200509 新規物流に関する研究(モーダル・シフト,内航フィーダー,静脈物流)

日本内航海運組合総連合会 基本政策推進小委員会:『新規物流に関する研究』,2005年9月

Ⅲ.カボタージュ制度について

政府の進める構造改革特区構想に対して、横浜市、東京都、福岡市等から船舶法が規制している各自治体諸港と国内諸港間の外航コンテナの外国船船籍船による国内輸送を開放するよう要望がなされた。
行政当局は、「カボタージュに従事する権利は専ら自国船舶に留保されることは国際慣行上みとめられており、我が国の企業に対しカボタージュを全く認めてない国もあることから、我が国が一方的に緩和することは不利益を被ることとなる。今後も、外国政府からの要望を受け、又は我が国政府が要望し、相互に認め合うなど日本の利益が確保されると確認でき、二国間合意がなされなければ特許することは困難である。」と回答している。その結果、平成16年6月8日政府が諮問している有識者会議において、同要望は、重点検討項目から除外されることとなった。
然しながら、行政当局は、具体的要望については国益・相互主義を原則として都度検討するとしている。その一つにペルシャ湾岸6カ国の資本から設立されたアラブ系外航船社は、極東/ペルシャ湾・欧州航路用の日本輸出入貨物については、ブサン港で接続しているが、母船を博多寄港させ現在韓国への外国船籍フィーダー船800TEU型外国籍船を横浜、名古屋、神戸、博多間の国内フィーダー船として使用したいとの申し入れが関係先になされた。これに応ずる形で福岡市がカボタージュ規制の緩和要望を行ったものである。当局は同要望に対し、本件を個別案件として検討するとの回答を行っていることから、福岡市は構造改革特区にかかわる規制
緩和要望としては撤回している。
内航業界は、カボタージュ規制を個別案件として緩和を行う場合、当該国の内航海運産業の有無や、程度及び同国内航輸参入に対するニーズを充分検討し国益の有無を検証した上行うべきであって、単なる形式的な相互主義に基づく規制緩和は国益に反するものであり、安易に沿岸特許を与えることは反対である旨主張しているところである。今後ともこの種事例が出ることが予想されることから、関係各位の御理解を得るため改めて同制度の経緯、現状、課題を述べることとする。

1. カボタージュ制度の意義

大阪大学国際学部教授片岡邦雄によればカボタージュに関する骨子は以下の通
りである。

  • カボタージユは元来、フランス語で沿岸貿易を意味するが、海運においてカボタージュは一国沿岸内における輸送をいう。
  • カボタージュの留保(国内沿岸輸送への留保)は、自国海運保護の一形態で、国際的に是認された政策であり、明示の条約を要しない。
  • 留保の正当性として、歴史的には、国防上、自国船、自国船員を維持しなければならないということが強調されてきた。
  • 他方、各国が経済上、自国海運を保持したいということもまた自然である。後者は一種の産業政策である。
2. 各国のカボタージュ規制の実施状況

アメリカ合衆国運輸省公表「BY THE CAPES AROUND THE WORLD, SUMMARY OF WORLD CABOTAGE PRACTCIES」による世界各国の規制の実施状況は以下の通りである。

  • 調査対象53カ国のうち大多数の国は、商船に対する保護政策をとっている。40カ国は厳しいカボタージュ制度、加えて17カ国が補助制度、17カ国が間接補助制度、43カ国が船員規制制度、37カ国が船舶所有規制、6カ国が自国建造船舶規制等を実施している。
  • 世界各国のカボタージュ実施状況は資料編「BY THE CAPES AROUND
    THE WORLD」の一覧「Summary of National Flag Preferences in Domestic Trade」の通りであるが、概要は以下の通りである。

① カボタージュ規制を実施している国

アメリカ合衆国、日本・中国を含むアジア諸国、ヨーロッパ諸国、中南米・南米諸国等43カ国

② 最も厳格で排他的規制を実施しており自国以外の建造・登録船舶を排除し認めない国

アメリカ合衆国、ブラジル、インドネシア、ペルー、スペイン等

③ カボタージュ規制があるが、船舶の所有、建造に対する規制を持っていない国

イタリー、ウルグアイ、オーストラリア、ドイツ、パナマ

④ 多少の規制はあるが、正式なカボタージュ規制のない国

ベルギー、キプロス、イスラエル、ケニヤ、シンガポール、南アフリカ、イギリス等

国内の内航船輸送貨物の少ないほど規制が緩和されている傾向がある。

3.日本のカボタージュ制度

日本におけるカボタージュ制度を論ずる場合、船舶法に基づく狭義の規制と外国人労働の受け入れ問題に関する閣議決定に基づく広義の規制と分けて考える必要がある。

(1) 船舶法による規制

① 沿 革

江戸時代の幕末、幕府は外国船舶による内海往来を控えるよう各国公使に求めたが、各国との条約並びに馬関戦争敗北後事実上外国船に沿岸貿易を許した形となり、P&O等外国船社が国内海上輸送に従事していた。明治に入り不平等条約の改正問題が時の政府の大きな問題となり、カボタージュの回復が条約改正も一つの課題であった。外務大臣陸奥宗光による長期間にわたる各国との交渉の結果、漸く改正交渉に成功し日本の法権が回復し、明治32年カボタージュの留保が船舶法において結実したものである。

(前掲 片山教授)

② 日本国船舶法による規制の内容

第一条 左ノ船舶ヲ以テ日本船舶トス
一 日本ノ官庁又ハ公署ノ所有ニ属スル船舶
二 日本国民ノ所有ニ属スル船舶
三 日本ノ法令ニ依リ設立シタル会社ニシテ其代表者ノ全員及ビ業務ヲ執行スル役員ノ三分ノ二以上ガ日本国民ナルモノノ所有ニ属スル船舶
四 前号ニ掲ゲタル法人以外ノ法人ニシテ日本ノ法令ニ依リ設立シ其代表者ノ全員ガ日本国民ナルモノノ所有ニ属スル船舶
第二条 日本船舶ニ非サレハ日本ノ国旗ヲ掲クルコトヲ得ス
第三条 日本船舶ニ非サレハ不開港場ニ寄港シ又ハ日本各港ノ間ニ於テ物品又ハ旅客ノ運送ヲ為スコトヲ得ス但法律若クハ条約ニ別段ノ定アルトキ、海難若クハ捕獲ヲ避ケントスルトキ又ハ国土交通大臣ノ特許ヲ得タルトキハ此限ニ在ラス

③ コンテナの国内フィーダーに関する解釈について
運輸省内航法規研究会編「内航海運業法の解説」(成山堂書店)によれば内航海運業法上の国内各港間の運送に関する当局の解釈は以下の通りと記述している。
[「船積み港及び陸揚げ港のいずれもが本邦内にあること」とは、物品を本邦内で船積みし、陸揚げすることであって、船舶の航路の起点と終点とが本邦内にあることとは、必ずしも一致しない。外航に就航しようとする船舶であっても、船積貨物の一部を本邦内で船積みし、陸揚げするものがあれば、その限りで内航運送に従事したことになる。たとえば、神戸発サンフランシスコ行きの船舶が、航海の途中で、神戸、横浜間の物品を運送すれば、神戸、横浜間のその運送は、内航運送である。
また、物品を本邦内で船積みし、陸揚げすることが内航運送の要件となるのであるから、いわゆる外航の二次輸送としての国内各港間の運送も、当該運送の対象となる物品に係わる外国の港と本邦の最終陸揚げ相互間の通し船荷証券の発行の有無、保税物品であるか否かを問わず、内航運送となる。例えば、サンフランシスコ発神戸行きの物品をサンフランシスコから横浜まで運送の上、一旦横浜に陸揚げし、他の船舶に積みかえたのち、あるいは直接の船舶に積み替えたのち、神戸に運送すれば、横浜、神戸間の運送(二次輸送)は、内航運送となる。]

上記の通りコンテナの内航フィーダーについては、外国籍船舶では行えないのが大原則であるが、船舶法第三条の但し書きに「国土交通大臣の特許を得たるときは此の限りに在らず」との規定があってこの運用が問題となっているのである。

④ 沿岸特許の現状について

国土交通大臣の沿岸特許については、公表されていないことから、詳細は不明であるが、実態は以下の通りであると推測されている。

・ 空コンテナ

邦船支配船 :日本船籍船日本人フル配乗船、外国籍船、外国船社支配船 :条約国・最恵国待遇国籍船、その他外国籍船

・ 実入り外貨コンテナ(通しB/Lで運賃の収受のないもの)

邦船支配船 :日本人フル配乗日本籍船、外国籍船)
外国船社支配船:条約国・最恵国待遇国籍船

・ 条約国等

日英通商条約(1965年発効)、日ノールウェー通商条約交換公文(1957年発効)による英国およびノルウエー国

・ 最恵国待遇国

日本が通商航海条約や通商協定において、締約国の一方が他方に対し、通商・関税・航海などの事項について最も有利な待遇を与えている第三国よりも不利でない待遇を与えることを約束した諸国に、フランス、ドイツ、デンマーク、スエーデン、インド、タイ、ハイチの7カ国がある。条約国と同条件の輸送を認める必要がある。

(2) 疑問点・論点

① 日本は、中国及び米国と並び世界最大の国内海上輸送量を誇っており、最も内航海運が発達した国であるといえる。米国はジョーンズ・アクトにより本土はもとよりハワイ、グアム島、カリブ海自治領を含め最も厳しいカボタージュ規制を行っている。中国においても、厳しいカボタージュ政策が採られている。

平成14年、北米西岸の港湾労働組合による長期ストライキの混乱を回避するため、日本国政府が米国政府に対し一時的なカボタージュ規制緩和を要求したにもかかわらず、明確に拒否されたことは記憶に新しいところである。
通商条約締結国はもとより最恵国待遇を与えられた国々は、相互主義に基づくとはいえ内航船舶による輸送量は極めて少なく又は無く、日本国にとって当該国に於ける内航輸送の利益がないにも拘わらず、品目の限定が在るとは言え世界有数の内航海運国である日本国内の沿岸輸送を認めることに至る国益はどこにあるのか理解に苦しむところである。条約又は最恵国待遇を与える場合において、沿岸輸送を除くことが望ましいと考えている。

② 内航船に対する関係当局の考え方について

国が必要と認めた場合の日本籍船舶に対する海上運送法上の航海命令、国民保護法に基づく特定事業者(井本商運、川崎近海汽船、近海郵船物流、栗林商船)の指定により有事の際の内航船舶の従事命令、不審船・テロ活動予防等に対して協力することが求められている。特に、災害時及び有事の際においては、コンテナ船・RORO船の活躍が期待されている。また、中枢ハブ港湾構想の中で、スポークとなる内航船による国内フィーダー網の構築がもとめられていると理解している。そのような国の要請の受け皿となる内航船の育成の観点から沿岸特許の付与問題については、より厳格な手続きを経て検討されて然るべきであると考える。

③ 新規物流貨物による内航海運の活性化

一方、内航貨物として主力の基礎素材物資の荷動きは日本の産業構造の変化に伴い荷動きの増量は期待し難い状況にあって、内航業界としては、新規物流貨物として、積極的にモーダルシフト貨物、フィーダー・コンテナ貨物、循環型経済社会に必要な広域静脈物流貨物の受け皿となり内航海運の活性化に繋げる必要性に迫られている。
従って、国内フィーダーについては、特許による外国のフィーダー船でなく、内航船により輸送が出来るよう努力しているところである。日本国内の基幹航路が沿岸特許により外国船に参入された場合、内航フィーダー船の大型化・船腹拡充に水をさすこととなる。
上記の通り、内航業界としては、個別案件として新たな沿岸特許を与えるような運用を行うことは、前例が前例を呼び、コンテナ貨物から石油・石炭等の二次輸送に及ぶなど内航海運の弱体化に繋がることになることを強く懸念し反対しているところである。

(3) 外国人労働の受け入れに関する閣議決定

昭和41年に閣議決定された「雇用対策基本計画」によって、外国人単純労働者の導入を認めないとする閣議了解がなされ、また、船員についても同様の取扱いをするとの確認がなされたことから、外国人船員についても日本船籍船(現在では内航船)への配乗は認められていないのが現状である。
過去、内航船員の減少と高齢化が進行していることから「船員不足問題問題を考える懇談会」等において対応策の検討が長らく行われて来たが、平成10年の船腹調整事業の廃止後、内航海運暫定措置事業の導入により大量の船舶の解撤が行われ一時的に余剰船員が生じたこともあり積極的な検討は中断した形となっていた。同時に内航船員に外国人船員を導入することについてはタブー視されてきた。しかしながら、平成17年4月より施行された改正船員法の実施にともない最少定員制の導入等安全運航の観点より、時間外規制についての運用の強化が行われることになったことから、船員の不足問題が再燃した状況が生じてきている。
この様な状況の中で、産業界からは運賃コスト削減の観点から外国人船員の導入要望等がある。少子高齢化が進行する状況において、内航業界としても中・長期的に内航船員の確保が課題となり外国人船員の社会的コスト負担・安全性・海技伝承の観点から導入の是非又は在り方についても検討に着手する時期に来たように思われる。
しかしながら、此の問題は、基本的に船員少数化のための航行支援・陸上支援体制の整備等による労働力の効率化等の推進とともに、女性労働力・高齢者の活用等労働力確保の延長上の課題として慎重に検討されるべきものと考える。

(4) 今後の課題
なお、当研究会の主張としては、既に与えられているカボタージュにかかわる沿岸特許は、やむを得ないものの外航コンテナ貨物(空コンを含む)は、先ず内航海運業者に運送を担当させるべきだと考えている。
外航コンテナを国内輸送する日本籍船舶を対象に、沿岸特許を受けた外国船に対してコスト競争力をつけ競争条件を平等にするため、更に次のような施策の採用を望みたい。

① 外航船に与えられたコスト上の優位性を内航船にも適用すること、即ち

・ 燃料費

石油石炭税及び消費税の免税だけでなく、貿易貨物輸送の性格上保税油の使用も求める。

・ 船舶固定資産税の減免

外航船コストに対抗するため、通常外航船で減免されている条件と同一の適用を求める。

② 内航船だけに課せられた制約とコストの軽減

  •  内航業界での内部規制としての船種による寄港地制限の緩和
  •  新規物流貨物の内航海運への誘致の観点より、内航フィーダー船に対して内航海運暫定措置事業の建造認定条件の弾力的適用を求める。

③ 沿岸輸送特許に関わる輸送数量情報の開示

内航業界としても船型大型化によるコストメリットを享受したいが、現段階ではデータ不足で新造船建造に踏み切る船主・運航者はいない。内航船輸送が割高なため、カボタージュ緩和論が出てきたのであるから、内航業者に輸送量データを与えれば、大型船による正確な収支採算を計算でき、輸送コストの削減を図ることが可能となり、新造船建造への動きも出でくることが期待される。

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