199912 内航海運の船舶管理(小山 健夫)

文献概要

タイトル:『内航海運の船舶管理』

筆者:(株)日本海洋科学技術研究所 代表 小山健夫

文献名:海運,pp.36-39,1999.12.

内容

はじめに

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海上輸送体制の変化

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品質管理の重要性

ISMコードの基本要件はわずか六項目に過ぎない。従来の法規制に慣れた立場からは当惑せざるを得ないかもしれないが、これが最近良く使われるようになった「機能要件」の考え方である。組織に対し基本条件を提示し、それを実現するための方法は事業主体に任せている。ISMコードの場合、Companyがそれぞれの船に対し機能要件を達成し得るShip Management System(SMS)を策定し、そのシステムの審査を船籍国が行うという形をとっている。日本ではこの審査を日本海事協会が代行している。

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近代的品質管理は本来的に自立性をもつものであり、他から強制されるものではない。強制されるから仕方なく行う、さらには供給水準を最低限のレベルで実現するという態度では効果が現れず、いずれは競争力を失い取り残されてしまう。ISMコードは世界の品質管理の流れを汲んだ新しい方式の機能要件である。一部にはマニュアルを整備することがこの規制を満たすことである。あるいはマニュアルさえ整備すれば要件を満たすと言う理解があるが、これは全くの誤解である。マニュアル整備は一つの方法論であり、それだけでは本来の目的を達成することは出来ない。品質向上は企業にとっても有効なものでなければならず、それによって競争力が向上するような自律的仕組みをいかにして作り上げるかとうことが真の課題である。この意味においてISMコードは外航の問題にとどまらず、規制の有無に拘らず内航でも取組まなければならない課題である。

品質管理で強調されるのはPDCAサイクルの確立である。よく見られる誤解はPlan-Do-Check-Actのサイクルを、「計画した、実施した、実施結果をチェックした、不適合があったのでこれを是正した」という対応である。これはいわゆる「現場合わせ」の対応であり、品質管理では最も忌み嫌われる。例えばポートステートコントロールで不適合を指摘された時、その場で何とか対応する。しかし、対応が出来たのだからもうよいではないかといっても許してもらえない。おかしいではないかと普通は思う。しかしこれではまずいのであり、なぜ不適合が生じたかを考え再びこのようなことを起こさないためには何をなすべきかを考える行為がActである。

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船舶管理の事例

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おわりに

ISMコードは外航船が対象であり、内航船には関係がないという見方が多いが、実は内航船にも大変大きな課題であるということを強調した。その本質は近代的品質管理技術の導入であり、規制というよりはむしろ自発的に採用しその効果を先取りすべき性質のものである。

あらゆる規制の本来の姿かもしれないが、積極的に取組んだ者が良い結果を享受できる形を構造的に含んだ新しい形の機能要件であると言える。規制として捉えてそれを最低限に満たそうとすればかえって企業体力は弱まり、正しくその目的を捉えて対応すれば企業体力が強化され、結果として本来の目的である航行安全と環境保護が達成できる。

内航海運の世界は、長年総体的に弱体な船主が巨大企業に代表される荷主と対峙してきた歴史をもつ。日本社会の大動脈として内航海運の必要性に疑問はない。その健全育成が必要であるとされ様々な助成策がとられてきた。しかし、結果としては弱体化が進行し巨大荷主は弱体船主に「箸のあげ下げ」まで指示しなければならない状況である。

荷主にとってみても、信頼できるロジスティックサービスが存在し、妥当な運賃で安心して任せられるならば、本業に徹することが出来る。振返ってみるといつのまにか内航海運を取巻く世界は大きく様変わりしている。今やサプライチェーンの世界であり、信頼できる機能要素をつなぎ合わせて仕事をする時代になっている。各種機能要素は責任をもってそれぞれのサービス向上に努めることが求められている。

欧州流の船舶管理会社の事例を見ても、船舶管理業務の規模の経済効果はかなり大きく、小規模船主個別では対応できなくなっている。一方で船腹調整事業がなくなり、営業権という無形の資産が消滅した。これからは資金調達と船舶管理技術を合わせた従来型船主業務は分化せざるないのではないか。内航海運の必要性は不滅であるという自信をもち大胆な構造革新に向かうことが望まれる。

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