内航海運における船舶管理業務に関するガイドライン

国土交通省,内航海運における船舶管理業務に関するガイドライン,2012年(平成24年)7月

目次

I. 背景・目的 …………………………………………………………… 1
1.背景 …………………………………………………………………. 1
2.ガイドラインの目的と役割 ………………………………………… 1
3.本ガイドラインが対象とする範囲及び関係法令における船舶管理会社の位置付け ………. 2
3.1 対象とする船舶管理業務及び船舶管理会社の範囲……………….. 2
3.2 内航海運業法との関係 …………………………………………….. 4
3.3 船舶安全法との関係 ………………………………………………… 5
3.4 船員法等との関係 …………………………………………………… 5
3.5 運輸安全マネジメント制度との関係 ……………………………….. 5
II. 用語の定義 …………………………………………………………….. 8
III. 船舶管理業務に関するガイドライン ……………………………….. 10
1.船舶管理業務を実施する体制の整備 ………………………………… 10
1.1 船舶管理責任者・船舶管理統括責任者の任命 ……………………… 10
1.2 組織・ガバナンスのあり方…………………………………………… 10
1.3 事故等の発生の防止 ………………………………………………….. 14
1.4 重大な事故等の発生時の対応 ……………………………………….. 15
1.5 PDCAサイクルの構築 …………………………………………….. 16
1.6 船舶管理業務に係る契約の作成・締結 ……………………………… 18
1.7 保険の付保 …………………………………………………………….. 19
2.船員配乗・雇用管理業務の実施 ………………………………………. 19
2.1 基準・手順・体制の整備 ……………………………………………… 19
2.2 基準・手順・体制の運用 ……………………………………………… 20
2.3 基準・手順・体制の見直し……………………………………………. 20
3.船舶保守管理業務の実施 ………………………………………………. 21
3.1 基準・手順・体制の整備 ……………………………………………… 21
3.2 基準・手順・体制の運用 ……………………………………………… 21
3.3 基準・手順・体制の見直し……………………………………………. 22
4.船舶運航実施管理業務の実施………………………………………….. 22
4.1 基準・手順・体制の整備 ……………………………………………… 22

4.2 基準・手順・体制の運用 ……………………………………………… 24
4.3 基準・手順・体制の見直し……………………………………………. 26
5.船舶管理会社が作成・提出する文書の記載に関する留意事項 ……… 26
5.1 船舶検査証書の記載に関する留意事項……………………………….. 26
5.2 海員名簿の記載に関する留意事項 ……………………………………. 26
5.3 雇入(雇止)契約届出書、雇入契約(変更)届出書の記載に関する事項…….. 28
5.4 船員手帳の記載に関する事項 …………………………………………. 29
IV. 終わりに …………………………………………………………………. 30
1.船舶管理会社の活用促進の必要性 ……………………………………… 30
2.直ちに取り組むべき課題 ……………………………………………….. 30
3.引き続き取り組むべき課題 …………………………………………….. 30

I. 背景・目的
1. 背景
いわゆるオーナーを中心に零細事業者が極めて多い内航海運業界においては、近年、景気低迷の長期化などに伴う厳しい事業運営環境の継続、船舶運航の安全性向上や環境負荷低減への要請の高まりに伴う規制の高度化や安全管理業務の複雑化、少子高齢化の進展や労働環境の厳しさに起因する船員確保をめぐる将来見通しへの懸念の顕在化などが同時に進行している。このため、零細事業者の競争力向上や経営力強化を促進する観点からも、既に外航海運の分野で確立している船舶管理会社の活用を図っていくことが重要な課題と位置付けられてきた。
しかしながら、これまで内航海運の分野においては、船舶管理会社が担うべき業務についての明確な定義や、充たすことが望ましい基準などが体系的に確立されていなかったため、利用しようとする内航海運業者にとって、船舶管理会社の活用やそのメリットなどについて具体的に検討や判断を行うことが困難な状態となっていた。その結果、船舶管理会社の活用に向けた積極的な動きもほとんど見られず、船舶管理会社そのものも少数にとどまる状況となっている。
このような状況の打開を図っていくべく、平成 23 年 3 月に取りまとめられた内航海運代替建造対策検討会の報告書においては、「内航海運における船舶管理者を養成するため、関係者からなる協議会を設置し、船舶管理に関するガイドラインの策定や、船舶管理に従事する者を評価する仕組みづくり(資格制度等)等の取組みや、それに対する支援策を検討し、船舶管理の取組みの促進を図る。」との方針が打ち出された。

2. ガイドラインの目的と役割
本ガイドラインは、内航海運分野における船舶管理業務について、その定義、既存法令との関係、船舶管理会社において委託を受けて実施する場合に遵守することが望ましいと考えられる業務実施のあり方を明確かつ包括的に示すこととする。これにより、本ガイドラインを活用する船舶管理会社が提供する船舶管理業務に係る安全品質

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の向上、船舶管理会社が安全品質の高い船舶管理業務を安定的かつ継続的に実施するための社内の組織や体制の構築の促進、オーナーが自ら保有する船舶に係る船舶管理業務を船舶管理会社に委託することにより期待することのできるメリットや当該船舶を使用して内航運送を行うオペレーターが期待することのできるメリットの顕在化などを図っていくことを目的とする。
また、本ガイドラインは、内航海運業者から内航船の船舶管理業務の委託を受けた船舶管理会社が、委託者はもとよりオペレーターが荷主の信頼に応えて適正かつ高品質な船舶管理業務を実施することができるようにするための基準を明らかにすることにより、内航海運が提供するサービスの水準をさらに向上させる役割を担うものとする。
なお、内航海運代替建造検討会の報告書においては、「船舶管理に従事する者を評価する仕組みづくり(資格制度等)等の取組み」も求めており、今後、船舶管理会社による船舶管理業務の実施について評価を行う仕組みのあり方について検討を行うに際しては、本ガイドラインを最大限活用することとする。

3. 本ガイドラインが対象とする範囲及び関係法令における船舶管理会社の位置付け
3.1 対象とする船舶管理業務及び船舶管理会社の範囲
3.1.1 船舶管理業務
本ガイドラインの対象とする船舶管理業務は、船員を雇用し、管理する船舶に配乗等する業務である「船員配乗・雇用管理」、管理する船舶の堪航性を維持する業務である「船舶保守管理」及び配乗する船員を通じて管理する船舶の運航実施を管理する業務である「船舶運航実施管理」の 3 つを全て含み、これらを一括して実施する業務とする。
3.1.2 船舶管理会社
本ガイドラインを積極的に活用すべき船舶管理会社として、内航海運業者との船舶管理契約に基づき 3.1.1 に定める 3 つの業務を一括で受託する会社を想定す
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るものとする。

【図 1 船舶管理業務を構成する 3 つの業務 】
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3.2 内航海運業法との関係
船舶管理会社は、内航海運業法の適用を受ける内航海運業者との間で船舶管理契約を締結して船舶管理業務を実施するが、自らは内航海運業法の適用を受けない。
内航海運業法上の義務や責任を負う主体は内航海運業者であって、船舶管理会社はこれらの義務や責任を負わず、船舶管理契約に基づく義務・責任を負う。

【図 2 内航海運業法の適用をめぐる船舶管理契約と裸用船契約の違い 】
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3.3 船舶安全法との関係
船舶管理会社は、船舶安全法に基づき、その所有する船舶について船舶安全法の適用を受ける船舶所有者との間で船舶管理契約を締結して船舶管理業務を実施するが、自らは船舶安全法の適用を受けない。
船舶安全法上の義務・責任を負う主体は船舶所有者であって、船舶管理会社はこれらの義務や責任を負わず、船舶管理契約に基づく義務・責任を負う。
3.4 船員法等との関係
船舶管理会社が、船舶管理契約に基づく船舶管理業務の一環として船員の配乗・雇用管理業務を行うことから、船員法上及び船員職業安定法上の船舶所有者に該当し、これら法令の適用を受けることとなる。
なお、船舶管理会社が実施する船員配乗においては、船員職業安定法の趣旨を踏まえ、以下の 4 つの要件を満たす必要があるものと整理している。
(1) 委託者との間で船舶管理契約(Ⅲ.1.6「船舶管理業務に係る契約の作成・締結」参照)を締結していること。
(2) 当該船舶管理契約に基づく船舶管理業務を実際に行なっていること。
(3) 船員を雇用していること。
(4) 船員を指揮命令していること。
3.5 運輸安全マネジメント制度との関係
船舶管理会社は、船舶管理業務の一環として、自社において配乗する船員を通じ、オペレーターが運航する船舶について運航実施管理業務を実施するが、内航海運業法に基づく運輸安全マネジメント制度は、内航海運業者であるオペレーターに適用され、船舶管理会社は適用を受けない。
しかしながら、運航の安全を確保する観点からは、船舶管理会社の運航実施管理業務は、内航海運業法第9条に基づいて定められたオペレーターの安全管理規程と十分に整合した形で、オペレーターが担う運航管理業務と有機的に連携して実施される必
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要がある。このため、本ガイドラインでは、運航実施管理業務について、オペレーターに適用される運輸安全マネジメント制度との整合及び運航管理業務との連携の確保を図ることとする。
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【表 1 ガイドラインと安全管理規程との関係 】
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II. 用語の定義
本ガイドラインで使用する用語の定義は、以下のとおりとする。
1. 「船舶管理業務」とは、特定の船舶について、船員配乗・雇用管理業務、船舶保守管理業務及び船舶運航実施管理業務の全てを一括して実施する業務をいう。
2. 「船舶管理契約」とは、一方が他方の所有する船舶についてその委託を受けて船舶管理業務を実施することについて両者が締結する契約をいう。
3. 「船舶管理会社」とは、船舶管理契約に基づき船舶管理業務を実施する法人をいう。
4. 「管理船舶」とは、船舶管理契約に基づき船舶管理会社が船舶管理業務を実施する場合にその対象とする船舶をいう。
5. 「経営者」とは、船舶管理会社において船舶管理業務の実施について最終的な責任を負う役員又は役員の集団をいう。
6. 「事業所」とは、船舶管理会社が陸上において船舶管理業務の実施又はその管理を行うために設置・運営する事務所をいう。
7. 「陸上要員」とは、事業所において船舶管理業務の実施またはその管理に従事する社員をいう。
8. 「オーナー」とは、内航海運業者であって、自ら所有する船舶について船舶管理契約に基づき船舶管理会社に船舶管理業務の実施を委託するものをいう。
9. 「オペレーター」とは、内航海運業者であって、用船契約に基づきオーナーから船舶を借り受け、当該船舶を使用して内航運送を行うものをいう。
10. 「船舶管理方針」とは、経営者の主体的かつ積極的な取り組みを前提として、船舶管理会社が管理船舶の安全を確保するために船舶管理業務の実施に際して自ら遵守すべき基本的な事項を定めたものをいう。
11. 「船舶管理責任者」とは、船舶管理会社が実施する船舶管理業務について、管理船舶又は業務区分に応じてその全部又は一部に係る権限及び責務を経営者から委任された役員又は社員をいう。
12. 「船舶管理統括責任者」とは、船舶管理会社に複数の船舶管理責任者が存在する
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場合において、全ての船舶管理責任者を統括することに係る権限及び責務を経営者から委任された役員又は船舶管理責任者と同等以上の役職に就く者をいう。
13. 「安全管理規程」とは、内航海運業法第9条に基づき届け出られた規程をいう。
14. 「緊急時対応処理要領」とは、内航海運業法施行規則第 13 条第3号ニに準じて「事故、災害等が発生した場合の対応に関する事項」について定めたものをいう。
15. 「運航基準」とは、内航海運業法施行規則第 13 条第3号ロ(2)に準じて「運航を中止すべき気象及び海象の条件並びに発航中止の指示に関する事項」について定めたものをいう。
16. 「海事関係法令」とは、船舶安全法、船員法、船員災害防止活動の促進に関する法律、船員職業安定法、船舶職員及び小型船舶操縦者法、水先法、海上衝突予防法、海上交通安全法、港則法、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律、電波法及びこれらの法律に基づき発する命令をいう。
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III. 船舶管理業務に関するガイドライン
オーナーとの間で締結した船舶管理契約に基づき、当該オーナーの所有する船舶について船舶管理業務を実施する船舶管理会社は、以下に定めるとおり、適切な体制を整備した上で、船員配乗・雇用管理業務、船舶保守管理業務及び船舶運航実施管理業務のそれぞれを適切に実施するものとする。
1. 船舶管理業務を実施する体制の整備
1.1 船舶管理責任者・船舶管理統括責任者の任命
1.1.1 船舶管理責任者の任命
経営者は、自社の船舶管理業務について、管理船舶又は業務区分に応じてその全部又は一部に係る権限及び責務を委任するため、委任する権限及び責務の内容を明示して船舶管理責任者を任命するものとする。
1.1.2 船舶管理統括責任者の任命
経営者は、2名以上の船舶管理責任者を任命した場合には、全ての船舶管理責任者を統括することに係る権限及び責務を委任するため、船舶管理統括責任者を任命するものとする。
1.1.3 船舶管理責任者又は船舶管理統括責任者不在時の対応
船舶管理責任者又は船舶管理統括責任者は、自らが不在の場合又は連絡不能となる場合に備え、その職務を代行する者をあらかじめ指名し、経営者に報告するとともに 1.2.3(2)に定める一覧表に明示するものとする。
1.2 組織・ガバナンスのあり方
1.2.1 船舶管理方針の策定
船舶管理会社は、以下の事項を記載した船舶管理方針を策定するものとする。
① 船舶管理業務の実施運営の方針に関する以下の事項
(ア) 基本的な方針に関する事項
(イ) 法令等の遵守に関する事項
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(ウ) 取り組みに関する事項
② 船舶管理業務の実施及びその管理の体制に関する以下の事項
(ア) 組織体制に関する事項
(イ) 勤務体制に関する事項
(ウ) 経営者の責務に関する事項
(エ) 船舶管理統括責任者及び船舶管理責任者の権限及び責務に関する事項
③ 船舶管理業務の実施及びその管理の方法に関する以下の事項
(ア) 情報の伝達及び共有に関する事項
(イ) 内部監査に関する事項
(ウ) 教育及び研修に関する事項
(エ) 管理船舶の所有者との連絡調整に関する事項
(オ) 管理船舶のオペレーターとの連携に関する事項
(カ) 文書の整備及び管理に関する事項
(キ) 船舶管理業務の実施及びその管理の方法の改善に関する事項
④ 船舶管理統括責任者の選任及び解任に関する事項
⑤ 船舶管理責任者の選任及び解任に関する事項
1.2.2 船舶管理規程の策定
船舶管理会社は、1.2.1 により策定した船舶管理方針に基づいて船舶管理業務を安全かつ効率的に実施するための具体的な手順を記載した船舶管理規程を策定するものとする。
1.2.3 役職と責任の明確化
(1) 船舶管理責任者は、管理船舶毎に各船員の職務と責任を明示した担当者一覧表を作成し、管理船舶及び事業所に保管するとともに、船員に対して周知徹底を図るものとする。
(2) 船舶管理責任者は、船舶管理業務の実施及びその管理に従事する陸上要員
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の職務と責任を明示した担当者一覧表を作成し、事業所に保管するとともに、陸上要員及び船員に対して周知徹底を図るものとする。
1.2.4 陸上要員の採用、教育及び配置
(1) 船舶管理会社は、船舶管理業務を実施するために必要な陸上要員を採用するものとする。
(2) 船舶管理責任者は、採用した陸上要員に対して、船舶管理方針、オーナーの定める各種管理基準、海事関係法令その他輸送の安全を確保するために必要と認められる事項に関する教育を定期的に実施するものとする。
(3) 船舶管理責任者は、②の陸上要員の教育については、十分な知識と経験を有する者をもって担当させるものとする。
(4) 船舶管理責任者は、船舶管理業務を実施するために陸上要員を適切に配置し、1.2.3 (2)の担当者一覧表に基づいて各陸上要員に船舶管理業務を実施させるものとする
1.2.5 組織内の円滑なコミュニケーションの確保
(1) 船舶管理責任者は、船員と陸上要員の間で常に円滑なコミュニケーションが確保されるよう最大限努めるものとする。
(2) 船舶管理責任者は、船員と陸上要員の間で常時連絡を取り合うことのできる体制を構築して円滑なコミュニケーションが確保されるために必要となる通信装置その他の設備を設置・運営するものとする。
(3) 陸上要員は、担当する管理船舶を定期的に訪船することにより、当該船舶の船員との間で十分なコミュニケーションをとるものとする。
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【図 4 船舶管理会社の組織の一例】

1.2.6 労働安全衛生法等の遵守に関する留意事項の周知徹底
船舶管理責任者は、船舶管理業務の実施に際して、労働安全衛生法等の遵守に関して留意すべき事項をあらかじめ文書にとりまとめ、陸上要員及び船員に対する周知徹底を図るものとする。
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【図 5 管理船舶とのコミュニケーション】

1.3 事故等の発生の防止
1.3.1 安全教育の徹底
(1) 経営者は、安全確保が最大の使命であることを深く認識し、当該認識が全ての社員に共有されるようあらゆる措置をとるものとする。
(2) 船舶管理責任者は、1 年に1回以上の頻度で、陸上要員を管理船舶に訪船させて安全教育を実施するものとする。
(3) 船舶管理責任者による安全教育は、管理船舶に適用される安全管理規程、海事関係法令その他輸送の安全を確保するために必要と認められる事項について行うものとする。
(4) 船舶管理責任者は、管理船舶において安全教育を実施した場合には、その概要を記録し、管理船舶及びに事業所内に 2 年間保管するものとする。
1.3.2 事故等の解析
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(1) 船舶管理責任者は、管理船舶において発生した事故及び各種トラブル(経営者が 1.4 に該当すると判断した事案を除く)の全てについて、応急措置及び復旧措置が終了後に速やかに再発防止のための調査及び原因分析を行い、必要な再発防止策を講じるものとする。
(2) 船舶管理責任者は、重大な事故に繋がる可能性のあった事象(ヒヤリ・ハット)の発生が認められた場合には、船長に必ず報告させるものとする。
(3) 船舶管理責任者は、重大な事故に繋がる可能性のあった事象について調査及び原因分析を行い、必要な再発防止策を講じるものとする。
(4) 船舶管理責任者は、(1)と(3)の調査及び原因分析の結果並びに講じることとした再発防止策について、随時又は定期的な安全教育の機会に船員に周知徹底するものとする。

【図 6 事故等の再発防止のための管理】

1.4 重大な事故等の発生時の対応
1.4.1 危機管理責任者の指定
経営者は、管理船舶において重大な事故等が発生した場合に経営者の指示の下で応急措置、復旧活動等に一元的に対応する者として危機管理責任者をあらかじめ指定し、事業所内及び管理船舶内において周知徹底を図るものとする。
1.4.2 緊急時対応処理要領の策定
(1) 船舶管理会社は、管理船舶において重大な事故等が発生した場合に経営者、危機管理責任者、船舶管理統括責任者、当該管理船舶を担当する船舶管理
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責任者等関係者がとるべき措置を記載した緊急時対応処理要領を策定し、事業所内及び管理船舶内において周知徹底を図るものとする。
(2) 緊急時対応処理要領は、管理船舶について適用される安全管理規程と整合した内容とするものとし、また、重大な事故等が発生した場合に管理船舶の船員の円滑かつ効果的な対応が確保できるよう、過度に複雑な内容とならないよう留意するものとする。
(3) 緊急時対応処理要領の策定に際しては、以下の基本原則が適切に反映されることを確保するものとする。
① 人命救助の最優先
② 常に最悪の事態を想定した対応
③ 重大事故等への対応の他の全ての業務に対する優先
④ 管理船舶の船長と十分にコミュニケーションの形成とその判断の尊重
⑤ 陸上要員により講じられるあらゆる措置
1.4.3 緊急時対応訓練の実施
(1) 船舶管理責任者及び船長は、船員法及び同法施行規則並びに管理船舶に適用される安全管理規程並びに緊急時対応処理要領に基づいて訓練を定期的に実施するものとする。
(2) 管理船舶において緊急時対応訓練を実施した場合には、当該管理船舶の船長は訓練の概要を航海日誌に記載するものとする。

1.5 PDCAサイクルの構築
1.5.1 船舶管理規程の継続的な見直し
経営者は、適切な船舶管理を継続的に実施するため、1.5.2 から 1.5.6 に規定する手順に従って船舶管理規程に対して定期的に評価を行い、評価結果に基づき見直しを行うものとする。
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【図 7 組織的船舶管理における PDCA サイクル】

※PDCA サイクル
PDCA サイクルは、事業活動における生産管理や品質管理などの管理業務を円滑に進める手法の一つ。Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Act(改善)の 4 段階を繰り返すことによって、業務を継続的に改善する。
1.Plan(計画):従来の実績や将来の予測などをもとにして業務計画を作成する
2.Do(実施・実行):計画に沿って業務を行う
3.Check(点検・評価):業務の実施が計画に沿っているかどうかを確認する
4.Act(処置・改善):実施が計画に沿っていない部分を調べて処置をする
この 4 段階を順次行って 1 周したら、最後の Act を次の PDCA サイクルにつなげ、螺旋を描くように 1 周ごとにサイクルを向上(スパイラルアップ、spiral up)させて、継続的に業務改善するという考え方。この考え方は、ISO 9001、ISO 14001、ISO 27001、JIS Q 15001などの管理システム等にも反映されている。

1.5.2 内部監査の実施
(1) 船舶管理責任者は、実際の船舶管理が船舶管理方針及び船舶管理規程に基づき適切に実施されているか否かについて把握するため、事業所及び管理船舶を対象として、1年に1回以上の頻度で内部監査を実施するものとする。
(2) 船舶管理責任者は、重大事故が発生した場合には、応急措置及び復旧措置が終了次第すみやかに内部監査を実施するものとする。
(3) 船舶管理責任者は、内部監査の結果を事業所内及び管理船舶内に周知徹底
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するものとする。
1.5.3 見直しの実施
(1) 船舶管理責任者は、1.5.2 の内部監査の結果に基づき、船舶管理規程の見直しを行うものとする。
(2) 船舶管理責任者は、海事関係法令の改正、事業所組織又は管理船舶の変更等が行われた場合には、必要に応じ遅滞なく見直しを実施するものとする。
1.5.4 見直しに係る内容の周知徹底
船舶管理責任者は、船舶管理規程の見直しを行ったときは、その内容を事業所、管理船舶、オーナー及びオペレーターに周知徹底するものとする。
1.5.5 継続的な改善の実施
船舶管理責任者は、内部監査終了後又は事故若しくは重大な事故に繋がる可能性のあった事象の発生後にあっては、船舶管理規程の見直しの必要性について検討を行うものとする。
1.5.6 文書管理
船舶管理責任者は、陸上要員及び船員が常に最新の船舶管理規程により船舶管理業務を行うために、船舶管理に関する文書に関して保管責任者を定め、管理船舶及び事業所において、いつでも最新版が使用できるように管理するものとする。
1.6 船舶管理業務に係る契約の作成・締結
1.6.1 書式
船舶管理会社は、船舶管理契約を締結するときは船舶管理契約書を作成するものとし、その場合、必要に応じ、社団法人日本海運集会所の船舶管理契約書様式を活用するものとする。
1.6.2 委託内容の記載に関する留意事項
船舶管理責任者は、1.6.1 の船舶管理契約書様式を活用して船舶管理契約書を作成する場合には、本ガイドラインが対象とする船舶管理業務に該当するために、
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同様式第一部④ 委託内容において、「1 船員配乗・雇用管理」「2 船舶保守管理」「3 運航実施管理」の 3 項目の全てについて「諾」の欄に✓印を記載するものとする。

【図 8 内航船舶管理契約書様式第一部 ④ 委託内容(サンプル) 】

1.7 保険の付保
船舶管理会社は、事故等の発生に伴う賠償に備えることを目的として、オーナーと十分に協議した上で適切な保険を選択し、付保を行うものとする。
2. 船員配乗・雇用管理業務の実施
2.1 基準・手順・体制の整備
2.1.1 船員の採用と教育と配乗
(1) 船舶管理責任者は、船舶管理業務を実施するために必要な船員を採用する。
(2) 船舶管理責任者は、船舶管理会社が雇用している船員(派遣船員を含む)に対し、船舶管理規程、海事関係法令その他輸送の安全を確保するために必要な事項に関する教育を定期的に実施する。
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(3) 船舶管理責任者は、管理船舶に、海事関係法令に基づく必要な資格・能力及び身体適性を有する船員を配乗させる。
2.1.2 船長の指名
船舶管理責任者は、次に掲げる要件を満たす者を船長として指名し、全ての管理船舶に配置するものとする。
(1) 管理船舶を指揮するために必要な能力を有していること。
(2) 船舶管理会社の定める船舶管理方針及び船舶管理規程に十分精通していること。
2.1.3 船員安全衛生基準の策定
船舶管理責任者は、船員法、船員労働安全衛生規則等の法令に基づいて管理船舶において船員が行う船内作業による危害の防止及び船内衛生の保持を図るため、船員安全衛生基準を策定するとともに、当該基準を管理船舶に備え付け、船員へ周知徹底するものとする。
2.2 基準・手順・体制の運用
船舶管理責任者は、船員配乗に関して、次に掲げる業務を実施するものとする。
① 船員の配乗管理と乗下船の手配
② 船員の労務管理
③ 船員の労働災害等の処理
④ 船員の評価と人事考課
⑤ 上記に関わる記録の保管
⑥ その他海事関係法令に基づく船長が船員に対して行う訓練、手配及び処理
2.3 基準・手順・体制の見直し
2.3.1 船長等の報告
管理船舶の船長及び船員配乗・雇用管理業務を行う陸上要員は、当該業務の実
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施に関して、船舶管理規程、船員安全衛生基準等について見直すべき内容があると考える場合には、この旨を船舶管理責任者に報告するものとする。
2.3.2 船舶管理責任者の対応
船舶管理責任者は、2.3.1 の報告を受けた場合には、当該見直しの必要性について検討を行い、必要であると判断する場合には、見直しを行うとともに、その内容を事業所、管理船舶、オーナー及びオペレーターに周知徹底するものとする。
3. 船舶保守管理業務の実施
3.1 基準・手順・体制の整備
3.1.1 管理船舶の堪航性の確認
船舶管理責任者は、全ての管理船舶について、船体、機関及び設備の堪航性が海事関係法令に適合していることについて確認するものとする。
3.l.2 船舶保守管理計画の策定
(1) 船舶管理責任者は、船舶安全法及び関係法令並びに船級協会の規則その他の規則及び基準に基づいて管理船舶について的確に保守管理を実施するため、管理船舶毎に船体、機関及び設備に関する船舶保守管理計画を策定するものとする。
(2) 船舶管理責任者は、船舶保守管理計画の策定に際し、管理船舶及びその搭載機器・設備に係る製造者の定める保守基準を考慮に入れるものとする。
3.2 基準・手順・体制の運用
3.2.1 船舶保守管理計画の実施
船舶管理責任者は、船舶保守管理計画に基づき、次に掲げる業務を実施するものとする。
① 機器類の状態に関する定期的な把握
② 機器類の計画的保守管理を実施するための手配
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③ 必要な検査、ドック等の計画、手配、監督
④ 管理船舶の現状と保守整備に関するオーナーへの報告
⑤ 船員に対する技術的支援
3.2.2 船舶保守管理業務の実施に関する記録及び報告
船舶管理責任者は、管理船舶毎の船体、機関及び船舶の保守管理状況について、文書で記録するとともに、記録内容の概要を年1回以上の頻度でオーナーに報告するものとする。
3.2.3 機器類の計画的な保守管理に関する留意事項
船舶管理責任者は、機器類の計画的な保守管理に際し、当該機器類に係る保守管理の実績及び保守実務経験者の意見を考慮しながら、最も適切と判断される間隔で実施するものとする。
3.3 基準・手順・体制の見直し
3.3.1 船長等の報告
管理船舶の船長及び船舶保守管理業務を行う陸上要員は、当該業務の実施に関して、船舶管理規程、船舶保守管理計画等について見直すべき内容があると考える場合には、この旨を船舶管理責任者に報告するものとする。
3.3.2 船舶管理責任者の対応
船舶管理責任者は、3.3.1 の報告を受けた場合には、当該見直しの必要性について検討を行い、必要であると判断する場合には、見直しを行うとともに、その内容を事業所、管理船舶、オーナー及びオペレーターに周知徹底するものとする。
4. 船舶運航実施管理業務の実施
4.1 基準・手順・体制の整備
4.1.1 運航実施基準の策定
船舶管理責任者は、管理船舶毎に、当該管理船舶の運航についてオペレーターが
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定めた運航基準との整合性を確保して、管理船舶毎に配乗された船長及び船員が遵守すべき運航実施基準を策定し、当該管理船舶の船長及び船員に周知徹底するものとする。
4.1.2 運航の可否判断
(1) 船長は、船舶管理規程、運航実施基準、オペレーターが定めた運航基準及び航行に関係する全ての情報を総合的に考慮して、運航の可否判断を行うものとする。
(2) 船長は、運航中においても、運航基準における気象・海象が運航中止の条件に達したと認めるとき又は達するとおそれがあると認めるときは、運航の中止を決定し、必要な措置を講じるものとする。
(3) 船長は、運航の中止を決定した場合には、速やかに船舶管理責任者及びオペレーターに報告するものとする。
(4) 船長は、運航の可否判断が困難であると認めるときは、船舶管理責任者に助言を求めるものとし、船舶管理責任者は、求められた場合には速やかに助言を行うものとする。
(5) 船舶管理責任者は、全ての管理船舶について、船舶管理規程、運航実施基準、オペレーターが定めた運航基準及び航行に関係する全ての情報を総合的に考慮して、運航の可否判断を行うものとし、特定の管理船舶について、運航を中止すべきと判断したにもかかわらず、当該管理船舶の船長から運航の中止に関する報告が行われていない場合又は運航の実施に関する報告を受けた場合には、船長に対して運航の中止を指示するものとする。
(6) 船長は、運航の可否判断、運航の中止の決定、船舶管理責任者の助言・指示等について記録するものとする。
4.1.3 荷役当直要領・荷役作業安全確保要領の策定
(1) 船舶管理責任者は、荷役当直に関する手順、注意事項、荷役作業中に事故が発生した場合の対処方法などを記載した荷役当直要領を策定し、船長及
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び船員に周知徹底するものとする。
(2) 船舶管理責任者は、荷役作業のための船内作業や荷役事業者の補助を行う場合には、その都度、荷役事業者との作業基準と整合性を確保しながら、船員法及び船員労働安全衛生規則等の法令を遵守した作業手順や安全確保上重要な留意事項その他必要な情報を記載した荷役作業安全確保要領を策定し、当該船舶の船長及び船員に周知徹底するものとする。
4.1.4 環境汚染防止基準の策定
船舶管理会社は、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律に基づき管理船舶からの油の排出の禁止、船舶からの有害液体物質等の排出の禁止、船舶からの排出物の排出の規制、船舶からの排出ガスの放出の規制等を遵守するため、これらに関する具体的な手順を記載した環境汚染防止基準を策定し、管理船舶の船長及び船員に周知徹底するものとする。
4.2 基準・手順・体制の運用
4.2.1 船舶管理責任者の監督・支援
(1) 船舶管理責任者は、全ての管理船舶における船長の業務実施に対して監督するものとする。
(2) 船舶管理責任者は、以下の情報について常に把握し、必要に応じ、船長に提供するものとする。
① 気象及び海象に関する情報
② 港内及び航路の状況に関する情報
③ 陸上施設の状況に関する情報
④ 水路通報、港長公示等の行政機関発出情報
⑤ 他の管理船舶の動向に関する情報
⑥ 船体・機関に関する船級協会やメーカー等の情報
⑦ 用船契約中の船舶の運航に関する内容についての情報
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⑧ オーナーの指示及び要望に関する情報
⑨ 付保されている保険の内容に関する情報
⑩ その他航行の安全の確保のために必要と考えられる情報
(3) 船舶管理責任者は、日常的に船長との意思疎通の円滑化・充実を図るとともに、船長に対してその業務執行に関する助言を行うものとする。
(4) 船舶管理責任者は、船長から臨時寄港を行う旨の報告を受けた場合には、速やかに当該寄港先における使用岸壁の確保等必要な手配を行うものとする。
4.2.2 船長の業務
(1) 船長は、海事関係法令、船舶管理規程、運航実施基準、オペレーターが定めた運航基準等に従って、船員を指揮監督し管理船舶の船内における全ての業務を統括し、安全運航の確保を図るものとする。
(2) 船長は、船舶管理責任者及びオペレーターに対し、管理船舶が出港する前及び入港した後には速やかに報告を行うほか、運航中における気象・海象に関する情報及び管理船舶・水路等に関する情報について定期的に報告するものとする。
(3) 船長は、以下の場合には、船舶管理責任者及びオペレーターに対し、速やかに報告を行うとともに、必要に応じ、対処方法について船舶管理責任者の指示又は助言を求めるものとする。
① 緊急時対応処理要領に定める事故等の発生
② 船体、機関、設備等のいずれかが修理又は整備を必要とする状況の発生
③ 船員の健康上等の理由による運航実務遂行の困難な状況の発生
(4) 船長は、管理船舶の機関日誌及び保守整備計画に基づく点検を原則として毎日1回以上船員に実施させるものとする。ただし、発航前検査を実施した事項については、出港の当日の点検を省略することができるものとする。
(5) 船長は、④の点検において異常等を発見し、①の安全運航の確保に支障が生ずると判断したときは、直ちにその概要を船舶管理責任者及びオペレー
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ターに報告するとともに、修復・整備の措置を講じるものとする。
4.2.3 船内業務実施状況等の把握
船舶管理責任者は、陸上要員を定期的に管理船舶に訪船させることにより、以下の事項について常時正確に把握しておくものとする。
① 船員による船内業務の実施状況及び実施能力
② 管理船舶及びその設備・機器の保守管理状況
③ 船内におけるコミュニケーションの状況
④ その他管理船舶の適正な船舶運航実施管理のために必要な事項
4.3 基準・手順・体制の見直し
4.3.1 船長等の報告
管理船舶の船長及び運航実施管理業務を行う陸上要員は、当該業務の実施に関して、船舶管理規程、運航実施基準等について見直すべき内容があると考える場合には、この旨を船舶管理責任者に報告するものとする。
4.3.2 船舶管理責任者の対応
船舶管理責任者は、4.3.1 の報告を受けた場合には、当該見直しの必要性について検討を行い、必要であると判断する場合には、見直しを行うとともに、その内容を事業所、管理船舶、オーナー及びオペレーターに周知徹底するものとする。
5. 船舶管理会社が作成・提出する文書の記載に関する留意事項
5.1 船舶検査証書の記載に関する留意事項
「船舶所有者」の欄にはオーナー(管理船舶が共有の場合は船舶管理人)の氏名又は名称を記載するものとする。
5.2 海員名簿の記載に関する留意事項
(1) 第二表の「船舶所有者の住所及び氏名又は名称」の欄にはオーナー(船舶
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検査証書上の船舶所有者)の氏名又は名称を記載するものとする。 (2) 第四表の労働条件等を記載した下部の空欄には、図9に示すとおり、船舶 管理会社の名称を記載し、「(船舶管理)」と併記するものとする。 (3) 第六表(クルーリスト)の「船舶所有者、船舶管理人又は船舶借入人の住 所及び氏名又は名称」の欄にはオーナーの氏名又は名称を、「船員を使用 する者の住所及び氏名又は名称」の欄にはオーナー及び船舶管理会社の氏 名又は名称を、また、「区分」の欄には船舶管理会社については「船舶管 理」と、それぞれ図10に示すとおり記載するものとする。

【図9 海員名簿第四表の記入例】
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【図10 海員名簿第六表(クルーリスト)の記入例 】

5.3 雇入(雇止)契約届出書、雇入契約(変更)届出書の記載に関する事項(1) 「船舶所有者の住所及び氏名又は名称」の欄には、図11に示すとおり、船舶管理会社の住所及び氏名又は名称を記載し、「(船舶管理)」と併記するものとする。
(2) 船舶管理会社が船員の雇入・雇止等の手続きを国土交通大臣に対して行う際、通常の雇入・雇止の届出に必要な書類に加えて、船舶管理契約書が必要となり、また、手続きの際、確認に時間を要することも想定されることから地方運輸局において事前に確認を受けるものとする。
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【図11 雇入(雇止)契約届出書の記入例】

5.4 船員手帳の記載に関する事項
「船舶所有者の住所及び氏名又は名称」の欄には、図12に示すとおり、船舶管理会社の住所及び氏名又は名称を記載し、「(船舶管理)」と併記とするものとする。

【図12 船員手帳第六表の記入例 】
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IV. 終わりに
1. 船舶管理会社の活用促進の必要性
今後とも内航海運は、我が国の経済と国民生活を支える大動脈として極めて重要な役割を担い続けていく必要があるが、そのためには、船舶の老齢化、船員の高齢化・若手船員の不足など現在直面している困難を克服しながら、安全品質の向上と平行して事業運営環境の着実な改善を図るとともに、事業運営形態そのものも十分に持続可能なものとしていくことが重要な課題となっている。
特に、零細規模のオーナーが多数を占めている業界構造の現状に鑑みれば、これらオーナーの所有する船舶について、安全品質を高めながら船員の確保や養成をより円滑に行うことができる新たな事業運営モデルを確立し、これにより零細オーナーの競争力向上を図ることが急務となっており、このような観点から、今後の内航海運において船舶管理会社の活用促進は官民を挙げて推進すべき施策となっている。

2. 直ちに取り組むべき課題
本ガイドラインの作成を契機に、これを積極的に活用して船舶管理会社の設立やその利用が加速することが強く期待されるところであるが、その場合、オーナーはもとより、オペレーターや荷主にとっても、個々の船舶管理会社による船舶管理業務の提供が本ガイドラインに基づいているか否かがわかりやすいものとなることが不可欠であることから、まずは、これを客観的に示すことのできる評価システムを早期に導入することが求められる。

3. 引き続き取り組むべき課題
加えて、船舶管理会社の活用促進に資する施策の充実を図っていくことが望ましく、例えば、船舶管理会社の設立や活用等に対する何らかのインセンティブの導入、零細オーナーなどに対する活用のメリットに関する効果的な啓発活動の実施、船員養成機関との連携による安定的な人材確保など、多面的な取り組みを積極的に進めていくべきである。

以上

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内航船舶管理ガイドライン検討委員会名簿

(敬称略・順不同)

座長 竹内 健蔵       東京女子大学 教授
副座長 羽原 敬二    関西大学 教授
副座長 広野 康平    神戸大学 准教授
委員 藤岡 宗一       日本内航海運組合総連合会 調査企画部担当部長
委員 須永 光義       全国海運組合連合会
委員 篠野 忠弘       全日本内航船主海運組合
委員 内藤 吉起       全国内航タンカー海運組合
委員 越智 猛          内航大型船輸送海運組合
委員 吉田 裕信       全国内航輸送海運組合
委員 窪木 孝雄       財団法人 日本海事協会 認証サービス事業部長
委員 藏本 由紀夫    特定非営利活動法人 日本船舶管理者協会 理事長
事務局 日浦 公徳    特定非営利活動法人 日本船舶管理者協会
事務局 畑本 郁彦    特定非営利活動法人 日本船舶管理者協会
事務局 小原 朋尚    特定非営利活動法人 日本船舶管理者協会
事務局 合田 浩史    特定非営利活動法人 日本船舶管理者協会
事務局 金原 一次    特定非営利活動法人 日本船舶管理者協会 事務局
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