197201 内航海運(山田福太郎)

山田福太郎:海運経営実務講座<14>内航海運,海文堂出版,1972.1.

  1. p29:また裸用船契約については、貸渡業者が単にほかの貸渡業者に船員の配乗を依頼する行為、いわゆるマンニングは、貸渡業本来の適格条件に相反するものとして禁じられている。すなわち船員の配乗も行なうことのできない、単なる船主を排除しようとしているのである。このため従来から引続き行なわれてきたものは例外として認めるが、新造船の場合は運送業を兼営するものが貸渡し先で船員の配乗を行ない、再用船して自らの内航運送業に使用する場合に限られることとされたのである。
  2. pp.30-32:(2) 業界の秩序の確立
    (a) 秩序確立のしくみ
    内航海運は大は外航大手海運会社の内航部門から小は地方の木船一ぱい船主にわたり、しかも総体的には多数零細企業の乱立という、きわめて組織化の困難な業界である。このため業法によって、事業の限定登録制(のちに許可制)、内航使用船舶の登録制(業法第3条)という大きなタガをはめ、組合法によって、海運組合の組織、組合の調整事業、協同事業および団体協約を合法化し(組合法第8,9条)、業法の団結を強化することにより、その秩序を確立して多数零細企業の乱立による弊害を除こうとしているのである。さらに海運組合は加および脱退が自由とされている(組合法第5条2)ことから、組合に加入せずアウトサイダー(Outsider)として活躍するものの不当ダンピングなどによって、組合の調整事業の実効を上げることが困難と認められる場合は、運輸大臣がアウトサイダーを含むすべての内航海運業者に対し、一定の制限を設けてこれに従うべきことを命ずることができるという、事業活動の規制命令(組合法第59,60条)が設けられている。
    なお昭和44年9月には事業の適正規模化を目的として、登録制から許可制に切りかえが実施され、とくに内航運送業に対しては保有船腹および所有船腹の最低基準が設けられたのである(業法第6条第1項)。
    (b)登録制と許可制の意義
    一般に企業法が制定される場合、免許制、許可制、登録制、届出制など各種の制度がとられる。これはその事業のもっている公共性、公衆とのむすびつきの程度、あるいは事後湯の実体などによってきめられる。内航海運業に当初登録制が採用された理由について、解説内航2法では次のように述べている。「内航海運業は国民経済に直接つながりをもち、経済的にも社会的にもきわめて重要な事業であることはいうまでもないが、どちらかといえば商取引の世界における事業であり、国民の日常生活に対しては間接的関係に立つものと言わざるを得ない。したがって一般には公衆を保護するという見地からとられる免許制あるいは許可制を採用することはどうかと考えられる。一方実体の把握を主目的とした届出制をとるには、それ以上に内航海運の公益性が高いということで、その中間にある登録制を採用した。」しかし実際には、小型船海運業法から受けつがれた「当該事業を遂行するに必要な能力および資力信用を有しない者」(業法第6条第1項4)という登録拒否要件によって実質的に「許可」に近い効力をもつものであった。42年業法改正に当って、登録制から許可制に改正された理由は、内航海運業の公共性はいうまでもないが、登録制のもとでは企業の零細性、企業基盤のぜい弱性がなお克服されないとして、内航海運の適正規模化を計ることに重点が置かれたのである。
    前述のように登録制のもとにおいても一応許可制に近い効力があったにもかかわらず、あえて許可制がとられたのは、内航海運業の再建のためには、業者の適正規模化をはかることが是非とも必要であると判断されたからに他ならない。
    適正規模化にあたっては、内航海運業は運送業、運送取扱業、貸船業の三つに大別されるが、実際に船舶を運航する運送人として運送業がこの中の中核的な地位を占めているので、まず運送業者を中心に事業の適正規模化を進めて行くこととし、貸船業者に対しては運送業者との用船関係、運送取扱業者に対しては荷主および運送業者との責任関係を通じて、企業の体質強化を図るということが骨子となったのである。
    運送業者の許可基準の基幹としての保有船腹量は、運輸省令(42年3月)で次のように定められている。
    内航海運業の許可基準船腹量  単位:総トン

    事業の区分 基準船腹量 事業区分 摘要
    1.総トン数500トン以上の鋼船を使用して営む事業(4の事業を除く) 5,000 一号事業者

    1.所有船腹比率総トン数で使用船腹の20%以上

    2.使用船腹は原則として3隻以上とする。

    2.総トン数300トン以上,500トン未満の鋼船を使用して営む事業(1および4の事業を除く) 2,000 二号事業者
    3.総トン数300トン未満の鋼船を使用して営む事業(1,2および4の事業を除く) 1,000 三号事業者
    4.平水区域を航行区域とする船舶,木船,はしけのみを使用して営む事業 四号事業者

    注 離島航路において,もっぱら生活必需物資の運送を行なうもの。

    および1の特定のものの需要に応じ,特定の航路において,特定の貨物の運送を行うもの。
    については,とくに船腹量の定めはない。

    離島事業者

    その他河川沼等の事業も別に区別される。

    指定事業
    (業種区分と摘要とは,筆者が付け加えた。)
  3. その際の考え方としてはおよそ次のようなことが考慮された。
    i)将来の内航の基幹航路では、特殊な専用船を除いて、一般船では2,000総トン程度の船型が標準的なものとなり、地方航路では500総トン程度の船型が標準的なものになると予想される。
    ii)運送業者としては最低4~5隻の船舶を運航し、適切な配船体制をととのえさせる必要がある。
    iii)上記の理由から、中堅企業として安定した輸送力、対外的信用力を有するものは、約1万総トン程度の運航規模とすべきであるが、一挙にそれまで拡大するのは無理があるので、段階的に拡大をはかる必要がある。
    などのことが考慮され、上記の許可基準量が定められたのである。(運輸省内航法規研究会編「内航海運業法の解説」による。)
    また42年8月の海運局長通達では、運送業者の許可基準として
    i)使用船舶のうち所有船の比率が総トン数で20%以上を占めることを要する。
    ii)使用船舶は原則として3隻以上であることを要し、1隻では認めないこととする。
    などのことが付け加えられた。これは自社船を有しない用船のみによる運送業者では、市況が悪化した場合、用船料を抑えることのみによって運賃の切り崩しが行われる恐れがあり、また運送業者として輸送サービスを全うするには、少なくとも3隻以上が必要であるとされたためである。(同じく「内航海運業の解説」による。)
    許可制は2年半の猶予期間を経て44年9月に実施されたが、この結果、従来から取扱業者を通じて荷物の供給を受けていた零細運送業者は大半が貸船業者に転化することになり、これを運送業者が集めて一つの集団をなす形で内航海運のグループ化が行われることになった。
    しかしながら荷主関係の運賃交渉の窓口として運送取扱業者の存在を無視することはできない。運送業者が兼業として行なう運送取扱業務については、本質的には運送業者の行為と変わるなく、支配下船によるか、他の運送業者からのトリップによるのかの違いしかないが、運送取扱業を専業とする元請業者は、業者自身が荷主と運賃交渉を行なう窓口になるので、運送業者のみを厳しく規制してもその効果が十分に期待できないというきらいがある。

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