内航海運ビジネスモデル検討会,『これからの内航海運のビジネスモデルについて』,2006年12月
目次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅰ 内航海運の直面している課題
1.船員問題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.船舶の老朽化・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
3.安全運航等の社会的要請への対応・・・・・・・・・・・・6
Ⅱ グループ化のメリットと必要性
1.船員問題について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
2.船舶の代替建造について・・・・・・・・・・・・・・・・8
3.安全性の向上について・・・・・・・・・・・・・・・・・8
Ⅲ グループ化の方向性・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
Ⅳ グループ化に関するアンケート結果・・・・・・・・・・・11
Ⅴ 具体的なグループ化の取り組みと行政のサポート・・・・・18
Ⅵ まとめ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
はじめに
内航海運は、輸送効率性が高く環境保全の面でも優れた輸送特性を有しており、国内貨物輸送の約4割、とりわけ我が国の経済・国民生活を支える産業基礎物資(鉄鋼、石油、セメント等)の輸送の約8割を担う基幹的な物流産業である。
内航海運における産業基礎物資キャリアは、少数の元請オペレーターの傘下でその他のオペレーターやオーナーが事業活動を営むという重層的な下請構造となっており、中小零細事業者がその大部分を占めている。
従来は、こうした中小オーナーが、それぞれ輸送に必要な船員の雇用及び教育、船舶の建造及び保守管理等を行うことで必要な輸送能力を確保し、内航海運を支えてきた。
しかしながら、現在、船員の高齢化、若年船員の確保の困難化といった問題が深刻化しており、中小オーナーにあっては、優良な船員の確保が喫緊の課題となっている。また、運賃・用船料が長期にわたって低迷する中、内部留保の縮小、ファイナンス能力の不足、船価の高騰、船台確保の困難化等のため、船舶の代替建造を行うことも難しくなっている。
このまま推移すると、これまで内航海運を支えてきた中小オーナーが必要とされる輸送能力を確保することは困難となり、その結果、内航海運が、低廉かつ安全、安定な良質の輸送サービスを提供するという、産業界における本来の使命を果たしていくことが困難となりかねない。その一方で、内航海運に対するコスト削減、安全性の向上といった社会的要請は強まる傾向にあり、事業者はこれらの要請にも対応していく必要がある。
このような状況下において、複数の事業者と船舶管理会社を活用した緩やかなグループ化を行うことで、これらの課題に対して一定の成果をあげている事業者も存在している。これまでの内航海運業界にあっては、集約・協業化はその必要性が指摘されながらも十分に普及してこなかった。しかしながら、今日の内航海運を取り巻く厳しい現状にかんがみれば、グループ化の必要性を改めて見直し、従来の集約・協業化とは異なる、緩やかなグループ化という新たな
ビジネスモデルについて検討を行う必要がある。
以上の観点から、本検討会においては、先行事例を踏まえてグループ化のメリットを整理するとともに、オーナーに対する意識調査等を通じてグループ化の必要性、問題点等について考察を行い、これからの内航海運の望ましいビジネスモデルのあり方及びその推進方策について、その方向性を取りまとめた。
本検討会の成果が、より多くの事業者の意欲ある取り組みを促進し、成功事例を生み出すことで、内航海運の活性化の一助となれば幸いである。
*****1*****
Ⅰ 内航海運の直面している課題
現在、内航海運事業者は、事業の継続にあたって以下のような課題に直面しており、それらに対して的確に対応していくことが求められている。
1.船員問題
内航船員数は、昭和49年の約7万1千人から、平成16年の約3万1千人へと減少を続けている。また、不規則な勤務体制など厳しい労働環境等を背景に、近年では船員のなり手が少なくなっていること等から、45歳以上の船員が全体の62%(平成16年度)を占めているなど、船員の高齢化が顕著となっている。
従来、内航海運事業者は、海員学校からの卒業生だけでなく、外航海運や漁船から転向してくる者も採用してきた。しかしながら現在はそういった者も減り、内航船員への供給源は新卒者に限られてきた。よって、今後は、若年船員の雇用、育成、定着などの推進が、内航海運事業者の最重要課題の一つであると言える。
【グラフ:日本国内における船員数の推移】※ 旅客船員が含まれている。
*****2*****
【グラフ:内航船員の年齢構成】※ 組織船員
【グラフ:内航船員の就職者内訳の比較】船員需給総合調査結果報告書から(フェリーも含む)
*****3*****
2.船舶の老朽化
内航海運における新造船の隻数については、近年では平成5年度の325隻をピークに、平成10年度前後から大幅に減少し、平成16年度には46隻にまで減少している。この結果、現在、内航船舶の老朽化が急激に進行する傾向にあり、効率性、安全性等の観点から、船舶の代替建造を推進していくことが喫緊の課題となっている。しかしながら、バブル経済崩壊後の長引く景気の低迷等の影響を受けて、内航海運の運賃・用船料が長期にわたって低迷を続けた
こと等により、中小のオーナーの内部留保は縮小しており、また、金融機関からのファイナンスを受けることも難しくなっている。さらに、内航船の建造数の減少に伴って、内航船建造造船所数も減少しており、近年では船台の確保も困難となってきている。
これらのことから、内航海運事業者にあっては、金融機関に対する信用力の向上及び経営基盤の強化を図るとともに、船台の確保策を講じることも強く求められている。
【グラフ:船種別新造船の推移】
*****4*****
【グラフ:船齢構成の推移】
【グラフ:内航船建造造船所数の推移】
*****5*****
3.安全運航等の社会的要請への対応
近年は、タンカー業界における荷主からのISMの取得要請に代表されるように、内航海運は国際水準の安全管理等を求められる傾向にあり、今後は事業者の安全性に対する評価が重視されていくことも想定される。すなわち、内航海運事業者は、安全に対する質の向上と内容の多様化への確実な対応が求められており、船舶管理、船員教育等についてより一層の取り組みが必要となっている。
*****6*****
Ⅱ グループ化のメリットと必要性
現在の厳しい経済情勢の下において、個々の中小のオーナーでは船員問題、代替建造、安全性向上等の課題に対応することが難しくなりつつある。例えば、小規模な船主は海員学校の卒業生を雇用できていない現状にあり、また、船舶の代替建造の目途も立っていない事業者が多い。その一方で、グループ化を行うことでこれらの課題に取り組み、一定の成果をあげている事業者も存在していることから、グループ化には以下のようなメリットがあると考えられる。
1.船員問題について
今後、優良な船員を安定的に確保していくためには、若年船員を「雇用し、育成し、定着させる」ことが重要であり、そのためには、①就職先としての魅力向上、②教育の充実、③定着率の向上等の取り組みが必要である。これらについて、グループ化はそれぞれ以下のようなメリットがある。
①就職先としての魅力向上
若年船員を雇用するためには、就職先として選んでもらえるよう、業界が、また何より事業者が就職先としての魅力を高めなければならない。この点に関して、グループ化による事業規模の拡大は、事業者としての信頼性が向上すること、船員(海技者)としての職域が広がること、海員学校からの定期的な船員雇用が可能となること等のメリットが挙げられる。特に、海員学校からの定期的な船員の雇用は、事業者ヒアリングにおいて、「海員学校の卒業生は、O
Bのいる事業者を就職先として選びやすい」、「若年船員にとっては同世代の船員のいる職場が魅力的に映る」といった意見が聞かれていることから、極めて重要であると考えられる。
②教育の充実
若年船員は即戦力とするには不安がある場合が多く、教育・育成が重要な課題となっているが、中小事業者単独においてはOJTを行うとコスト高となってしまうことや、199GT、499GTの船舶では船室に余裕がないこと等の問題点が指摘されているところである。このため、中小型の船舶しか所有していない事業者は、大型船を持つ事業者とグループ化し、大型船において教育を受けた船員の供給を受けることが有用であると考えられる。また、グループ
で船員教育を行っている事業者は、「多くの船員を雇用していれば、それだけ優秀な船長(教育者)も多く、教育の質が向上する」、「1社で教育を行う場
*****7*****
合と比べ、金銭的負担が小さくてすむ」といった点もメリットとして指摘している。
③定着率の向上
雇用し、教育・育成した船員を定着させることもまた重要である。船員の離職率が高いことの要因として、休暇が不規則であること、人間関係の問題等が指摘されているが、これらの問題について、グループ化した事業者はその事業規模を活かし、定期的な休暇の付与、転船による人間関係の緩和等の対策を実施している。また、①で述べた通り、グループ化によって職場としての魅力が向上することも定着率向上に効果があると考えられる。
2.船舶の代替建造について
現在、多くの事業者において、船舶の代替建造が喫緊の課題となっており、資金及び船台の確保が必要となっている。
資金の確保にあたっては、グループ化によって事業規模の拡大・経営基盤の強化を図ることで、金融機関に対する信用力を向上することが重要である。また、金融機関のファイナンスに対する考え方が、従来の物的担保優先主義から各事業者の収益性を重視したものへと変化していることから、事業者はより信頼性の高い事業計画の作成及びコストの透明化を求められており、グループ化を行うことで、情報収集、コスト管理についての社内体制を整備することが重
要であると考えられる。
また、適正な用船料を収受することも必要である。これについては、複数の事業者とグループ化としてオペレーターに対して営業を行うことも一つの手段であると考えられる。ただし、その際には船員確保、安全管理等についての体制を整備し、オペレーターに対する信用力の向上を図ることにも留意しなければならない。
船台の確保も困難化しており、現在では船台の確保には1~3年の期間が必要と考えている事業者が多い。船台を安定的に確保するためには、複数の事業者で連携し、造船所に計画的に発注を続けることが重要である。
3.安全性の向上について
近年では、安全性の向上に対する社会的要請が高まっているが、その一方で、
海務・工務といった専門性に秀でた人材の減少が指摘されている。このため、
*****8*****
今後は海務・工務のスペシャリストを育成していく必要があり、グループ化による人材育成の組織的な取り組みはそのために有効な手法である。また、グループ化すると複数の事業者の安全ノウハウが共有され、グループとしての安全性が総合的に向上するというメリットも挙げられている。
以上のことから、今後の内航海運業界にあっては、事業者がそれぞれ抱える経営課題に対してグループとして取り組んでいくことが有効な対策と考えられる。
*****9*****
Ⅲ グループ化の方向性
グループ化の普及促進は、現在の内航海運業界が抱える課題に対応し、今後の発展を目指すために必要であると考えられる。しかしながら、これまで、集約・協業化の必要性については再三指摘されてきたものの、内航海運業界におけるグループ化は十分に普及してきたとは言えない。
グループ化が普及しない最大の要因として、「内航海運事業者は、家業として内航海運業を営んでおり、みな一国一城の主であるため、集約・協業化は難しい」という点が指摘されている。特に、集約・協業化については、「合併」を前提とした議論であったため、事業者からの抵抗が大きかったと推察される。
しかしながら、複数の事業者が、共同で、共通した課題に取り組む場合には、その形態は必ずしも合併である必要はない。近年では、複数の事業者が共同で船舶管理会社を設立して、船員雇用及び教育、船舶管理等の業務について、合理化、効率化を図っている事例も存在している。
船舶管理会社を活用したグループ化は、①合併とは異なり、個々の事業者の会社はそのまま残る(グループ化しても、引き続き一国一城の主であることに変わりはない)、②事業活動の全てをグループ化するのではなく、自社の状況に応じて必要な業務についてのみグループとして取り組むことができる(例えば、船舶の保守管理についてのみグループ化の必要性を感じている事業者同士で船舶管理会社を設立することができる)という特徴があり、従来その普及が図られてきた集約・協業化と比べて柔軟性のある形態である。
従って、今後のグループ化にあたっては、それぞれの事情や必要性に応じて、船舶管理会社を活用した緩やかなグループ化を推進していくことが望ましい。
*****10*****
Ⅳ グループ化に関するアンケート結果
現在、内航海運事業者がグループ化に対してどのような考えを持っているかについてアンケートを行った。
アンケートは内航海運業法上の登録事業者2258事業者(マンニング事業者等を除く)に対して行い、1055事業者からの回答があった(回収率は46.7%であった)。
1.グループ化の必要性
内航海運事業者に対し、船員確保、船員教育、安全確保、用船料交渉についてグループ化の必要性を感じているかについて質問したところ、1つ以上の項目についてグループ化の必要性を感じている事業者は、全体の75%程度(793事業者)にのぼった。一方、同様の質問を平成11年度に行った際には、グループ化の必要性を感じている事業者は20%に満たなかった。
すなわち、内航海運事業者にあっても、我が国の経済情勢の変化を受けた諸課題の深刻化や世代交代を受けて、グループ化に対する意識が徐々に変化しており、グループ化の必要性に対する意識は向上していると言える。
【グラフ:グループ化に対する考え方の変化】
*****11*****
2.グループ化の目的
船員確保、船員教育、安全確保、用船料交渉について、それぞれグループ化の必要性を感じているかについてアンケートを行ったところ、以下のような結果となった。
【グラフ:グループ化する目的について】
それぞれの項目において、グループ化の必要性を感じている事業者(「既に行っている」若しくは「将来的には行うことを考えている」と回答した事業者)の割合は、いずれも50%前後であった。
また、事業者によってグループ化の必要性を感じている項目の個数も異なっており、例えば、4つの項目全てについてグループ化の必要性を感じていると回答した事業者が210事業者いる一方で、1つの項目についてのみグループ化の必要性を感じていると回答した事業者も200事業者存在している。
すなわち、グループ化の必要性を感じている項目及びその個数は事業者ごとに異なっており、このアンケート結果からも、個々の事業者が目的に応じてグループ化を行うことが適切であることが分かる。
*****12*****
3.情報交換の必要性
船員確保、船台確保、代替建造時期、用船料交渉等について他の事業者との情報交換の必要性を感じているかについてのアンケート結果は、次のとおりである。
【グラフ:情報交換の必要性】
いずれの項目についても、情報交換の必要性を感じている事業者は多い。特に、船員確保及び用船料交渉については「ぜひしたい」と回答した事業者が20%以上を占めており、必要性の高さ及び問題の深刻さの高さがうかがえる結果となっている。
また、グループ化の必要性についての結果と比べて、情報交換の必要性を感じている事業者の方が多い。例えば、船員確保についてグループ化の必要性を感じている事業者は50%程度だったのに対して、情報交換の必要性を感じている事業者は90%近い数字となっている。すなわち、グループ化にまで踏み込んで考えてはいないものの、船員確保等の深刻化している問題については、情報交換の実施など、なんらかの取り組みの必要性を感じている事業者が多いと考えられる。
*****13*****
なお、こうした情報交換の実施を通じて事業者間で経営課題やグループ化の必要性についての共通認識が醸成され、グループ化の動きへと発展していくことも想定されることから、今後、事業者間の情報交換を推進していくことは重要であると考えられる。
4.グループ化のパートナー
「グループ化の必要性を感じている」と回答した事業者に対して、グループ化のパートナーの条件についてのアンケートを行ったところ、以下のような結果となった。
【グラフ:グループ化を進めるパートナーについて】
船員雇用の条件が似ていることや、古くからの付き合いがあること等を重視している事業者が多い。船員雇用の条件を重視している事業者が多いことは、船員に関するグループ化を考えている事業者が多いことが原因ではないかと考えられる。
内航海運事業者がグループ化を進めるにあたっては、同一地域の事業者や同一オペレーターのもとにいる事業者、古くから付き合いのある事業者といった、
*****14*****
まずは話をしやすい事業者とでグループ化を考えていくことが自然である。その後、例えば船員に関するグループ化を考えている事業者であれば、船員雇用の条件が似ている事業者との間で具体的なグループ化の話を進めていくことが効果的であると考えられる。
5.グループ化にあたっての問題点
「グループ化の必要性を感じている」と回答した事業者に対して、グループ化をするにあたっての問題点についてのアンケートを行ったところ、財務状況・経営方針の違いを挙げた事業者が最も多く、次に船員の雇用条件の違いを挙げた事業者が多かった。
【グラフ:グループ化にあたっての問題点について】
①財務状況の違いについて
グループ化の問題点として財務状況の違いを挙げた事業者は、「財務状況の悪い事業者とグループ化すると、自社のファイナンスが悪化するおそれがある」等の問題意識を持っていると考えられる。
この問題点について、船舶管理会社を活用した緩やかなグループ化の先行事
*****15*****
例においては、船舶管理会社と既存の会社とのリスクを分離することで解決している。すなわち、財務状況が似ているといったことは、グループ化において不可欠な要因ではないと考えられる。また、実際にこうした取り組みを行っている事業者からは、「財務状況の違いを問題視している事業者は、『グループ化=合併』の固定観念が強いのではないか」といった意見が出された。
②船員雇用の条件の違いについて
複数の事業者の船員を船舶管理会社等に集約し、一元的に管理する場合には、事業者ごとに船員の給与体系が異なること等が問題となる。この問題について、先行事例の事業者においては、「いきなり複数の給与体系等を統一するのではなく、最初は個々の事業者の給与体系等をグループ内でそのまま使用し、その後、徐々にすり合わせを行った」「給与体系については事業者間で大きな違いが無かったため、現在でも個々の事業者のものをそのまま使っている」といった取り組みを行っている。すなわち、船員雇用の条件の違いについても、事業者の創意工夫によって解決できる問題であると考えられる。
また、グループ化の問題点、グループ化のパートナーの条件については、グループ化の必要性を感じていると回答した事業者の40%以上が無回答であった。このことから、グループ化の必要性は感じているが、具体的にその問題点、パートナーの条件についてまで考える段階には至っていない事業者も相当数いることが推測される。
6.グループ化の相談窓口
グループ化の相談窓口
「グループ化の必要性を感じている」と回答した事業者に対して、グループの相談窓口の必要性についてのアンケートを行ったところ、以下の結果となった。
【グラフ:グループ化の相談窓口について】
*****16*****
グループ化の相談窓口についても、40%程度の事業者が無回答であった。
これは、そもそもグループ化の窓口についてのイメージがない事業者が多いためと考えられる。一方、無回答を除いた事業者の間では、85%程度の事業者が相談窓口の必要性を認識されている。すなわち、グループ化ついて踏み込んで考えている事業者の間ではグループ化の相談窓口の必要性は広く認識されていると考えられる。以上のことから、例えば、個々の事業者がグループ化するにあたって抱えている問題点に対して先行事例を踏まえつつ現実的な解決策を与えることができる窓口の設置は、グループ化を推進していく上で非常に重要であると考えられる。
*****17*****
Ⅴ 具体的なグループ化の取り組みと行政のサポート
行政の役割としては、船舶管理会社を活用した事業者の緩やかなグループ化を支援し、内航海運の活性化に向けて取り組んでいくことが必要である。
1.グループ化に関する情報発信
内航海運を取り巻く厳しい現状を勘案すれば、今後の内航海運業界にとってグループ化の推進は極めて重要である。しかしながら、内航海運事業者にとって、グループ化とは集約・協業化すなわち合併のイメージが強いため、それに対する抵抗は依然として大きいと推測される。そのため、行政はまず、内航海運事業者が自らを取り巻く厳しい経営環境及び自らの経営状態について的確に把握し、グループとして取り組んでいく必要性について改めて考えることがで
きるようサポートすることが必要である。そして、船舶管理会社を活用した緩やかなグループ化の形態及びそのメリットについての認識を深め、グループ化を経営のツールとして考えられるよう情報発信していくことが適切である。具体的には、
①グループ化のメリット及びそのあり方についての情報発信
②個々の抱える経営課題等に関する事業者同士の情報交換の場の設置
③グループ化に成功した事業者による説明会の開催
等の取り組みが考えられる。
2.グループ化の構成
グループ化に対して同じ目的意識、価値観を持つ事業者同士であれば、グループ化に対するハードルを下げていくことが可能であると考えられる。また、グループ化しやすい事業者同士の例として、①地縁関係の事業者、②元請オペレーターが同じ事業者、③同一船型の船舶を所有している事業者等が考えられ、このような事業者を引き合わせることもグループ化を普及促進するうえで効果的であると考えられる。行政はグループ化に対して意欲的な事業者を集めた意
見交換会を開催することでサポートすることが適切である。
3.グループ化を通じた船員の確保育成
グループ化による船員の募集採用、配乗と教育訓練は、一部で取り組みが始まったばかりである。しかしながら、これは内航海運の働く場としての魅力を向上させ、ひいては質の高い船員の確保につながると考えられ、今後、グループ化と船員の採用が進展することが期待される。行政はこの面でのグループ化の効果を評価したうえで、船員政策の視点からもグループ化をサポートするこ
*****18*****
とが適切である。その際、資格や技能のステップアップのためのグループ化による研修・教育に対する支援、船員派遣事業の振興やよりよい制度の導入について検討を進めることが適当である。
*****19*****
Ⅵ まとめ
グループ化は、船員確保、船舶の代替建造、安全確保等、内航海運事業者が抱える今日的な課題に対応していくうえで、極めて有効な経営ツールである。
グループ化の形態については、従来その必要性が指摘されてきた合併を前提とした集約・協業化ではなく、個々の事業者が、船舶管理会社の活用等によって、目的に応じてグループ化を行っていくことが合理的かつ現実的であると考えられ、実際にそういった取り組みを行っている事業者も存在している。
このため、今後の内航海運業界にあっては、個々の事業者が自らの経営状態及びグループ化のメリット等について的確に把握し、共通の問題意識、グループ化の価値観を有している事業者とのグループ化を図っていくことが重要である。また、その際に問題点となりうる事項については、先行事例を参考にしつつ、解消に向けて取り組んでいくことが適当であり、行政は事業者のグループ化に向けて、関係者と協力してその実現に取り組むべきである。
内航海運事業者の間でも、徐々にグループ化への関心が高まってきているところであり、本報告書がグループ化の普及促進、ひいては内航海運の活性化への端緒となれば幸いである。
*****20*****