交通政策審議会海事分科会 ヒューマンインフラ部会,『海事分野における人材の確保・育成のための海事政策のあり方について(中間とりまとめ)』,平成19年6月
目 次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
第1章 船員(海技者)の確保・育成に関する基本的考え方・・・・・・・2
1. 船員(海技者)の確保・育成に関する問題点・・・・・・・・・・・2
2. 船員(海技者)の確保・育成についての基本的視点・・・・・・・・3
(1)日本人船員(海技者)の意義・必要性・・・・・・・・・・・・・・3
(2)船員数の将来見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
ⅰ)外航船員の将来見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
ⅱ)内航船員の将来見通し・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(3)今後の施策を進めるに当たっての考え方・・・・・・・・・・・・・5
第2章 優秀な日本人船員(海技者)の確保・育成のための具体的施策
~ 4つの柱に沿った取組み ~
(1) 船員を集める・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
① 海の魅力のPR・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
② 船員の職業としての魅力の向上・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
③ 海上経験を有する者の有効活用等・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(2)船員を育てる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
(3)船員のキャリアアップを図る・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(4)陸上海技者への転身を支援する・・・・・・・・・・・・・・・・・10
第3章 海事地域の振興・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第4章 施策の推進のための体制と制度等の整備・・・・・・・・・・・・・12
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14
以下、管理人専用
はじめに
「海」は、物理的な障壁であると同時に、貴重な生活交通路や資源の宝庫であり、社会成立の
基盤としての貿易に不可欠な存在である。
四面を海に囲まれた我が国においては、貿易量の99%、国内貨物輸送量の38%を海運が
担っており、海運は国民の生活、経済を支える上で大きな役割を果たしている。
これら我が国の社会・経済にとって欠くことのできない海運は、船舶の運航に従事する船員及
び陸上でこれを管理・支援する海技者により支えられており、海運の安定確保の観点からは、人的基盤(ヒューマンインフラ)である船員(海技者)の確保・育成は、「海洋国家」である我が国における極めて重要な課題である。
一方、外航日本人船員は、ピーク時の約5万7千人から約2,600人へと20分の1以下に極端に減少している。内航船員も約7万5千人から約3万人へと減少しており、高齢化が著しく進行している。今後の生産労働人口の減少や少子高齢化の進展を踏まえると、育成に長期間を要する専門技術者である船員の確保・育成は、今や喫緊の課題となっている。
船員の確保・育成のためには、海の魅力のPRを通じ、青少年の海への関心を深めることが重
要であるが、このような海事広報は、船員のみならず、造船、港湾、マリンレジャー等幅広い海事産業の人材確保や海事地域の発展等幅広い観点に立って実施すべき問題である。
このような認識のもと、国土交通大臣より、交通政策審議会に対し、平成19年2月、「今後の安定的な海上輸送のあり方について」の諮問がなされたことを受け、同審議会海事分科会にヒューマンインフラ部会を設け、優秀な日本人船員(海技者)の確保・育成策を中心に、海事分野における人材の確保・育成のための海事政策のあり方について調査・審議を続けた結果、現時点における審議の結果を中間的にとりまとめることとしたものである。
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第1章 船員(海技者)の確保・育成に関する基本的考え方
1.船員(海技者)の確保・育成に関する問題点
海運を取り巻く環境は、船舶に関する技術革新、国際的な安全基準の強化、保安意識の高まり等により、近年著しく変化してきている。このような中で、海洋国家である我が国における海運の安定性・安全性・信頼性の確保、海技の世代間の伝承等を可能とするためには、船員(海技者)を安定的かつ計画的に確保し、育成していくことが死活的に重要な課題となる。
しかしながら、外航日本人船員については、厳しい国際競争の中、各国で採用されているような支援措置が我が国では採用されていなかったこと等の影響もあり、この30年間で、ピーク時の約5万7千人から約2,600人へ船員数が極端に減少している。
一方、内航船員については、船舶の大型化による運航効率の向上と運航技術の進歩に伴い漸減傾向にあり、現在雇用の需給は概ね均衡しているが、中国・四国等の一部地域においては船員不足の状況が顕在化している。また、45歳以上の占める割合が64%に上る等高齢化が著しく、今後は外航海運や漁船分野からの経験豊富な即戦力となる船員の参入が望めないこともあって、近い将来船員の不足が深刻化することが確実視される等、内外航ともに厳しい局面にある。
海技は一旦世代が断絶してしまうと、再び確立するには、極めて大きな時間・労力・費用が必要となるものであり、このまま内外航の船員を巡る厳しい局面を放置するならば、早晩、「海のDNA」が損なわれ、これまで「安全性が高く、環境負荷が低い」という長所を有していた日本海運にとって致命的な影響が生じてしまうおそれが強い。これは我が国の海運の安定性・安全性・信頼性の確保、海技の世代間の安定的伝承等の観点からは極めて大きな問題である。
船員(海技者)の確保・育成を進めるためには、海の魅力や船員(海技者)の職業的魅力・重要性が広く理解されることが必要である。しかし、現状においては、
ア 海の重要性についての社会的認知度の低さ
イ 船員を志望する人材を集めることの困難さ
ウ 船員になること自体の大変さ
エ 船員の厳しい職場環境・労働環境
オ キャリアアップのための環境の不十分さ
カ 船員・陸上海技者の全体を通じた海技者としてのキャリアパスの不明瞭さと社会的認知度の低さ
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等の問題点が顕在化しており、次代を担う若者が安心して船員という職業を選択できるような環境が形成されていない。
船 員 : 船舶に乗り組む者をいう。 海技者 : 船員としての知識・経験を有し、それを活かして海事関連業務に従事する者(船員を含む。)をいう。また、本中間とりまとめでは、船員以外の海技者を「陸上海技者」という。 |
2.船員(海技者)の確保・育成についての基本的視点
(1)日本人船員(海技者)の意義・必要性
日本商船隊における外航日本人船員は、プラザ合意後の急速な円高等によるコスト競争力の喪失から、外国人船員への置き換えが進み、現在では極端に減少している状況にある。外航日本人船員は、日本海運のために核となるべき存在であり、我が国の置かれた地理的、経済的状況に照らせば、非常時をも想定して、平時から一定程度の日本人船員を確保・育成しておくことは喫緊の国家的課題である。諸外国においても、国家安全保障上の理由や、自国物資の安定輸送手段の確保、船舶運航等に係わるノウハウの維持、海運及び海事関連産業の重要性等の観点で、自国船員(海技者)の意義・必要性を認め、確保のための様々な施策が採られている。
外航船員をめぐっては、国際的に船舶職員(船長・機関長、航海士・機関士を指す)が不足する一方で、甲板員・機関員等の部員が過剰となる需給構造が定着しつつあり、拡大を続ける世界の船腹量を背景に、船舶職員不足が将来一層深刻化する見通しとなっている。このような中、船員供給国の事情変化により安定的な海上輸送に支障を来たすことのないよう、一定規模の優秀な外航日本人船員を確保しておくことが必要である。
四面を海に囲まれた我が国において、内航海運は、国内貨物輸送の約4割を担い、我が国の経済や国民生活を支える上で重要な産業基礎物資である鉄鋼、石油、セメント等についてはその約8割を輸送する等、極めて重要な役割を果たしている。
また、国内海上旅客輸送は、国内航空旅客輸送を上回る年間延べ約1億人の国民が利用しており、特に、離島航路は島民の唯一の足、さらには生活物資の輸送手段として地域経済を支えている。
地球温暖化対策に対する取組みが求められる中、中・長距離フェリーや貨物船は、環境に優しい物流を目指す陸上から海上へのモーダルシフトの担い手として、極めて高い公共性を有し
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ている。
これら貨物・旅客双方の内航海運の重要性を考慮すると、その人的基盤である内航船員の意義・必要性は論をまたない。
内航船員数は、外航船員の10倍を優に超える規模であり、一方で高齢化が著しく進展していることを踏まえると、今後、若年船員を確保し、円滑な世代交代を進める必要性は高い。
近年、船舶の近代化や大型化が進む中、内航船員には、安全運航、環境保全等のための、より高度な船舶運航能力が求められるようになっており、優秀な技術者集団である船員(海技者)の確保は、外航海運に劣らず重要な課題となっている。
さらに、内外航を通じ、海運が持続的に発展するためには、陸上・海上を問わず内部にその業務の中核となる船舶運航能力及びそれに裏打ちされた管理・監督能力を備えた優秀な技術者集団である船員(海技者)の保持が必要である。
(2)船員数の将来見通し
ⅰ)外航船員の将来見通し
国際海上輸送部会において、外航日本人船員の必要規模について試算したところ、最低限必要な日本籍船は約450隻となり、これらの日本籍船を運航するのに必要な日本人船員は約5,500人となる。一方、平成18年に外航海運業界は、業界の総意として、日本籍船を5年で2倍、日本人船員を10年で1.5倍に増加させることを目標とする旨を表明している。
日本籍船・日本人船員の現状規模を踏まえれば、日本籍船約450隻、日本人船員約5,500人という必要規模を短期間で達成することは困難であり、今後、日本籍船・日本人船員の計画的な増加を図るべくさらに検討することが必要である。
今後、外航日本人船員の増加を促進するためには、外航海運事業者の国際的なコスト競争力の確保に配慮した制度的な措置が必要であり、それに向けた施策の実施は喫緊の課題となっている。
ⅱ)内航船員の将来見通し
内航船員については、高齢化が進んでいる年齢構成や現状レベルの採用や退職の状況並びに内航船のこれまでの運航の効率化の流れが今後も継続することを前提に、今後5年間ないし10年間の内航船員の需給状況を試算したところ、5年後に約1,900人、10年
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後には約4,500人程度の船員不足が生じる可能性がある。
高度な技術者である船員の育成には長い期間がかかることを踏まえると、少子高齢化が進展し、今後生産労働人口が減少する中で、内航船員の確保・育成に向けた対策は喫緊の課題となっている。
(3)今後の施策を進めるに当たっての考え方
船員(海技者)の確保・育成という観点から、今後の施策を進めるに当たっての考え方を整理すると、船員を
①集め、
②育て、
③キャリアアップを図り、
④陸上海技者への転身を支援する、
という4つの施策を柱として推進することが適切であり、今後は、この4つの柱に沿った施策・取組みを行う必要がある。
第2章 優秀な日本人船員(海技者)の確保・育成のための具体的施策
~ 4つの柱に沿った取組み ~
(1) 船員を集める
① 海の魅力のPR
外航における日本人船員の減少、内航における船員の高齢化及び後継者不足という状況に対処するためには、意欲ある人材に対して、船員という職業を今後選ぶ道として開放・提示していくことが必要であるが、その大前提として、海に対する国民各層の関心を高めることが必要であり、そのための海事広報活動については、これまで以上に積極的に取り組むことが求められている。
しかし、これまでの海事広報活動は、青少年の興味を喚起し、感動とロマンを与える点で必ずしも十分な効果を上げていない。
少子高齢化の中で、船員志望者の裾野拡大を図るためには、まず、多くの児童・生徒、青少年、保護者に、海の魅力や海の職場の重要性について認識を深めてもらうことが必要である。このため、今後は、青少年の海に関する興味を喚起し、感動とロマンを与えることを目的とした活動を強化し、青少年に海に関わる仕事へのあこがれ・夢を抱かせることを目指すべき
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である。
このような活動は、船員の確保・育成のみならず、造船、港湾、マリンレジャー等幅広い海事産業における人材の確保や、海事産業が集積する地域の発展にとっても重要な課題となる。したがって、海事広報は広い視野に立ちつつ展開することが必要であり、幅広い海事関係者が連携し、海事産業の人材確保・育成に関する基本戦略を確立して、中央・地方の各層において海事広報活動に戦略的に取組むことが求められる。また、体験乗船や造船所見学の人数等事業推進のための分かりやすい目標を設定し、中長期的な達成度を踏まえて施策の充実を図るPDCAサイクルを確立することが重要である。
こうした活動に当たっては、先般制定された海洋基本法や陸海空の中で「海の日」が唯一祝日となっていることの意味を踏まえ、我が国が海洋国家であることの認識を社会全体で共有してもらうため、今まで以上に戦略的かつ効果的に海事広報活動に取り組んでいくことが必要である。
このため、海の魅力をPRするための象徴的な存在として航海訓練所の練習帆船「日本丸」・「海王丸」を青少年の体験航海や市民クルーズに有効活用することとし、これを1つの核としつつ、官民を挙げて海事広報活動の充実に取り組む必要がある。
また、海の魅力のPRをする際には、これまで以上に海の職場に関する情報提供についても充実を図ることが必要である。
(具体的施策の例)
○ 産学官及び地域の連携により全国及び意欲ある地域レベルでの協議会を形成し、マスタープランの下で、海事・海洋関係団体・NPO組織等のネットワーク化を図り、地域の自主的な取組みを支援・調整する等により、戦略的かつ効果的に海事広報を推進
○ 児童・生徒や青少年層を主な対象とした練習帆船「日本丸」・「海王丸」への体験乗船。そのための海事青少年教育機関との連携、練習帆船による市民クルーズ等の積極的推進
○ 年間を通じ継続し、かつ、海の日・海の月間において集中実施する等の海事広報活動における戦略的な取組み
○ 船や造船所の見学会等海事産業全体による総合的なPR
○ 船員教育訓練機関が連携したイベント・PRによる海の職場に関する情報提供
○ 客船によるクルーズの振興及びこれを通じた海の魅力のPR
○ 「海のまちづくり」の中で行う海の魅力のPR
○ 授業や修学旅行での活用等学校教育との連携推進
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② 船員の職業としての魅力の向上
若者が安心して一生を託すに足る職域として海の職場を選べるようにするためには、海運事業者の自主的な努力により、経営基盤の確立・安定化や、船員の労働環境・職場環境の改善を図るとともに、それを可能とする制度的な枠組みの充実を図ることが必要である。
しかしながら、海運業界においては一部に大手企業は存在するものの、その大半を中小零細企業が占めており、現状のままでは、海をめざす若者が安心して就職できる環境とはなっていない。また、かつての船員の給与は、陸上の職種に比べ相当程度高く、船員を志望する者にとっての大きな魅力となっていたが、近年、海陸の給与格差は大幅に縮小しており、海上労働の厳しさを考えた場合、職業としての魅力が失われかねない状況となっている。
船員の職業としての魅力の向上のためには、業界の魅力や事業者の体力を向上させるための施策が必要であり、例えば、内航海運事業者等のグループ化を推進し、船員の計画的な募集・採用・育成等を容易に行える体制を整備する等、さまざまな角度から対策を推進する必要がある。
また、海を職場として選んだ若者を船員としてキャリアアップさせるための環境整備を進める観点からも、内航海運事業者等のグループ化をはじめ、中小海運事業者の経営基盤の安定が必要である。
(具体的施策の例)
○ 船員(海技者)のキャリアパスの全貌を明示することによる職業的魅力の積極的PR
○ 内航海運事業者等のグループ化を活用した船員の活躍する場の拡大、船員の計画的募集・採用・育成の支援
○ トライアル雇用を通じ船員の能力を的確に把握すること等により若年者の採用の拡大を推進していく観点から、船員の就職促進・能力開発のための支援策の見直し
○ 残業時間の上限の設定、休息・健康の確保及び労働条件の明確化による船員の労働環境の改善
○ 若者にとっての船員教育の魅力を向上する観点からの奨学金の見直し
③ 海上経験を有する者の有効活用等
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内航における船員不足をはじめ、今後発生する船員不足の状況に的確に対応するためには、若者を海の職場に誘導する施策に加え、退職海上自衛官をはじめとする海上経験を有する者を積極的に海運業に迎え入れることが求められる。このため、海上経験を有する者の持つ技術を評価し、短期間で資格を取得できるようにする等海技資格制度の柔軟化や、女子船員の船舶運航要員としての活躍の場の拡大を図る必要がある。また、船員教育機関の卒業生の海上就職率向上、水産高校卒業生等海になじみのある人材の内航への活用促進等により、人材の有効活用を図っていくことが必要である。さらに、その際、内航海運の実務に即した訓練を受けることができるような環境整備も重要である。
各企業が自主的に定年後再雇用の拡大を図ることにより、中高年技術者の有効活用を図ることも重要な課題である。
限られた人材を有効活用する観点からは、新たな技術やシステムの船舶運航の省力化の効用に応じて、乗組制度の見直しを行うことが必要である。
この他、雇用のミスマッチを解消するためには、海の職場を希望する者が的確な就職情報を入手し、適切な職業指導・就職斡旋を受ける環境を充実させる取組みも重要である。
(具体的施策の例)
○ 退職海上自衛官等の海上経験を有する者や女子船員の船舶運航要員としての活用推進
○ 海上経験を有する者の活用を推進するための海技資格取得の容易化等海技資格制度の柔軟化
○ 海上経験を有する者や女子船員の活用等人材確保の対象の拡大を推進していく観点から、船員の就職促進・能力開発のための支援策の見直し
○ 定年後再雇用の拡大
○ 新たな技術やシステムの船舶運航の省力化の効用に応じた乗組制度の見直し等海技資格制度のあり方についての検討
(2)船員を育てる
関係者が広く認める日本人船員の優秀性は、日本船の事故発生率の低さからも証明されるものであり、四面を海に囲まれた我が国が今後も安全性が高く、環境負荷が低い海運を維持・整備していくためには、質の高い船員の確保に資する船員教育訓練システムを保持していく必要がある。
我が国は、船員教育機関における座学教育と航海訓練所における一元的な航海実習との組
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み合わせにより、国が責任を持って船員を育成する日本型船員教育訓練システムを長い期間をかけて形成してきており、この下でこれまで数多くの優秀な船員を育成してきた。
船員には、船舶を安全に運航するための知識・技能や、船内の統率力、協調性、責任感、積極性、忍耐力、危機管理能力、他船・陸上機関とのコミュニケーション能力等様々な能力が要求される。さらに、近年の海運業界では、技術の進展に合わせたより高度な船舶運航能力に加え、海技者としての能力等も求められるようになってきている。
このため、これまで優秀な日本人船員を育ててきた我が国の船員教育訓練システムについては、その長所を維持しつつ、海運業界が求める技術力の優れた人材の養成に向け、改革を行っていくことが強く求められている。したがって、海運事業者の船舶(社船)を用いた乗船実習の導入、帆船実習の義務付けの廃止、実習船舶の構成や実習内容等について見直しを行い、積極的に改革を進めていくことが必要である。また、適職を求めて転職を考える人々に対し、船員という職業への門戸を広く開放する観点からは、船員教育訓練システムについて、誰もが自由にチャレンジできるものに再構築するとともに、それを積極的にPRしていくことが必要である。
(具体的施策の例)
○ 社船実習の拡大による教育訓練の複線化推進
○ 帆船実習の見直し(遠洋航海の義務づけの廃止、実習時期・期間の見直し)
○ 一般大学、高校等卒業者の海技資格取得を可能にするシステム(現行:新3級、新6級)のさらなる拡充
○ 内航船員養成に重点を置いた航海訓練所船隊構成の改革
○ 船員教育機関や航海訓練所の運営の合理化、効率化
○ 船員教育機関と航海訓練所の連携強化、海運事業者と船員教育機関・航海訓練所の連携強化
(3)船員のキャリアアップを図る
団塊の世代の退職を受け、あらゆる産業が若年人材の確保に努力している状況下において、若者にとっての船員の魅力を増大させるためには、船員になった若者が経験を積む中でキャリアアップを図ることを可能とし、職業としての船員の魅力を高めることが必要である。このため
は、上級資格の早期取得や、船長・機関長への早期昇進、内外航の垣根を越えた転職、小型船から大型船への転船等のキャリアアップが容易になるような環境整備を図ることが必要であ。
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また、(1)で述べた内航海運事業者等のグループ化は、海運事業者の経営基盤の安定化や安全運航の確保等に資するだけでなく、充実した体制の下での教育・訓練を通じた高度な技能の獲得により、船員のキャリアアップを図る上でも有効な手法であり、その推進を図る必要がある。
(具体的施策の例)
○ 上級資格の取得の容易化、錆び付いた技能の復活、新技術や乗り組む船の特性を踏まえたシミュレータによる操船訓練等スキルアップに資するための、広く一般の船員が利用可能な研修・講座等の開設・拡充
○ 内航海運事業者等のグループ化を活用し、船員が研修・講座を受講する機会を増大させる等船員のキャリアアップ支援体制の構築
○ 外航日本人船員(海技者)確保・育成スキームを活用した船員の確保・育成の推進
(4)陸上海技者への転身を支援する
船員を取り巻く環境の変化により、海上のみならず、陸上においても、船員の持つ高度な船舶運航技術や豊富な海上実務経験が必要となる業務が数多く生まれてきている。
このような業務は、船舶管理・監督者(SI)や水先人、造船所のドックマスター、石油基地のバースマスター等直接的に海や船に関わる職業のほか、保険業・金融業や企業経営等の幅広い部門に見受けられる。また、船員教育訓練機関における教官、海技試験官、海難審判官等の公的な海事関連分野にも幅広くニーズが存在し、現に多数の船員経験者が「陸上海技者」としてこれらの業務に従事している。最近は、海運業等の新しいビジネスモデル構築の試みを通じ、そのフロンティアがますます拡大している状況にある。
これら陸上海技者への転身は、若者や船員が一生の仕事・ライフサイクルを考えるに当たって無視することのできない重要なステージである。
しかしながら、陸上海技者の業務のうち、水先人以外の民間業務については、資格制度やキャリアアップのための仕組みが未だ整備されておらず、内外航を通じ、船舶管理部門等の重要性が増す中で、陸上海技者の社会的地位や育成システムが明確にされていない業務がほとんどとなっている。
この問題を解決することは、船員のキャリアアップへの意欲を増大させるだけでなく、「船員」という職業自体の魅力の増大にもつながり、ひいては船員志望者の増加にもつながる重要な課題である。
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このため、陸上海技者に係る(民間)資格制度の創設を軸に、船員としての経験を活かしてさらなる活躍が期待できる新分野(新しいキャリアパスモデル/ビジネスモデル)を明確化する等の施策の充実を図り、船員の陸上海技者への転身を強力に支援し、海事産業の職業的魅力を復活させることが必要である。
(具体的施策の例)
○ 船舶管理・監督者(SI)等、陸上海技者の行う民間業務に関する新たな(民間)資格制度
創設
○ 業界との連携による陸上海技者の位置づけと業務内容の明確化
○ 船舶管理会社の陸上支援部門等陸上海技者が活躍する場の拡大
○ 陸上海技者への転身に当たっての参考情報の充実の観点からの国土交通省における陸上海技者の採用情報等の積極的開示
○ より高度な海事に関する知識・技能を教授する観点から、海事専門職大学院を含む海事関連大学院の設置についての船員教育訓練機関等の関係者による検討
第3章 海事地域の振興
海運、造船をはじめとする我が国の海事産業は、水運の発達度や産業の立地経緯等から特定の地域(以下「海事地域」という。)に集積している。最近、海事地域における海運業、造船業等の海事産業は全体として好調に推移しているが、海事地域全体についてみれば、若年人口の減少や高齢化の進行、低い財政力等によりその活力が停滞ないし後退しつつあり、地域の海事産業においても後継者難や海外移転等により先細りの懸念が生じている。
このような状況を放置しておくと、海事地域の中長期的な活力の低下が避けられず、我が国全体の海事産業の衰退や船員をはじめとする海事分野における人材の確保にも支障を来すおそれが強い。
これらの問題を解決するためには、海事地域が、地域に集積された海事産業・文化の活性化に総合的に取り組み、青少年の海への関心の高まりを通じた海事関係の人材確保や特色ある海事地域の形成を実現することが重要である。
特に、基礎的な自治体である海事地域の市町村が核となり、地域におけるさまざまな関
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係者が連携して地域の特性を活かした「海のまちづくり」を進めることは、海事地域の振興を実現するための重要な観点である。
例えば、海事地域の一つである愛媛県今治市は、次世代の人材育成、海事クラスターの構築、海事文化の振興と交流の促進という観点から、「海のまちづくり」を推進しており、地域住民に対する海事広報活動の実施、人材育成に係る地元教育機関との連携、小中学生を対象とした出前海事教室等の取組みを行っている。その他の地域においても、海事クラスターの構築等に向けた取組みが行われている。
海洋国家である我が国の国際競争力を強化していくためには、今後、海事地域の多くの市町村がこうした取組みを積極的に行い、青少年が海や船に親しむ機会の形成、学校教育と連携した海事教育の推進、海運・造船等に係る人材の教育・訓練環境の整備を進めていくことが望ましい。
また、このような事業を実施しやすくする環境を整備していくためには、国、船員教育訓練機関、地域の海事関係者等が海事地域の市町村に協力しながら「海のまちづくり」を推進するための枠組みを構築する必要がある。
第4章 施策の推進のための体制と制度等の整備
船員(海技者)の確保・育成は、第一義的には海運事業者が船員を安定的に採用し、社内で育成していくことにより達成されるべきものであり、今後、前述した船員(海技者)の確保・育成に関する考え方及び具体的施策を踏まえた取組みを行う必要がある。
また、国、業界団体、各種海事関連団体、船員教育訓練機関等は、海運事業者による自主的な取組みを支援し、船員(海技者)の確保・育成やキャリアアップが可能となるような環境の整備を図ることが必要である。
特に、国においては、船員(海技者)の円滑な確保・育成を図るための枠組みの形成、様々なニーズに対応した規制の緩和(船員の資格取得や船員職業紹介に係る制度の見直しや運用の改善等)、陸上海技者に係る(民間)資格制度の導入等船員(海技者)に関する制度改革について速やかに検討を進める必要がある。また、経済的合理性に基づく企業行動のみでは解決しえない分野において船員の確保・育成に向けた諸活動を円滑に推進するため、行財政上の措置の導入・拡充について検討することが必要である。
一方、海の魅力のPRという観点から、幅広い海事関係者が連携し、海事産業全体にお
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ける人材の確保・育成に関する基本戦略を確立して、中央・地方の各層において海事広報活動に戦略的に取組む必要がある。
併せて、海事地域の振興という観点から、海事地域において市町村や中小零細事業者が行う事業に係る支援のあり方についても、必要な仕組みの構築を図る必要がある。
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おわりに
人材育成は、一朝一夕にはなし得ない。長期的な視野のもと、取り組まねばならない課題である。
海洋国家である我が国が、今後とも海の恵みを享受し、海運の安定性・安全性・信頼性を確保していくためには、優秀な日本人船員(海技者)をはじめとする海事産業を支える人材の確・
育成は極めて重要な国家的な課題である。
この国家的な課題に対応していくためには、産学官及び地域の海に関する関係者において、今回盛り込まれた諸施策を着実に実施することが必要である。
また、システムとして持続可能となるよう施策効果の検証・評価を行い、不断に施策の見直し・改善を図るため、個々の施策を実施するに当たっては、可能な限り、目標を設定し、その達成度を管理することも重要である。
今回の報告は、船員(海技者)の確保・育成の観点から、取るべき施策に関する基本的な考え方を明らかにするとともに、問題の緊急性を考慮し、早急に取り組むべき具体的な施策についてとりまとめたものであるが、これらが海に関する人材育成に関わる全ての関係者にとって参考となることを願う次第である。
国土交通省は、本中間とりまとめを踏まえ、速やかに必要な制度改正や予算要求について検討するべきである。
船員をはじめとする海事分野における人材の確保・育成のための方策については、これまでの審議において、おおむね基本的方向を示すことができた。しかし、そのための具体的戦略については、未だ十分な審議が行われてはいない。したがって、本部会では、今後、船員をはじめとする海事分野における人材の確保・育成等に関する具体的な方策のあり方等について、引き続き検討していくことが適当である。
【以上】
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別紙
交通政策審議会海事分科会ヒューマンインフラ部会委員名簿
(敬称略、五十音順)
委員
部会長 杉山 雅洋 早稲田大学商学学術院教授
山村 レイコ 国際ラリーライダー
臨時委員
赤塚 宏一 神戸大学監事
今津 隼馬 東京海洋大学理事
大日向 正文 (株)旭硝子株式会社執行役員
越智 忍 今治市長
栢原 信郎 国際船員労務協会会長
來生 新 横浜国立大学副学長
鈴木 邦雄 (社)日本船主協会会長
深澤 旬子 (株)パソナ取締役専務執行役員
藤澤 洋二 全日本海員組合組合長
真木 克朗 日本内航海運組合総連合会会長
松尾 正洋 日本放送協会解説委員
宮下 國生 大阪産業大学経営学部教授
村木 文郎 (社)日本旅客船協会会長
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