操作を行うこと。
(二) 定められた当直体制が維持されることを確保すること。
(三) 当直を開始しようとするときは、あらかじめ機関の状態を確認すること。
(四) 機関が適切に作動していないとき、機関の故障が予想されるとき又は特別の作業を必要とするときは、これに対してとられた措置を確認するとともに、必要に応じてとるべき措置の計画を作成すること。
(五) 機関区域が継続的な監視の下にあるよう措置すること。
(六) 機関区域及び操舵機室を適当な間隔をおいて点検するよう措置すること。
(七) 機関の故障を発見したときは、適切な修理を行うよう措置し、予備の部品の保有状況を確認すること。
(八) 機関区域が有人の状態にある場合には、船舶の推進方向及び速力の変更の指示に応じて、主機を迅速に操作できるよう措置すること。
(九) 機関区域が定期的な無人の状態にある場合には、警報により直ちに機関区域に行くことができるよう措置すること。
(十) 船橋からの指示を直ちに実行すること。
(十一) 船舶の推進方向又は速力の変更を記録すること。ただし、曳船その他の推進方向又は速力を頻繁に変更する船舶であつて当該記録を行うことが困難であると認められるものについては、この限りでない。
(十二) すべての機関の切り離し、バイパス及び調整を責任をもつて行い、かつ、実施した作業を記録すること。
(十三) 非常事態等船舶の安全を確保する必要が生じた場合には、機関区域においてとる緊急措置を直ちに機関長及び船橋に通報し、必要に応じて緊急措置をとること。この通報は、可能な限り、当該措置をとる前に行うこと。
(十四) 機関室が機関用意の状態にある場合には、用いられるすべての機関及び装置を利用可能な状態に維持するとともに、操舵装置その他の装置に必要な予備動力を確保すること。
(十五) 機関区域の設備が必要に応じ直ちに手動操作に切り替えることができる状態にしておくこと。
(十六) 航海の安全に関して疑義がある場合には、機関長にその旨を連絡すること。さらに、必要に応じて、ためらわず緊急措置をとること。

六 機関部の当直を行う部員は、機関を安全かつ効率的に操作すること。この場合において、必要に応じて、直ちに職員に連絡し、その指示を受けること。

(2) 当直の引き継ぎに関する基準

一 当直を引き継ぐ職員は、次に掲げるところにより当直を引き継ぐこと。

(一) 引継ぎを受ける職員が明らかに当直を行うことができる状態ではないと考えられる場合には、当直を引き継がず、かつ、機関長にその旨を連絡すること。
(二) 当直を引き継ぐ前に機関に関するすべての事項を適切に記録すること。

二 当直の引継ぎを受ける職員は、引継ぎに際し、次の事項を確認すること。

(一) 船内の装置及び機関の操作に関する機関長の命令及び指示事項
(二) 機関及び諸装置に関して実施中の作業の状態
(三) ビルジ等の状態
(四) 予備タンク及びセットリングタンクその他の燃料タンクの状態
(五) 主機及び補機の状態
(六) 諸装置の状態
(七) 気象及び水域の状態
(八) 機関に関する記録

(3) 機関長は、船舶が防波堤等に囲われていないびよう地にびよう泊している場合には、船長と協議の上、船舶の安全を図るため必要と認める場合には、当直を維持すること。

3 無線部における当直基準

無線部における当直を行う職員は、電波法(昭和二十五年法律第百三十一号)、電波法施行規則(昭和二十五年電波監理委員会規則第十四号)、無線局運用規則(昭和二十五年電波監理委員会規則第十七号)及び義務船舶局等の運用上の補則を定める件(平成四年郵政省告示第百四十五号)に定めるところにより当直を維持すること。

Ⅲ 停泊中の当直基準

1 船長(2に規定する船長を除く。)は、船舶が港内において通常の状況の下に安全に係留し、又はびよう泊している場合にあつても、緊急事態の発生等船舶の安全を確保する必要が生じた際に適切かつ有効な当直体制がとれるよう措置すること。

2 危険物船舶運送及び貯蔵規則(昭和三十二年運輸省令第三十号)第二条第一号に掲げる危険物又は同条第一号の二に掲げるばら積み液体危険物(その船舶において使用されるものを除く。以下「危険貨物」という。)を運送している船舶の船長は、甲板部及び機関部における適切な当直を維持すること。さらに、危険貨物をばら積み以外の方法で運送している船舶の船長は、積載している危険貨物の性質、量、包装及び積付けの状況並びに船内、海上及び陸上の状況を十分に考慮すること。

3 甲板部における当直基準

(1) 船長は、人命、船舶、積荷、港内の安全及び環境の保護を十分に考慮して甲板部の当直体制を確保すること。
(2) 当直を行う職員は、次に掲げるところにより当直を維持すること。

一 適当な間隔をおいて船内を巡視すること。

二 次に掲げる事項に留意すること。

イ げん梯、係留索及びびよう鎖の状態
ロ 船舶の傾斜、喫水及び水深
ハ 気象及び海象
ニ 船内にある者の数
ホ 船内の閉鎖された場所等にある者の数
ヘ 必要に応じた信号の使用

三 人命、船舶、積荷、港内の安全及び環境を保護するために適切な措置をとること。
四 非常事態の発生等船舶の安全を確保する必要が生じた場合には、船長に通報し、必要に応じて陸上機関又は他の船舶に援助を要請するとともに緊急措置をとること。
五 プロペラを回転させる場合において、事故を防止するために必要な措置をとること。
六 船舶の停泊に関して適切に記録すること。

(3) 当直を引き継ぐ職員は、次に掲げるところにより当直を引き継ぐこと。

一 引継ぎを受ける職員が明らかに当直を行うことができる状態ではないと考えられる場合には、当直を引き継がず、かつ、船長にその旨を連絡すること。
二 引継ぎを受ける職員に次に掲げる事項を知らせること。

イ 潮汐、係留索の状態その他の係留及びびよう泊に関し必要な事項
ロ 主機関の状態
ハ 船内で実施されている作業、荷役の状態
ニ 使用されている信号
ホ 船内にある者の数及びその所在
ヘ 船内の閉鎖された場所等にある者の数
ト 消火設備の状態
チ 船長の命令及び指示事項
リ 緊急事態の発生等船舶の安全を確保する必要が生じた際及び環境汚染が発生した際の陸上機関との通信連絡方法
ヌ イからリに掲げるほか、人命、船舶、積荷、港内の安全及び環境を保護するために必要な事項

(4) 当直の引継ぎを受ける職員は、次に掲げる事項について確認すること。

一 係留索及びびよう鎖の状態が適切であること。
二 信号の使用が適切であること。
三 一及び二に掲げるほか、人命、船舶、積荷、港内の安全及び環境を保護するために必要な事項

4 機関部における当直基準
(1) 機関長は、船長と協議の上、機関部の当直体制を確保すること。
(2) 機関部の当直を行う職員は、次に掲げるところにより当直を維持すること。

一 非常事態の発生等船舶の安全を確保する必要が生じた場合には、機関長に通報するとともに緊急措置をとること。
二 適当な間隔をおいて船内を巡視し、機関及び諸装置の故障を発見したときは、適切な修理を行うこと。

(3) 機関部の当直を引き継ぐ職員は、次に掲げるところにより当直を引き継ぐこと。

一 航海の引継ぎを受ける職員が明らかに航海を行うことができる状態ではないと考えられる場合には、当直を引き継がず、かつ、機関長にその旨を連絡すること。
二 当直を引き継ぐ前に、機関に関しすべての事項を適切に記録すること。
三 当直の引継ぎを受ける職員に、次に掲げる事項を引き継ぐこと。

イ 機関長からの命令及び指示事項
ロ 機関及び諸装置に関して実施中の作業の状態
ハ ビルジ等の状態
ニ 消火設備等の準備状況
ホ 機関の修理等に従事する者の職務及び作業場所
ヘ 非常事態の発生等船舶の安全を確保する必要が生じた際又は環境汚染が発生した際の陸上機関との通信連絡方法
ト イからヘに掲げるほか、人命、船舶、積荷、港内の安全及び環境を保護するために必要な事項

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