船員(海技者)の確保・育成に関する検討会報告

船員(海技者)の確保・育成に関する検討会,『船員(海技者)の確保・育成に関する検討会報告』,2012年3月

目 次

Ⅰ はじめに                                                                                  1

Ⅱ 船員養成をめぐる現状
1.外航船員                                                                                3
2.内航船員                                                                                4
3.独立行政法人の事務・事業の見直し                                             5

Ⅲ 対応の方向性
1.基本的な考え方                                                                       6
2.必要な方策                                                                             6

Ⅳ 具体的方策
1.優秀な船員志望者を船員教育機関や海運事業者に集めるための取組    7
2.外航海運・内航海運のニーズに応じた教育訓練システム等の見直し    8
(1)効率的かつ効果的な乗船実習のための見直し                               8
(2)船員教育機関における教育内容等の見直し                               13
(3)船員教育機関以外の新たな供給源からの人材の確保                   16
3.船員養成に関わるステークホルダー間の連携の強化                      19

以下、本文(管理人専用)


Ⅰ はじめに
四面を海に囲まれた我が国においては、輸出入貨物の 99.7%、国内貨物輸送の 32.0%を海運が担っており、海運は国民生活・経済を支える上で大きな役割を果たしている。また、昨年3月の東日本大震災において、海上輸送が燃料や救援物資の大量輸送に重要な役割を果たしたこと、一部の外国船舶において日本への寄港がなされなかったことからも、海運の経済安全保障における重要性は一層高まっている。海運は、船舶の運航に従事する船員及び陸上でこれを管理・支援する海技者1)により支えられており、海運の安定輸送確保の観点からは、船員海技者)の確保・育成は、海洋基本法にも位置付けられているとおり、「海洋国家」である我が国にとって極めて重要な課題である。
以上のような認識から、海運関係者は、これまでも、船員確保・育成のための様々な取組を進めてきた。しかし、近年、以下のように船員教育訓練を取り巻く情勢は大きく変化している。

○外航、内航における船員供給源の多様化の進展
○海運業界が船員教育に求めるニーズ(船員の資質・即戦力の強化)の変化
○外航海運事業者の自社船舶による乗船訓練の導入
○独立行政法人(2)たる航海訓練所及び海技教育機構の事務・事業の見直しの要請本検討会は、こうした情勢の変化を踏まえ、社会ニーズに応えうる優秀な船員の効率的・効果的な養成のあり方について、全てのステークホルダー(航海訓練所、船員教育機関 15校(海技教育機構8校、商船系大学2校、商船系高等専門学校(以下「商船系高専」という。)5校)、海運事業者、関係団体、国等)が真に連携を図ることをキーワードとしつつ、限りあるリソースの活用で最大限の効果を上げるべく総合的に検討し、今般、その結果をとりまとめたものである。


1 船員としての知識・経験を有し、それを活かして海事関連業務に従事する者(船員を含む。)をいう。
2 国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として設立される法人。

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<検討会の開催状況>
検討会では、各5回の外航部会、内航部会において外航海運業界、内航海運業界ごとに詳細な検討を行うとともに、3回の全体会議において全般的検討を重ねた。

○第1回検討会(全体会議) 平成 23 年5月 18 日
本検討会における議論の方向性及び今後の進め方について審議、決定

○第1回外航部会、第1回内航部会 平成 23 年6月 13 日

○第2回外航部会、第2回内航部会 平成 23 年7月8日
外航、内航それぞれの分野において、以後の検討における論点を整理

○第2回検討会(全体会議) 平成 23 年8月5日
外航船員及び内航船員の確保・育成のあり方に関する論点整理及び議論の方向性をとりまとめ

○第3回外航部会、第3回内航部会 平成 23 年 10 月 11 日

○第4回外航部会、第4回内航部会 平成 23 年 12 月5日

○第5回外航部会、第5回内航部会 平成 24 年3月2日
上記の論点整理及び議論の方向性に基づき、各論点について審議

○第3回検討会(全体会議) 平成 24 年3月 19 日
「船員(海技者)の確保・育成に関する検討会報告」について審議、とりまとめ
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Ⅱ 船員養成をめぐる現状

1.外航船員

(1)日本人船員の確保に向けた取組
外航日本人船員は、最も多かった昭和 49年の約5万7千人から平成 22年には約 2,300
人へと極端に減少しており、海上輸送に多くを依存している我が国にとって、非常時における海上輸送の確保等の面から問題がある。平成 19 年 12 月の交通政策審議会海事分科会国際海上輸送部会答申によれば、安定的な海上輸送を確保するための外航日本人船員の必要規模について、約 5,500 人と試算されている。一方、現状規模を踏まえれば、これを短期間で達成することは困難なことから、国は各種施策により、外航日本人船員の数を平成 20 年度からの 10 年間で 1.5 倍に増加させるための取組を促しており、外航海運業界は、業界の総意として、外航日本人船員(海技者)を今後 10 年間で 1.5 倍程度にするという目標を掲げている。こうした取組の推進のためにも、外航海運業界が求める資質を持った人材の十分な供給が重要な課題となっている。

(2)外航海運事業者が新人船員に求める資質・技能等
外航海運事業者は新人船員に対して、
①船員の資質として、船舶の機関及び操船に関する基礎的な知識・技能並びに船内業務及び船内生活への適応力・耐えうる精神力
②海技者の資質として、海運会社の将来(経営)を自分が担う気持ち、基本的なコミュニケーション能力、基礎的な英語力、探求心、積極性、提案力、陸上勤務・外地駐在への意欲を求めている。

(3)幅広い供給源から優秀な人材を模索
外航海運業界は商船系大学・高等専門学校(以下「商船系大学・高専」という。)に対して、運航技術の基礎知識・能力水準の維持の徹底、資質の向上を求めているとともに、一部の外航海運事業者は船員教育機関のみならず、一般大学卒業者も採用対象に入れて優秀な人材を幅広く模索し、一般大学卒業者への船員の道の維持・拡大を期待している。

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2.内航船員

(1)中長期的な船員不足への対応
内航海運は、中長期的な船員不足が危惧されている。その規模は、現状レベルの採用や退職状況等が続くものとして試算すると、平成 27 年で約 800~2,200 人、平成 32 年で約 2,100~5,100 人と予測されており、これまでのように、高年齢層の船員の活用により不足分を補えるのか等の問題がある。こうした状況の下で、内航海運業界が求める資質を持った人材を十分に確保していくために、新人船員の確保・育成を基本に据えつつ、新人船員にとって魅力があり、高齢船員にも働きやすい職場環境の整備が求められている。
(2)新人船員に求める能力・資質
内航海運事業者は、新人船員に対して、
①内航船を単独で安全に運航する知識・能力
②責任感、判断力、積極性、協調性、安全意識
を求めている。
しかし、内航海運業界内においても事業者の立場により、船員教育訓練に対し重点的に求める点が異なっている。すなわち、自社内で OJT 等の訓練を行うことができる大手内航海運事業者は基礎に重点を置いた船員教育訓練を求めているのに対して、業界の多くを占める中小内航海運事業者は運航コストの制約、小型船舶での少人数による運航という事情から、即戦力として内航船を単独で安全に運航する知識・能力を要望している。
なお、旅客船事業者は職員教育のレベルアップを求めているとともに、部員確保も重視している。

(3)新人船員の供給の多様化
内航新人船員の供給源のうち、内航船舶職員(四級海技士)を養成目的とする海上技術学校及び海上技術短期大学校(以下「海上技術学校・短大」という。)が供給全体の約5割を占めているものの、水産系高等学校(以下「水産系高校」という。)はそれに次ぐ約3割を占め、また、平成 19 年度に創設された新6級制度3)による養成を行う海技大学校や民間教育機関も合計で約1割を占めている。
このほか、主として外航船舶職員(三級海技士)を輩出している大学(商船系、水産系、私立)や商船系高専からも、カーフェリー、RO-RO 船等へ内航新人船員が供給され


3 一般高校等の卒業者が内航船舶の当直担当者に必要な六級海技士(航海)資格を取得するコース。
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ており、その数は供給全体の1割程度となっている。
今後の船員不足を考えると、こうした多様な供給ルートを前提とした養成システムの構築が求められている。
3.独立行政法人の事務・事業の見直し

独立行政法人である航海訓練所及び海技教育機構は、その元をたどれば、航海訓練所、海技大学校、海員学校という国の組織であったが、平成 13 年度に中央省庁等改革の一環として独立行政法人制度が導入されたことに伴い、それぞれが独立行政法人へと移行した。その後も、より効率的な運営を推進するための更なる変革が求められ、海技大学校及び海員学校については、平成 18 年度に統合し、海技教育機構として今日に至っている。
このような中、航海訓練所及び海技教育機構は、我が国の船員教育訓練システムを維持するために多大な努力を重ねており、効率的な運営や自己収入の拡大に努めてきたところである。
しかしながら、独立行政法人を取り巻く環境はより一層厳しさを増しており、昨今においては、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成 22 年 12 月 7 日閣議決定)及び「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成 24 年 1 月 20 日閣議決定)において、船員養成の効率的・効果的実施に向けて海運業界と船員教育・訓練機関それぞれの間において連携を強化すること、独立行政法人の効率的な運営の観点から自己収入や受益者負担を拡大することについて、独立行政法人改革の一環としての更なる取組が求められている。
このため、こうした情勢の中でも、海洋国家日本にとって欠くことのできない優秀な船員をどのようにして安定的・持続的に一定数確保・育成していくか、その新たな仕組み作りが求められている。
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Ⅲ 対応の方向性
1.基本的な考え方

(1)船員の教育訓練システムの改革
海事分野における人材確保・育成のための政策については、平成 19 年 12 月の交通政策審議会海事分科会ヒューマンインフラ部会答申や同国際海上輸送部会答申で示された方向に沿って、総合的な取組を進めてきているところであり、これを今後とも推進する必要がある。
一方で、Ⅱで述べたように、現在、船員養成を取り巻く状況をみると、海運事業者が船員に求める資質・技能の面でも、新人船員の供給源の面でも対応すべき課題に直面しており、このため、これにあわせ、船員の教育訓練システムの改革を進めていく必要がある。
こうした取組は、特に、両答申に基づいて国が現在進めている外航海運における日本船舶・日本人船員の確保や、内航海運における将来的な船員不足への対応等の課題に対処するためにも、早急に進めていく必要がある。

(2)ステークホルダー間の連携
船員の教育訓練については、従来より、船員教育機関における座学教育と航海訓練所における航海実習等を組み合わせる形で、国が責任を持って船員を養成してきているところである。
しかし、一方で、海運を取り巻く社会経済状況は、ここ数年で一層厳しさを増しており、また、国の財政問題に起因した予算制約の問題も予断を許さない状況にある。
船員教育訓練については、国の船員政策当局、学校教育政策当局、船員教育・訓練機関である学校等、海運事業者、関係団体等様々なステークホルダーが関わっているが、このように厳しさを増す状況の下で、質の高い船員を確保するために教育訓練システムを持続的に機能させていくためには、これまでにも増して、ステークホルダーが連携し取組を進めていくことが必須となっている。

2.必要な方策
以上のような基本的な考え方の下に、優秀な船員を確保・育成するために必要な方策は、以下のように整理される。
1.優秀な船員志望者を船員教育機関や海運事業者に集めるための取組
2.外航海運・内航海運のニーズに応じた教育訓練システム等の見直し
(1)効率的かつ効果的な乗船実習のための見直し
(2)船員教育機関における教育内容等の見直し
(3)船員教育機関以外の新たな供給源からの人材の確保
3.船員養成に関わるステークホルダー間の連携の強化

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Ⅳ 具体的方策

1.優秀な船員志望者を船員教育機関や海運事業者に集めるための取組

近年の外航日本人船員の減少、内航船員の著しい高齢化や将来の船員不足に対処するためには、船員教育の充実・強化や海運業界による安定的な採用はもとより、海事広報による海の魅力の PR、船員の職業としての魅力を向上させるための取組などを通して、船員をめざす若者の裾野を拡大することが必要である。
(ア)海事広報の充実
海事広報については、従来より、国民の祝日である「海の日」に関する取組を中心に、海事関係者による様々な活動が行われてきたが、各海事関係者が個別にイベント等を開催し、情報共有や協力がなされていない点や、国民が海事産業や海事関係施設に興味を持った際にどこに相談すればよいか分からないといった点など、必ずしも十分な効果を上げていないとの指摘もある。
こうした現状の問題点を解決し、海や職業としての海事産業の魅力を高め、船員志望者の裾野を拡大していくためには、海事関係者が一丸となった海事広報の推進と、教育現場へのアプローチが重要となる。
海事関係者が一丸となり効果的な海事広報を推進するため、海事関係者間の連携の下、国において、イベント情報等を集約し、また窓口として相談を受けることが可能となる体制整備を行い、効果的な海事関係イベントの推進や、積極的な情報発信、相談受付を行うこととする。
また、教育現場へのアプローチとしては、学校教育で海事産業を取り上げてもらうため、小学校の社会科の教科書を補完する副教材の作成・配付、海事施設の見学の機会の提供、学校における職業教育と連携した出前講座の実施などについて、国が中心となり、優秀な若者が海事関係の進路を選択するように学校教育と船員教育機関、海事産業界がタイアップして取り組むための調整等、積極的な働きかけを行うこととする。
(イ)労働環境の向上
若者が安心して海事関係の職場を選択できるようにするためには、船員の労働条件や労働環境の更なる向上を図り、その職業的魅力を一層増大させる必要がある。これに関連して、船員の労働条件に関するグローバルスタンダードを定める「2006 年の海上の労働に関する条約」の発効に先立ち、今通常国会に提出している船員法改正を始め、同条約の国内法化を着実に進めていく必要がある。

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また、特に職場環境が厳しい内航の一部の船種では、新人船員が集まらず、厳しい船員不足が生じている状況にある。こうした分野に新人船員を呼び込んでいくため、現在、一部の事業者において、就業後のキャリアパスの中で船員として様々な船舶に乗船し、多様な経験を積めるような、個々の企業を越えた横断的な仕組みが検討されており、今後、その進展が期待される。

(ウ)内航船員に係る技能評価システム
内航船員の養成に関しては、船員にステータスを与え、プライドを持てるようにするため、船舶管理監督者(SI)(4)に至るキャリアアップごとに検定を行い技能を評価するシステムの創設等についても提案があったところであるが、内航海運業界における共通理解が十分ではないことから、構想の具体化を待って、その対応についてステークホルダー間で検討することが必要である。
2.外航海運・内航海運のニーズに応じた教育訓練システム等の見直し
(1)効率的かつ効果的な乗船実習のための見直し

<外航>
(ア)社船実習の拡充に向けた乗船実習の実施要件の見直し
乗船実習については、平成 21 年度から商船系大学・高専の学生に対して社船実習(航海訓練所練習船ではなく、海運事業者の自社船による乗船実習)が導入され、三級海技士資格の取得に必要な 12 か月の乗船実習のうち、後半6か月の乗船実習は社船で実施することが可能となった。
そのため、航海訓練所練習船、社船それぞれが持つ長所を組み合わせることにより、12か月の乗船実習をより効率的かつ効果的なものとすることができると考えられる。
具体的に、航海訓練所練習船による実習の長所として、
○多人数に対する計画的・均質的な訓練が実施できる
○基礎的な訓練を繰り返し実施できる
○シミュレータ等の大型機材を始めとする実習機材が多数装備されている
○訓練の目的に合わせて運航を計画できるなどがあり、社船実習の長所として、
○荷役実習等の実践的な訓練が実施できる


4 Superintendent:船舶管理業務全般を取り仕切る管理担当者。
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○少人数による個別的指導ができる
○プロ意識を早期に醸成できる
○外国人船員との共同生活による英語力の向上、異文化の把握が期待できる
などが挙げられ、航海訓練所練習船による基礎的な訓練と社船による実践的な訓練の組み合わせは、相互補完的な実習効果を期待できるものである。
したがって、効率的かつ効果的な乗船実習の実現を図る観点から、社船実習を拡大していくことが適当であり、現下の厳しい財政事情等も踏まえると、社船実習の担う役割は、今後増していくものと考えられる。
一方、社船実習が導入されてからほぼ3年が経過しようとしているが、現行の社船実習の実施要件を満足できるのは大手外航海運事業者のみであり、中手外航海運事業者にとっては要件が厳しく、社船実習を実施する外航海運事業者が増加しない現状にある。また、既に実施している大手外航海運事業者においても、実施が義務付けられている遠洋航海の要件や教員要件の制約もあり、実施人数がほぼ内定者の数で頭打ちとなっている。
このような状況に鑑み、訓練の質を低下させないことを前提として、次のとおり社船実習の実施要件を見直すこととし、社船実習の拡充に向けて環境を整備することとする。
○遠洋航海に係る要件の見直し
現行は、日本の港から出港することを想定し、遠洋航海の実施海域を遠洋区域と規定しているところであるが、外国の港を起点とする社船実習も行われるようになっており、近海区域における実習であっても一定の条件を付すことで遠洋区域での実習と同等の効果を発揮させることが可能であると考えられることから、実習の実施海域を遠洋航海を開始する港を起点とした半径 2,000 マイル以上の海域とする。

○教員に係る要件の見直し
現行は、教員の要件として、一級海技士資格を保有する船長・機関長を必ず配置することを求めているが、これを同海技資格を保有する一等航海士・機関士クラスまで幅を広げることとする。
これらの見直しにより、かねてからの外航海運事業者の要望であった近海区域におけるインドネシアの LNG 航路を遠洋航海として取り扱うことについても、社船実習の中ではそれを可能とすることができ、また、日本の海技資格を保有していない船長が配乗されている社船においても、一級海技士資格を保有する一等航海士・機関士クラスが教員となれば社船実習を実施することが可能となることから、大手外航海運事業者の社船実

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習の拡大、中手外航海運事業者の新たな参画により、社船実習を経験できる学生の数の増加が期待できる。

(イ)商船系大学・高専の乗船実習の規模・実施時期
航海訓練所は、海技資格の取得に必要となる能力及び乗船履歴を付与するため、業務運営の効率化を図りつつ、公平・中立な立場で各船員教育機関からの学生を受け入れ、乗船実習を実施しており、海技資格を取得し船員になることを志望していない学生に対しても、各船員教育機関のスキームに応じ、あまねく乗船実習を実施している状況にある。
航海訓練所での初期段階における乗船実習は、海技資格の取得に必要となる基礎的な能力等を付与するだけでなく、海や船を知らない学生に対して、船員になることを動機付けさせる有効な手段であるが、練習船のキャパシティに制約がある中、乗船実習をさらに効率的かつ効果的なものとするためには、船員教育機関と連携して、実習時期・期間などの乗船実習のスキームを見直すことが必要である。
見直しに当たっては、乗船実習を受けた者が確実に船員として活躍することをめざして、次のとおり、学生本人の意思を尊重できるスキームにすることが適当であり、船員教育機関及び航海訓練所はその実現に向けて検討を進めるものとする。
○東京海洋大学
第2学年において実施する乗船実習(現行では海事システム工学科及び海洋電子機械工学科の学生には必修となっている。)について、本人の意思として「身体的な理由などにより乗船実習に適性がない」などとする学生がいた場合には、例外的に乗船実習に参加しなくとも代替科目の履修により必要単位の履修が可能となるよう対策を講じる。
また、第4学年の乗船実習(海事システム工学科航海システムコースの学生にとっては必修となっている。)についても、本人の意思として「身体的な理由などにより乗船実習に適性がない」などとする学生がいた場合には、例外的に乗船実習に参加しなくとも卒業できるよう、カリキュラムや関係規則を変更する。

○神戸大学
現行では、第2学年において海技資格を取得できる学科への進路を選択することとしているため、第1学年の乗船実習においては、海事科学部の学生全員が乗船実習に参加するスキームとなっている。
今後は、第1学年時では乗船実習を行わず、第2学年から乗船実習を実施することとし、海技資格を取得できる学科への進路選択後に行うこととする。第2学年の乗船実習後には、同学科内に更に海技資格取得コースを設置し、第3学年からは、同コースを選択
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した海技資格の取得を希望する者のみが乗船実習に参加するスキームとする。
○商船系高専
現行の第5学年から第6学年にかけての 12 か月連続した乗船実習を改め、第1学年から第3学年の間で1か月の乗船実習を行い、その後、第4学年、第6学年において、それぞれ5か月、6か月の乗船実習を行うスキームとする。
また、進路変更を希望する学生のために転学科の機会を増やすとともに、本人の意思として「身体的な理由などにより乗船実習に適性がない」などとする学生がいた場合には、例外的に乗船実習の代替措置を講ずることを検討する。

(ウ)タービン船実習
○社船によるタービン船実習
航海訓練所練習船「大成丸」は既に船齢 30 年を超えており、平成 23 年度に建造に着手した内航用練習船の竣工後(平成 26 年度)には、用途廃止される予定であることから、今後は航海訓練所においてこれまで実施してきたタービン船実習が実施できないこととなる。
タービン船実習の代替措置については、「タービン代替訓練技術検討委員会報告」(平成 21 年 4 月)において、技術的観点からの報告がなされているが、新たなシミュレータ等の設置が必要となることから実現は難しい。このため、蒸気タービンを推進機関とする船舶は LNG船に限られるという現状に鑑み、LNG船を運航する外航海運事業者自らがタービン船実習を実施することが適当である。

○三級海技士(機関)資格に係る試験制度の見直し
大成丸の用途廃止後、船員教育機関の養成課程を修了したとしても、タービン船実習を行っていない者は、内燃機関限定の三級海技士(機関)資格を取得することとなる。このため、従来取得できていた限定のない三級海技士(機関)資格を必要とする者に対しては、養成課程修了後に内燃機関限定を解除するための筆記試験を新たに設定し、当該試験に合格することで、限定のない三級海技士(機関)資格の取得が可能となるよう、海技試験制度を整備することとする。

<内航>
(ア)社船実習の実施
外航海運業界では、平成 21 年度から商船系大学・高専の学生に対し社船実習が導入されており、実施している外航海運事業者からは、
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○荷役実習等の実践的な訓練が実施できる
○少人数による個別的指導ができる
○プロ意識を早期に醸成できる
などの長所が指摘されている。これらは、航海訓練所練習船による実習では十分に対応しきれない部分を補完するものであり、航海訓練所練習船、社船それぞれが持つ長所を組み合わせた実習にすることで、乗船実習をより効率的かつ効果的なものとすることが可能であると考えられる。
したがって、内航船員養成についても、航海訓練所練習船による基礎実習を実施した後、社船を用いた実践的な実習を付加することが適当と考えられ、次のとおり社船実習を導入することとする。
○四級海技士養成のための社船実習の導入
四級海技士養成のために、現在航海訓練所で実施している海上技術学校・短大の生徒・学生に対する9か月の乗船実習のうち、後期3か月に内航貨物船等による社船実習を導入することについて、内航海運事業者の数社から賛同を得ていることから、平成 25年度に開始することをめざす。
○三級海技士養成のための新たな社船実習の導入
三級海技士養成のために、現在航海訓練所で実施している商船系大学・高専の学生(外航海運事業者による社船実習対象者を除く。)に対する 12 か月の乗船実習のうち、後期3か月に長距離フェリー等による社船実習を導入することについて、日本長距離フェリー協会からの賛同を得ていることから、平成 26 年度に開始することをめざす。
<外内航共通>
(ア)学内練習船の活用
限りあるリソースを活用しつつ、乗船実習を効率的かつ効果的に実施するためには、各船員教育機関が保有する学内練習船の活用も考えられるが、いずれの船員教育機関においても現状では学内練習船による実習期間が1か月未満であること、乗船履歴1か月相当の学内練習船による実習を航海訓練所の練習船実習が始まる前までに実施することが困難であること、各船員教育機関での実習内容にばらつきがあることなどから、現状においては学内練習船による実習を乗船履歴として認めることは困難である。
しかしながら、将来的には学内練習船による実習が乗船履歴として認められるよう、航海訓練所練習船のカリキュラムとより連携させるなど、学内練習船の効果的な活用を進めていくことが望まれる。
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(イ)航海訓練所における様々な乗船実習の配乗バランス
航海訓練所は、共同利用機関として各船員教育機関からの学生等を受け入れるとともに、ODA 実習(5)や外航海運事業者ニーズに応じた外国人実習に対しても訓練を提供しているが、現在の配乗では練習船に余席がほとんど生じていないことから、ある種類の実習生が増加すると(配乗バランスが変わると)、他の乗船実習にも影響を与えてしまう状況にある。
しかしながら、今後は、商船系大学・高専の乗船実習の見直し、現行の外航海運事業者による社船実習の拡大、内航海運事業者による新たな社船実習の導入により、練習船に幾分かの余席が生じるものと考えられる。
その際、これまで十分に対応しきれていなかった海運業界ニーズに応ずることが可能となるが、航海訓練所の運営経費の大部分が国費によって賄われている現状に鑑みれば、第一義的に、生じた余席をより多くの日本人船員の養成のために活用することが適当である。
このため、具体的には、内航船員不足に備えての四級海技士の養成の拡充や新3級制度(6)の枠の拡大を優先することとし、その後で残存している余席については、外国人学生の訓練を受け入れるなど効果的な活用に努めることとする。
(2)船員教育機関における教育内容等の見直し

<外航>
(ア)英語力・コミュニケーション能力等の向上をめざした教育内容等の見直し
我が国の外航商船隊に乗り組む船員のうち、9割以上を外国人船員が占めており、日本人船員の配乗が外国人船員との混乗となることから、日本人船員は、運航技術者であるだけでなく、船内において幹部職員として外国人船員を指揮監督する役割も担っている。そのため、昨今の新人船員には、運航技術はもとよりそれ以外の多様な能力が求められており、外航海運業界は船員教育機関に対して、次に示すとおり、英語力やコミュニケーション能力の向上、国際条約により求められている訓練の実施などを求めている。
○外国人と意思疎通できる英語力の習得(最低でも TOEIC 500 点相当以上)
○職務上の上下関係がある中でのコミュニケーション能力の習得
○STCW 条約(7)で新たに求められている ECDIS(8)や BRM(9)等の訓練


5 政府開発援助(ODA)を利用して、開発途上国の船員教育機関の学生を日本に受け入れての訓練。
6 外航海運事業者に雇用されている者(内定者を含む)であって、一般大学等の卒業者が外航船舶の船舶職員に必要な三級海技士資格を取得するコース。
7 The International Convention on Standards of Training, Certification and Watchkeeping for Seafarers:船員の訓練及び資格証明並びに当直の基準に関する国際条約
8 Electronic Chart Display and Information System:電子海図表示情報装置
9 Bridge Resource Management:船橋におけるチームワーク、情報等の活用管理

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○無線業務や衛生管理業務に係る資格の取得
○練習船において実機に触れる機会を増やすことによる現場感覚の涵養
○専門科目だけでなく、経営学など実務に当たっての基礎となる一般教養科目も含めた講義内容の習得
これに対して船員教育機関は、
○英語カリキュラムの改訂による英語教育の見直し
○英会話テキストを開発・活用しての学内練習船実習への英語訓練の導入
○専門教育カリキュラムの充実
○ECDIS 訓練の導入の検討、BRM 訓練の試行的実施
○キャリアガイダンス教材の開発・活用による職業意識の醸成
などの取組を推進することとしている。
また、日本人船員は将来的に外国人船員の労務管理等の業務に携わることとなることを踏まえると、英語力のみならず、外国文化や生活習慣等についても理解しておくことが求められる。それらを学ぶ動機付けを与える一つの手段として、外国の船員教育機関との交流が有効であると考えられることから、本検討会において提案がなされた MAAP(10)と商船系高専との交換留学制度の創設について検討を進めることが適当である。これらの取組を着実に実施するためには、船員教育機関だけで対応するには自ずと限界があることから、船員教育をより効果的なものへと改善するため、今後、本検討会をフォローアップする機会等を設けて、船員教育機関と外航海運事業者とが積極的にコミュニーケーションを図り、外航海運業界のニーズの反映や業界が為し得る協力など、教育改善の詳細等について具体的な検討を行うことが必要である。
<内航>
(ア)航機両用教育の必要性
海上技術学校・短大における教育について、これまでの航機両用教育から航機いずれかに特化した片方教育の実施、四級海技士養成から三級海技士養成への教育レベルの見直しなど、内航海運業界から様々な意見が寄せられており、その検討にあたっては、卒業者や内航海運事業者に対してアンケート調査を実施するなど客観的データも入手して議論を重ねた。


10 The Maritime Academy of Asia and the Pacific:アジア太平洋海事大学(フィリピン)
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海上技術学校・短大の卒業者に対して実施したアンケート調査の結果、卒業者のうち9割弱は、航機両方の資格が必要であるとの回答であった。ただし、7割強が航、機いずれかの職しかこれまで経験していないという実態も明らかになった。
一方、内航海運事業者に対するアンケート調査の結果では、6割程度の内航海運事業者が現状の教育に何らかの見直しが必要との回答であったが、大手内航海運事業者と中小内航海運事業者とでは意見が異なっており、大手内航海運事業者は片方教育による深度化、中小内航海運事業者は両用教育の継続などを求めており、内航海運業界として意見を一つに集約することは困難な状況である。
また、仮に、航、機いずれか片方の教育に移行する場合には、海上技術学校・短大においてクラスを航、機に分ける必要があり、現状の教員、教室、教育施設・機材等の数では対応できず、これらを増やす必要があり、航、機いずれかのコースのみを設置するにしても、教員や教育施設・機材等の配置等に課題があることが明らかとなった。
航機両用教育を片方教育と比較すれば、片方分野の専門化を図るという点においては不利であるものの、入学時に航、機いずれにするか意志が固まっていない生徒・学生も多く存在することを踏まえると、航機両方の海技資格を取得しておくことにより、就職の選択に柔軟性を持たせて就職先を確保できることは大きな利点である。また、就職率の向上は、船員を志す生徒・学生の応募者数の増大につながり、ひいては生徒・学生の質の向上や優秀な新人船員の確保にも資することとなる。
このように、航機両用教育を望む内航海運事業者が相当数存在すること、生徒・学生にとっての就職の柔軟性を確保できることなどを踏まえれば、従来どおり、航機両用教育を継続することが適当であるが、内航海運事業者の求める質の高い内航船員を供給するため、即戦力の向上をめざして、乗船実習の訓練プログラムを見直し、生徒・学生の進路に応じた選択訓練を導入することなどにより、深度化を図っていくこととする。

(イ)海上技術学校・短大の養成定員の見直し
今後の内航船員不足に対応するため、海上技術学校・短大の養成定員の見直しについて、地域の事情や内航海運業界のニーズ等を踏まえつつ、海上技術学校・短大全体としてより効率的な船員養成が可能となるよう検討する。

(ウ)内航用練習船の活用
航海訓練所においては、平成 26 年度中の就航をめざして内航用練習船の建造に着手したところであるが、内航用練習船を活用した教育訓練については、内航海運業界が求めて
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いる即戦力としての人材を養成することに主眼を置き、座学と訓練の一貫性をより強くすることが重要である。例えば、内航用練習船に搭載される機器類についての講義を座学に組み込んだり、練習船の実際の航行や作業を踏まえた視聴覚教材を開発し座学に活用するなど、海上技術学校・短大、航海訓練所それぞれが為し得ることを検討し、座学と訓練に一貫性を持たせることが必要である。
また、内航用練習船の持っている性能、機能を最大限に活かして、これまでの大型練習船では十分に実施できなかった瀬戸内海航行訓練や出入港訓練を多数取り入れるなど、内航船員を養成するための特徴のある訓練を実施することが重要である。
さらに、船員としての資質の涵養も重要な要素である。海上技術学校・短大の学生寮における団体生活、航海訓練所練習船における海上での団体生活という他に類のない教育訓練環境を一層有効に活用することが求められている。そのため、職員相互の現場見学の機会を増やしたり、生活指導に関する情報を共有したりすることなどの取組が必要である。
(エ)内航船員養成における人事交流
内航海運業界における人事交流については、内航海運事業者から海上技術学校・短大及び航海訓練所への教員の派遣は活発とは言い難く、海上技術学校・短大への教員派遣は年間1名程度に過ぎない。また、航海訓練所へは、現職船員がアドバイザーとして短期間派遣された実績はあるものの、教員としての一定期間の派遣実績はまだない状況にある。即戦力を養うためには、現場の知見を教育訓練に反映させることが不可欠であり、そのためには、内航海運事業者の現職船員が教員として教育訓練に参画することが効果的であることから、海上技術学校・短大及び航海訓練所への教員派遣について、これまで以上の理解・協力を内航海運事業者に期待するところである。
他方、海上技術学校・短大及び航海訓練所の教員が、内航の現場を経験し、教育訓練に反映させていくことも非常に重要である。これまで、定期的に両組織合わせて年間4名程度の教員に対して現場を経験させる研修を実施してきたところであるが、今後もこの取組を継続・拡大することが必要である。

(3)船員教育機関以外の新たな供給源からの人材の確保
<外航>
(ア)新3級制度拡充のための環境整備
平成 17 年度に導入された新3級制度は、外航海運事業者の社船による乗船実習を組み入れた官民共同の船員養成システムとして確実に定着しつつあり、幅広い供給源から優秀な人材を確保する観点で一定の成果を上げている。また、これまでの主流である商船系大学・

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高専に加えての船員養成の複線化により、船員教育機関間や外航海運事業者における新人船員同士で競争心理が働き、教育レベルや自己研鑽意欲の向上なども期待できることから、外航海運業界からの養成規模の拡大ニーズは年々高まっており、航海訓練所練習船のキャパシティ等を見極めつつ、課程の受入定員を上回る養成に取り組んできたところである。
今後は、こうした成果を踏まえ、新3級制度による船員養成の拡充が期待されるところであり、関係者が当該制度をより活用し易くすることが必要である。そのため、現行制度において、社船で行われるべき乗船実習の期間として6か月の実乗船を求めているところであるが、実際の実習実施日を 120 日以上確保すればよいこととし、実乗船期間を短縮することとする。
なお、この新3級制度の見直しに併せて、外航海運事業者からは、商船系大学・高専の学生に対する社船実習をより効果的なものとするため、現行の商船系大学・高専の学生の10 月の入社時期を新3級制度と同様に4月とし、学生を社員として実習させたいとの要望があったが、船員教育機関からは、社船実習が実際にはほとんど内定者にしか実施されておらず教育の平等性を保つことができないのではないかなどの指摘があり、その実施については、今後、個別に更なる検討を行う必要がある。
(イ)大学における新たな養成システム
神戸大学において検討がなされている総合大学としてのメリットを生かした新たな養成システム(Ⅳ2.(1)<外航>(イ)参照)については、他の大学又は高等専門学校からの編入学生や他学部からの転学部生に対しても海技資格を取得できる機会を与えるものであり、人材供給の幅をより広くし、優秀な人材の確保に資するものといえる。神戸大学によるこの試みを確実に実施するため、船員教育機関間における調整のほか、関係者の協力を推進する必要がある。

<内航>
(ア)水産系高校卒業者に係る資格制度改善
今後、中長期的に予想される内航船員不足に対応するためには、新たな新人船員供給源の確保に向けた取組を進める必要がある。このため、内航海運業界における新人船員の主たる供給源である海上技術学校・短大に加え、水産系高校卒業者が即戦力として活躍できるよう、内航船の運航に必要な資格要件面の改善を行うこととする。
○航海当直部員資格
ブリッジにおいて見張業務を行う甲板部乗組員に必要な資格(航海当直部員資格)につ
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いては、現行制度において、三段階に資格を区分するとともに、船舶の大きさに応じ、必要な乗組要件を定めている。船員教育機関卒業者の当該資格取得に関しては、教育内容に応じ、取得できる資格に差異を設けており、水産系高校卒業者が卒業時に取得できる資格では大型の船舶の見張要員にはなれない、小型の船舶でも単独で見張業務に就けないといった課題がある。
甲板部の見張要員に関しては、少なくとも1名以上は海技免状を有する者でなければならないことや、国際条約で定められる資格要件等を勘案し、航海当直部員資格を国際条約で要求されるレベルの資格として一本化するとともに、船舶の大きさに関わらず当該資格を有することを見張要員の要件とする等の制度改正を行うこととする。
○六級海技士資格
現行、水産系高校の本科を卒業した者が六級海技士資格を取得するためには、水産系高校在籍時の乗船履歴を含めて合計2年の乗船履歴が必要である。他方、海上技術学校の本科卒業者は、海上技術学校在籍時の乗船履歴を含めて合計8か月の乗船履歴で六級海技士資格を取得することが可能となっている。
近年、漁業界においても後継者不足問題を抱え、水産系高校卒業者が船舶職員として活躍できるよう海技資格を早期に取得させることに対するニーズが増大しており、海上技術学校本科及び水産系高校本科の教育内容等を踏まえると、六級海技士資格の付与について同等の取扱いを行うことは可能であると考えられる。
したがって、水産系高校卒業者による海技資格取得の促進は、水産系高校卒業者の就職機会の増大・多様化に寄与し、ひいては内航海運業界の人材確保にも資することに鑑み、水産系高校本科卒業者についても合計8か月の乗船履歴で六級海技士の資格を取得することを可能とする措置を講じることとする。

(イ)民間による実践的な船員養成の試み
海上技術学校・短大、水産系高校だけでなく、今後、一般高校等他の供給源からの船員確保を推進するための環境整備についても検討する必要がある。
内航海運において 500 総トン未満の小型船の占める割合は非常に高くなっているが、小型船事業者は船員教育機関の卒業者を必ずしも十分に採用できていない。
こうした中、現在、一部の小型船事業者においては、船員教育機関の卒業者以外を対象として、民間商船を活用した訓練による船員確保の取組が始まっている。計画的に新人船員を雇用・訓練する内航海運事業者に助成金を支給する「船員計画雇用促進等事業」等も活用しながら、こうした取組が進められていくことが望まれる。また、こうした取組については、現在、民間によりその拡充に向けた検討も行われており、今後、その結果も踏ま

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え、小型船事業者における新人船員の確保のための取組について、関係者間で検討していくことが必要である。

3.船員養成に関わるステークホルダー間の連携の強化
ステークホルダー間では、従来から様々な連携が行われてきているが、これをさらに充実・強化し、他の分野にみられる産学連携の進んだ事例のように、船員教育機関と海運事業者とがお互い踏み込みあって、お互い不可欠な存在として連携できるような具体的なプラン作りを関係者全体でに話し合って進めることが重要である。
(ア)現場の知見を活用した教育内容、方法の改善
現場の知見を教育訓練に組み込むため、これまでも、海運事業者による寄附講座や生徒・学生の乗船体験、海運業界から教育・訓練機関への教員の派遣、インターンシップの実施など、海運業界と教育機関の連携により取り組んできたところであるが、海運事業者が新人船員に求める資質・能力に鑑みれば、更なる実践教育を組み込むことが必要である。具体的には、教育・訓練機関から海運業界に対して、
○寄附講座に加え、正規の講座の担当
○現役船舶職員によるウェブを使用しての講演会
○カリキュラム策定に対する助言
○乗船体験の受入先の拡大
○教育教材等の提供による教育・訓練機関への支援
○COOP 教育(11)
などの取組が提案されており、今後、これらの取組を速やかに実現させる必要がある。
現場の知識・経験を教育に反映させる有効な手段としては、人事交流も挙げられる。
これまでは主として、外航海運業界から教育・訓練機関へ教員の派遣が行われてきたところである。
しかしながら、現状においては、教育・訓練機関はどのような人材の派遣を期待するのか、海運業界からはどのような人材を派遣することができるのかなど、各ステークホルダー間のニーズを鳥瞰し、それに応える形での人事交流は行われておらず、関係組織間のみでの一時的なものにとどまっている。


11 Cooperative Education :教育内容の計画段階から実施・評価までを、学内で閉じた体制ではなく、業界や他の高等教育機関を始めとする関係者との有機的連携による共同教育。
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例えば、外航海運事業者から航海訓練所への派遣においては、派遣期間が6か月程度の短期間のものがあり、派遣先での業務に慣れるまでの期間を考慮すると、人事交流が一定の成果を上げているとは言い難い事例も散見される。また、内航海運事業者と教育機関の交流においても、(2)で述べたように、人事交流が活発とは言い難い状況にある。
今後は、本検討会をフォローアップする機会等を活用して、各ステークホルダーのニーズ、人事交流に係る課題などを整理・共有し、一定の成果を生み出せる枠組みの下での効果的な人事交流をより一層活性化させていくことが必要である。
(イ)ステークホルダー間の連携による教育環境の改善
海上技術学校・短大、商船系高専、航海訓練所といった教育・訓練機関においては、より実践的な教育訓練に必要な資機材等について、更新がままならない現状が存在する。
このような状況に対応するためには、例えば、使用済み資機材の提供等、海運業界を始めとするステークホルダーによる連携が有効であり、積極的に進める必要がある。
本検討会において教材整備への支援を要望した海上技術学校・短大を始めとする教育・訓練機関においては、協力を必要とする資機材等の情報を幅広く発信し、受け入れるための環境整備を積極的に進めることとする。
また、ステークホルダー間の連携の一環として、奨学金制度に対する取組も重要である。船員教育機関からは、現行の奨学金の支給条件等についての希望も出されており、今後、関係者間における検討・調整を行うことが必要である。
特に、海上技術学校・短大については奨学金が不足していると報告されており、意欲と能力がありながら、進学を断念する生徒・学生も相当数に上ると考えられる。
その背景としては、船員教育機関の生徒・学生に対する奨学金は、歴史的な経緯より外航海運業界を中心としたステークホルダーにより担われてきたため、内航船員を志す生徒・学生向けの奨学金が不足していたことが挙げられる。
今後の内航船員不足を考えるとき、内航船員志望者向けの奨学金制度の充実は焦眉の急であると考えられる。このため、船員志望者の裾野の拡大、ひいては優秀な船員志望者の確保のためには、内航海運業界を始めとするステークホルダー間で、奨学金の拡充についての議論を進めていく必要がある。
(ウ)国の関与のあり方、受益者負担等
海洋国家である我が国が、今後とも海の恵みを享受し、海運の安定性・安全性・信頼性を確保していくためには、長期的な観点から優秀な日本人船員(海技者)の確保・育成に取り組んでいかねばならない。
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平成 19 年に施行された海洋基本法においては、海洋産業が我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上の基盤であることに鑑み、その健全な発展が図られるべきことが基本理念として謳われ、国は、効率的かつ効果的な海上輸送の確保を図るため、船員の確保・育成を行うものとされている。このことから、国は、今後とも、船員の確保・育成について、責任を持って、各種施策を進めていく必要がある。
また、同法においては、併せて、事業者や国民についても、国が実施する施策への協力を求めるとともに、国、事業者、関係団体等のステークホルダー相互間の連携及び協力を求めているところである。
このような中、航海訓練所及び海技教育機構は、平成 13 年度に独立行政法人へ移行して以後、自己収入の拡大を求められてきており、訓練負担金、授業料などを年々引き上げ、受益者負担の適正化に努めてきたところである。
しかしながら、航海訓練所及び海技教育機構に対する受益者負担については、「独立行政法人の事務・事業の見直しの基本方針」(平成 22 年 12 月 7 日閣議決定)において、「更なる受益者負担の拡大(各船員教育機関及び海運業界等からの負担の拡大)を図る」との指摘を受けたことに加えて、「独立行政法人の制度及び組織の見直しの基本方針」(平成24 年 1 月 20 日閣議決定)において、「海運業界を始めとする関係者の受益者負担について、その在り方を整理し、人的・物的協力を含む適切な負担の拡大を図っていく。」との指摘を改めて受けたところである。
これらを踏まえて、航海訓練所及び海技教育機構は更なる業務の効率化を行いつつ、航海訓練所については、船員教育機関、海運事業者等から委託される乗船実習に係る費用などを、海技教育機構については、船員再教育に係る費用や海上技術学校・短大の授業料などについて、受益者負担の適正化を図ることとする。
この受益者負担の適正化に当たっては、生徒・学生に対する新人船員養成か、雇用船員に対する再教育かなどの養成の性質、受益者の受益の度合いなどに応じて、適切にコストを反映させたものとすべきである。
また、受益者負担については、金銭的な負担に限らず、前述のような教員派遣や社船実習の拡大を図るなど、これまで述べたように人的・物的な協力という方法によっても推進していくべきである。
以上のように、今後の船員の確保・育成に当たっては、ステークホルダーそれぞれが真摯に向き合い、様々な方法により応分に負担し合うことで、産・学・官が全面的に協力し、一体となって取り組むべきである。
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社船実習の拡大・新たな社船実習の導入

3級及び4級海技士を養成する乗船実習のうち、航海訓練所練習船と同等のカリキュラムを社船により行う。

<イメージ図>
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商船系大学・高専の乗船実習の見直し

<イメージ図>
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